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World cuisine おいしい世界  作者: SAI
第一章
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2.食材を手に入れる

 結界の外の森は今、白い小さな花をつけたミルンパが満開だ。

風が吹くたびに白い花がハラハラと散り幻想的な風景を醸し出している。

ミルンパは魔力を持たない木だ。

話しかけてくることもないし、

ブンの木のように枝を振り回すこともない。

ミルンパの木の間をブンの木の気を逸らすための動物を探しながら歩いて行く。


ヒューイはどうだろう?


魔力を持たない動物でわりとよく遭遇する。

20㎝くらいの小型動物で木や葉っぱに擬態しながら

のんびりと生活している草食動物だ。

普段は殆ど木の上で生活しているが、私の魔法で宙に浮かせて目の前に置けばブンの木も興味を持つのではないだろうか。

ヒューイはいくら木の上で生活するとはいえ、

ブンの木には近づくこともないだろう。


まぁ、私の魔力ではヒューイを浮かせていられるのはせいぜい5分程度だけれど。


「せめてランク5くらいまで魔力があれば・・・」


どんなに食材を集めるのが楽になるのだろうと思うと、自然とそんな言葉が口をついた。



この世界は魔力があって当然の世界だ。


魔力は10段階にランク分けされる。ランク1~5までが平民で世界の人口の8割を占めている。

ランク6以上は貴族であり、ランクが高ければ高いほど貴族としての地位は高くなる。


魔力は遺伝するので貴族は貴族同士結婚するが、まれに平民でも高い魔力を持って産まれる子供がいる。

高い魔力を持った子供は魔力ランクが分かった時点で、その魔力にふさわしい貴族のもとへ養子に出される。そうやって平民と貴族はきっちり魔力ランクで分けられるのだ。


養子に出されるのは嫌だからランク6まではいらないけれど、ランク5は素晴らしい。ランク5を持つ平民は僅かだ。平民でありながら強い魔力を持つ彼らは遠くの町まで行く商人になったり、冒険者になったり、狩人になったり、用心棒になったり。とにかく自由に世界を回る職業に就くことが多い。

ランク5以外がそういう職種についてはいけないという法律はないが、魔物がいるこの世界では魔力が少なければ町の外へ出るのは危険がありすぎるのだ。


ちなみに、貴族は国のために働く職業に就くのが美徳とされている。



世界中をめぐって色々な食材を手に入れたい。

手に入れて夢の中のあのレシピをすべて再現したい。あの料理たちをもう一度味わいたい。そして、いずれはあの料理を超える料理を作って食べるのだ!そう心に決めているこの私の魔力ランクが


「まさか1だとは・・・」


はぁぁぁ、と本日二度のため息をついた。




 ヒューイを探しつつ森の奥へと足を進めてゆく。

注意深く枝を見上げていると私の頭より少し高いところで長い耳を垂らしてヒューイがうたた寝をしていた。擬態も半分解けたようになっており、今にも落ちそうである。


なんというか、ものすごく呑気なやつだな。


呆れつつ、背中に背負っていた籠を腕に抱えヒューイをチョンっと押せばヒューイは簡単に籠の中に落ちた。籠の中でまだ眠っている。魔力もないのにこんなに簡単に捕まってこの生態は大丈夫なのだろうか。

そんなことを思っていると、ブンブンと空気を切り裂くような音が聞こえてきた。


ブンの木の近くまで来たらしい。



背丈ほどある草をかきわけるとその先に開かれた場所があり、中央に一心不乱に枝を振り回している木があった。3メートルほどの高さのある木が枝を鞭のようにしならせている。やわらかな日差しがふりそそぎ、小鳥がさえずるおだやかな午前に一心不乱に枝を振り回すその姿は異様だ。


「さて、はじめるか。」


作戦はこうだ。

ブンの木の枝が届かないギリギリの距離にヒューイを浮かべる。ブンの木がヒューイに気をとられ動きを止める。ブンの木は一度動きを止めれば3分間は動かないという。動かないというか動けないのだ。

動くことで魔力を消費してゆくブンの木は、一度動きを止めるとまた動き出すための魔力をすぐには用意できない。稼働するための魔力を用意するのに最低3分はかかるのだ。


その3分の間にシューピンで上昇し木の実を採る。魔力ランクは低いが、運動神経はいい方なのだ。シューピンの扱いなどお手の物だ。



ブンの木の枝が届かないギリギリまで行くと草の上にシューピンと籠を下した。そうっと籠の蓋を開けると、ヒューイはまだ眠っている。


ありがたい。

魔力を使って宙に上げる際に暴れられては、上昇結界を維持するのも大変だ。


ブンの木を見上げる。

振り回された枝によって起こされる風たちが私の髪の毛をもちゃもちゃにしようと飛びかかってくる。

こんなに枝を振り回しているのに木の実が飛んでこないのが不思議だ。振り回される枝に目を凝らし、木の実の位置を確認する。


なるべくたくさん実をつけている枝がいい。


「よしっ」


軽く息を吐いて気合をいれるとシューピンに片足を乗せ臨戦態勢に入った。ヒューイへ視線を向け右手をかざす。


「ナキサイウ」


私が呪文を唱えるのと同時に微かな気配を感じた気がした。が、今はそれどころではない。ヒューイがフワッと浮き、ブンの木の周りをゆっくり回り始める。私がヒューイを浮かせていられる時間は約5分。その5分間でブンの木の気を引かねばならない。

注意を引くようにヒューイをブンの木に近づけては少し離すのを繰り返す。4回繰り返してもまだ反応はない。


だめか?


