15.二度目のピクニック
町へ行くのではないからと魔女ポンチョなしの動きやすい服を着て待ち合わせ場所へ行くとジェイスは切った木を2mくらいの長さに切ってまとめているところだった。
「おーい。」
と呼べばジェイスが振り返っていそいそとやってくる。お腹が減っているのだろう。
駆け寄ってくる姿はご主人様に寄ってくる犬のようだ。
「レイはまだか?」
「レイ?まさか、あの貴族様のことか!?いつの間にそんな仲になったんだよ!」
ジェイスの剣幕にしまった、と思った。ジェイスは時々すごく口うるさくなる。
「仲って。食べ物好き仲間になっただけだよ。」
「だからって呼び捨てにするとは・・・。相手は貴族なんだぞ。
無礼だの一言で極刑にすることだって出来るんだぞ!」
「そんなこと言ったって、ほ」
言いかけた言葉を制するようにジェイスがまくしたてる。
「だいたい、あの騎士様はジェンダーソン家のご子息なんだ。ジェンダーソン家つったら侯爵家。
貴族の中でも上位に位置する。どう見積もっても魔力ランクだって8はあるはずだ。
そんな人を呼び捨てだなんて・・・恐ろしいっ!」
「だから、本人の希望なんだって!!」
ようやくジェイスの耳に私の言葉が届いたらしい。
「本人の希望!?」
なぜだ?と首をかしげつつも、本人の希望なら仕方ないか、と呟いた。
「いいか、他の人の前では呼び捨てはダメだぞ。なに言われるかわからんからな!」
ジェイスがきつく言うので、頷くしかなかった。
不意に草の上に大きな影が出来て、飛獣石からレイが下りてきた。
羽の力で草がザザッと音を立てた後、飛獣石がレイのブレスレットに戻った。
「待った?」
そう言って軽く頭を傾けたその仕草がなんと絵になることだろう。
これが貴族というものか。ジェイスとは大違いだ。
先ほど犬コロのように駆け寄ってきたジェイスの姿を思い、ははは、と目を細めた。
「いや、私もさっき来たところだ。」
となりでジェイスがその言葉遣いはなんだと口をパクパクさせているが気づかないことにする。
「こんにちは、騎士様。」
「どうも。」
二人が挨拶したのを見届けて「さぁ、ご飯にしようっ」と準備をはじめた。
「今日のご飯はなんだ?」
ジェイスがソワソワしながらリュックの中を覗き込んでくる。
「今日はハンバーガーにしたんだ。」
「ハンバーガー!?」
今度はレイも私の手元を覗き込んでくる。
「ミンチにしたお肉を混ぜて丸めて焼いたものをパンで挟んだ食べ物だよ。どうぞ。」
私が二人に紙に包んだハンバーガーを渡すと、ふたりは興味津々で包みを開けている。
その間にフルーツとキョクの花茶も用意した。
「おぉ、うまい!」
ハンバーガーを食べたジェイスが声をあげる。
レイはジェイスの言葉に同意するようにウンウン頷いた。
「パンなのに食べ応えもあるし、ミンチにしたことで肉の旨みが存分に味わえるな。」
レイは相変わらず素晴らしいコメントである。
「そうだろう?前に作った時にこの肉はパンに合うに違いないと思ったんだ。
これ一つで野菜も肉もパンも摂取できるし、お弁当には最適だろう。」
私は得意げにフフンと笑った。
たくさんあるよ、と言ってリュックからハンバーガーを4つ取り出すとジェイスはわかりやすく喜び、レイはもうひとついただこう、とニコっとした。
「んで、俺に相談ってなんだ?」
ジェイスが二つ目のハンバーガーにかぶりつきながら聞いてくる。
私は眠り薬を丸めた眠り玉を作ったこと、それを飛ばす弓のような道具が欲しいことを説明した。
「弓か。なるほど。それなら魔力がなくても遠くまで飛ばすことができるな。」
レイがそう言うと、ジェイスは突然私の頭をグリグリ(なでなで)した。
「なんだよ。やめろよ。」
その手を掴んでやめさせる。
「俺はお前が自分を守る武器を手に入れたことが嬉しいんだよ。ほんと危なっかしいんだから。
ちょっと待ってろ、今、簡易的な物をちゃちゃっと作るから、試してみよう。弦は持ってるか?」
「うん、ノビーの木の皮を持ってきた。丈夫で伸び縮みするし、いいんじゃないかと。」
ノビーの木は魔力を持たない木だが、その皮は丈夫で伸び縮みすることから何かをまとめる際や、袋の封をする時になどによく使われる一般的なものだ。
「よし、ちょっと待ってろ。」
ジェイスはそういうとノビーの木の皮を持って先ほどジェイスが気をまとめていた場所へと駆けてった。
「ライファはなんで武器なんか欲しがるんだ?ここで暮らしていればそんなに危険はないんじゃないか?」
ジェイスが駆けていく後姿をなんとなく見ているとレイが話しかけてきた。
「私は世界を旅していろんな食材を手に入れたいんだ。
その食材で誰も食べたことのないような料理を作って食べる。楽しそうだろ?」
「怖くはないのか?その・・・」
レイが口ごもる。その魔力ランクで旅をすることが怖くないのかということだろう。
「怖く・・・なくはない。だけど、魔力ランクが格下でも、戦い方によってはちゃんと戦うことができることを私は知っている。」
ニヤリと笑うと、レイが目を細めた。
