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トリプリ!  作者: 瑠璃
1/7

小道の導くままに


「え?!応募忘れてた??」

「違うわよ、応募の期間が知らない間に過ぎてたのよー」

洞窟の中を匍匐前進するような受験勉強を乗り越えて、柊めいはずっと憧れていた高校に合格した。その名も虹色学園。その魅力は全寮制の高校であることと、制服がとても可愛いということ。歴史のある校舎に、専属の庭師が毎日手入れをすると噂の庭園。その中にある噴水の前に虹がかかるとき、愛を誓い合った二人は永遠に幸せになると言われている。私もいつか・・・とまでは思わないけれど、そんなジンクスが伝わる雰囲気が素敵だとめいは感じていた。そんな憧れの学園へ、今日はついに引っ越しをする日。

「ど、どういうこと??私学校に通えないの?!」

もう一度確認するけれど虹色学園は全寮制。いかなる場合も寮からの登校が義務付けられている。

「大丈夫よ、女子寮の桃寮の受け付けは終わっちゃってたんだけどね、ちょうど気づいた日に受付してた寮に応募しておいたから!」

そう答えたのはめいの叔母だ。

「ど、どういうこと?女子寮は桃寮しかないはずだけど・・・。」

「さぁ・・・よくわからない!」

語尾にハートか音符が浮いて見える。

「わ、分からないって・・・!」

「どこでもいいじゃないの!憧れてた学園に入学できるんだし。しかも今は“王子様”が4人もいるらしいじゃない!」

「そ、それはそうだけど・・・でも住むところはどこでもよくないよ!」

虹色学園には“王子様”または“王女様”が存在する。もともとお金持ち学校である虹色学園だが、その中でも飛びぬけて家柄がよく、容姿端麗眉目秀麗かつ一定の条件をクリアした人だけが、学校からの特例で一般の寮には住まずに、家からの通学が許可されているらしい。それが通称“王子様”。みんな政治家の息子とか誰でも知っている会社の時期社長候補とかだっていう噂だ。だから王子様と学園生活を過ごしながら将来は自分が結婚相手になりたい思う人たちも少なくない。家から通う特例は、そんな人たちから“王子様”のプライベートを守るためにできたといわれている。

・・・まぁ、一般から入学しためいにとってそれは遠い世界のお話だけれど。

「それに王子様たちは2年生だから1こ上でしょ?授業もかぶらないし寮にも住んでないんだから会うこともないよ。」

膨らませた頬で答えた私に、叔母さんはお腹の底から嬉しそうに笑った。

「あら、せっかく同じ学び舎にいるんだもの。出会いがないなんて言いきれないでしょ?」

「・・・それは、そうだけど・・・

って、話はぐらかしたでしょ!」

「まぁもうこんな時間!早くいかないと遅刻よ!!あ、これその寮への地図だから!さぁ行ってらっしゃい!」

「えぇぇぇえええーーーー?!」

かくして私、柊めいは、自分がこれから3年間どこに住むのかも分からないまま、家を追い出さ・・・もとい飛び出したのだった。



レンガ造りの大きな門を包むように続く桜並木。大きな荷物をもって、期待に胸を膨らませながらその並木道を歩いていく・・・・そんな同級生を横目に、私は手元にある地図を見つめていた。

「みんなまっすぐ行くのに、この地図・・・左に行けって言ってる・・・。

でも・・・左側・・・なんか森っぽいんだけど・・・

本当に合ってるのかな・・・。」

地図が示す通り、桜並木の横には確かに細い脇道があり、その先は新緑の青々とした木々が生い茂っていてよく見えない。

「・・・不安しかない・・・」

涙で目の前の桜がかすんできた。

・・・受験勉強は、同じところをぐるぐると回っているような感覚だった。足は棒のように疲れるのに、前にも上にも進んでいないような感覚。それでもこの学園に入ることを夢見て・・・。

それがいきなりこんなに不安になるなんて・・・。

「あなた、新入生?」

ふと声をかけられた気がして振り返ると、そこには目の見張る美人が立っていた。肌は陶器のように白く、めいを捉えた瞳は零れ落ちそうなほど美しかった。

「ね、新入生よね?寮に行きたいのかしら?」

見とれていた意識が戻される。

「あ、はい!そうなんです!」

「ふふ、そうだと思ったのよね。よかったら案内しますわ。桃寮はこちらよ。」

指されたしなやかな手に流されそうになるが、耳が捉えた情報がめいの足を止めさせた。

「あ、ま、待ってください!」

振り返った瞳はまた一段と大きい。思わず両手ですくいたくなるほどだ。純粋に向けられた優しさに水を差すようで少し憚れたが、めいは事情を話すことにした。

「私の叔母が手続を忘れたみたいで・・・私桃寮には入れなかったんです。」

「桃寮に入れなかった?!どういうこと??まさか男子寮の蒼寮あおりょうなわけないですし・・・かといって寮に入らないと入学できないわよね?」

あれ・・・?私が入る寮ってあんまり知られていないのかな??

「は、はい・・・。えっと、確か・・・」

めいは持っていた地図を広げて名前を確認した。

「(う・・・何この名前・・・。不吉なんだけど・・・)

く、黒寮っていうところみたいで・・・」

「?!」

その時めいの耳に、はっきりと彼女の息をのむ声が届いた。

「ぁの・・・?」

美少女をおそるおそるうかがうと、第一印象からはかけ離れた鋭い眼光がめいを貫いた。

「あなた・・・どこからそんな話を・・?」

それはもう驚いているだけの声ではかなった。

「え・・・?」

「新入生であるあなたがなぜそのことを・・・い、いえ、私は黒寮なんて存じません!」

めいですら分かるその動揺は、明らかに尋常ではなかった。しかし急に怒り出したような彼女に弁解したい気持ちが溢れ、めいは言葉をつづけた。

「え、え?でも・・・叔母の手違いで桃寮には入れなくて、たまたま応募していたこの黒寮に勝手に応募されていて・・・」

「いい加減になさい!」

冷たい声に、今度はめいが息をのまざるを得なかった。

美少女は眉間にしわを寄せて声をするどくする。周りを歩く生徒たちからの視線も痛い。

「どこでそんなお話耳に入れたのか存じませんけど、好奇心に任せてその話をするのは愚かですわ!ゆめゆめ注意なされることね!私はこれで失礼します!」

「あ、あの待ってくださ・・・!

い、行っちゃった・・・。」

どうして黒寮って聞いた途端、あんなふうに怒っちゃったんだろ・・・。黒寮って本当、いったい何なの・・・?

不安が心を支配する中、それでもめいは心に決めた。

「・・・悩んでても始まらない!とりあえず行ってみて、間違ってたら引き返そう!よし!」

地図をしっかりと握り直して、スーツケースをガラガラと引き始めた。レンガの小道が導くままに。



「うわぁ・・・っ」

その景色に思わず声を漏らした。小さな森を抜けた先には、洋風なレンガ造りのお屋敷が