そう思った時、ヒューイが目を覚まして暴れだし、キューン!と高い声をあげた。


パンっ!


小さな破裂音がしてヒューイを包んでいた結界が割れる。ブンの木がパタッと動きを止めた。今だ!

私は片足で軽く地面を蹴るとシューピンに乗った。姿勢を低くしスピードを上げて上昇する。目指すは実をたくさんつけた枝だ。手のひらサイズの実がしっかりと枝にくっついている。一つ一つ丁寧に素早くナイフで切り取っては籠の方へ投げる。ブンの木の実を採るなど、この先あまりやりたくはない。この機会になるべく多く実を採っておこうと次の実に手を伸ばした瞬間、ピクッと枝が動いた。


しまった!


そう思った時には目の前に枝が迫っていた。体を縮めて最初の一振りをかわす。二振り目は右前方から斜め上に枝が走ったので右腕を楯にしてかわした。背後で最初の一振り目が撓りながら戻ってくる気配がする。シューピンに左へ行くように体重を乗せブンの木から離脱をはかった時、右目付近に枝が見えた。


「あぶないっ!!」


鋭い声が響く。右手でガードするにはしたが枝の威力は強く、ガードを弾いて体ごと投げ出された。

草の上を転がりながらブンの木から遠ざかろうと体を捻る。私を追いかけるように枝が迫ってくる。

迫ってくる攻撃から身を守ろうと両腕で体をガードする。


この一撃を耐えれば逃れられるはずだ。



「リナマサイ!!」


背後から大きな声が聞こえた。声と共に青白い光がブンの木を包み込み、ブンの木はピタッと動きをとめた。


「お、ラッキー。」


もう一撃くらわずに済んだ。思わず口にしながら、呪文の主にお礼を言おうと振り向けば、怒涛の文句が降ってきた。


「一体何を考えているんだ!?ブンの木に近づいていく者がいるから、せめて魔力ランク3以上の狩人か何かかと見ていれば、ブンの木に攻撃されて必死に避けておるし。そもそも、呪文でブンの木の動きを止めてから木の実の採取をするべきだろう?」


「その呪文、使えるならば使いますよ・・・」


「ブンの木は魔力ランク3だ。同等の魔力ランクがあれば簡単に使えるは・・・」


そこまで言って私の顔を見るなり青年は叫んだ。



「か、顔ーっっ!!」



 やかましい青年だ。

治癒をするから座る様にと促され、座って目を閉じている。温かな光が顔の右側にそっと触れ、その部分だけ体温が上昇する感じがした。その後すぅっと熱が引いてゆく。どうやらブンの木の攻撃を右目付近にくらったせいで、顔半分が赤黒く腫れてきていたらしい。


「もう目を開けてもよいぞ。」


「どうもありがとうございます。助かりました。」


目を開けると驚いたように目を少し大きくした青年の顔が目に入った。金色のサラッとした髪の毛を後ろで一つにまとめ、髪の毛より少し濃いブラウンの目。腰に剣を挿し国章が刺繍されたマントを纏っているのを見れば騎士団の一員なのだとわかる。騎士団に入団できるのだから魔力ランクは7以上あるのだろう。身長は170cmぐらい。細身の体とクリッとした二重のあどけない表情をみて15歳くらいかと想像した。


「ブンの木相手にあんな戦い方をしていたくらいだ。たいして魔力もないのだろうに、なぜあのようなことを?」


「お菓子を作るのにどうしても必要だったのです。」


「ブンの木の実を使った菓子?薬ではなく菓子か?聞いたことがないな。」


青年はうーんと首を捻った。私は足元に転がっている木の実を拾いながら答えた。


「クッキーと言って、それはそれは美味しいお菓子なのですよ。」


拾った木の実を籠に入れてまた次の木の実を拾う。木の実を拾いながら私は夢中でクッキーの美味しさを語った。


「ふんわりサクッとした食感、羊乳凝の香り、ポン花の蜜の甘さにブンの木の実の香ばしさ。

全てがそれぞれを邪魔せず美味しさとなって食べた者へ降り注いでくるのです!!・・・だぶん。」


まだ作ってはないからわからないけど、きっとそうなるはずだ。


「それはおいしそうだな。私もぜひ食べてみたい。」


そんな声を聞いたような気がしたが、材料が手に入ったのならすぐ作りたい!食べたい!の気持ちに支配された私の頭はあっさりその言葉を放置した。


「本当に助かりました。こんなにたくさん木の実が手に入って大満足です。」


とにっこり微笑み、頭を下げると素早くシューピンに乗りその場を後にした。



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