その時、レイの肩に虫がついているのが見えた。
「あ、肩に虫。」
私がレイの肩を指さすと、レイが硬直した。
「虫、だめなんだ。ライファ、たすけて。」
青白い顔でヒクヒクしている。これ、本当に虫がダメな人の反応だ。
ライファは可笑しくてつい噴き出した。
「わ、わらうなっ、ライファ、早く!!」
「わかった、わかった。大丈夫だから。怖いなら目でも閉じてて。」
そう言うとレイが素直に目を閉じた。肩の虫を取って草むらに放る。
レイはまだ目を閉じたままだ。目を閉じているとそのまつ毛の長さが余計に目立つ。
後ろでひとつにまとめてはいるものの結びきれていない横髪が風に揺れてレイの唇にかかった。
思わず髪の毛をどかそうとレイの頬に触れる。レイの目が開いた。
「ライファ?」
「レイは美人さんだな。って男に美人ってのも変か。」
私が笑うと今度はレイの手が私の頬に触れた。
「ライファこそ・・・。」
レイの親指が私の頬をそっと撫でる。
「ほら、できたぞーっ。」
ジェイスの声に振り返った。
「何してんだ?」
「あぁ、虫がくっついてたから取っただけだ。」
私の代わりにレイが答えて、私はジェイスが作ってくれた弓を受け取った。
ジェイスが作ってくれたのは、半円型に曲がった木の両端にノビーの木皮を結んだものだ。
弓よりも小さく、20cmくらいの大きさにしてある。
「持ち運びを考えて小さくした。矢みたいに長いものを飛ばすわけでもないし、この大きさでも大丈夫だと思うんだが。」
「試してみる。」
眠り玉と同じくらいの大きさの石を拾い、小さい弓を構え3m先の木を狙ってみる。
「うぉうっ」
私の声と共にジェイスが避けた。
本物の弓のように構えて撃ったのはいいが、石が弓の木の部分に当たって跳ね返り私の背後にいたジェイスに飛んできたのだ。
「すまん、ジェイス。」
「おぉぅ、ダメそうだな。」
ジェイスは引きつった笑みをうかべた。
そこからは会議と試作、試し打ちの繰り返しだった。
レイの発案で弓を地面とは水平に持ち撃ってみるも、やはり弓の持ち手が邪魔なうえにコントロールも安定せず却下になった。
弓に持ち手をつければいいんじゃないかとジェイスが言いだし、弓の真ん中に持ち手をつけた。
縦に持つには持ち手への負担が大きかったが、横にして持ち手を掴となかなかいい感じだった。
この形なら弓の両端をもっと短くしてもいいかもとお願いしてまたジェイスに作ってもらう。
最終的にアルファベットのYのような形のものが出来上がった。
試し打ちをしてみると、石は持ち手も邪魔にならずに簡単に前に飛び、3m先の木にぶつかった。
「「「よしっ!」」」
私はガッツポーズをして喜んだ。
これで武器の完成だ!あとは命中率をアップさせてゆくだけ。これで夢へとまた大きく前進したのだ。
「ありがとう、ふたりとも。」
「良かったな。」
「おう、お礼はクッキーでいいぜ。」
ジェイスの言葉に思い出した。
「あっ、クッキー作ってきたんだよ、忘れてた。」
武器づくりに夢中になっていたお蔭でもうすぐ日も暮れそうだ。
「のんびりお茶する時間、なくなっちゃったな。」
私はそう言い、お土産にと二人にクッキーを渡した。
「やばっ、俺もう行かないと。」
ジェイスは魔法で木を浮かせると大きな箱に入れていった。大きいと言っても1m四方くらいの大きさだ。
その箱をぎゅっと小さくすると背中に背負った。
「俺、もう行くわ。これ、ありがとな。騎士様も、また。」
そんなジェイスにレイは「これ、やるよ。」と小さな箱を出した
。
「王都で流行っている菓子だ。みんなで食べようと持ってきたんだが時間がなくなったからな。」
「おぉぉぉぉ、ありがとうございます!大事に食べます!!」
思いもしなかったお土産に大げさなくらい感動してジェイスは帰って行った。
ジェイスが去ったあと、レイは私の方をみた。
「ライファにもあるぞ。」
マジか!
さすが食べ物好きの会メンバー。素晴らしい気遣いだ!
そんなことを思っていると嬉しさが顔に出ていたのかレイが噴き出した。
「ライファ、わかりやすっ。」
お、おう。年下にわかりやすいと言われるとは。でも、まぁ、嬉しいものは嬉しい。
「ありがとう。」
素直に言葉にするとレイも嬉しそうに笑う。
「そうだ、実は今日、これを渡しにきたんだ。」
レイが私に渡したのは、王家の紋章の入った封筒だった。
「なぜに王家の紋章入りの手紙が・・・。」
何かしたか、と恐る恐る封筒を見る私に「悪いものじゃないから大丈夫だよ。」とレイが言う。
レイの言葉に少しホッとして封筒をリュックにしまった。
「さて、そろそろ帰らないと。ライファ、家まで送るよ。」
「家まで近いからここで大丈夫。今日は本当にありがとう。お礼は」
「お礼は今度会う時までに考えておくよ。」
レイがいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「わかった。じゃぁ、その時に。」
私はレイに手を振ると家の方へ歩き出した。
次回は【国王からの手紙】です。




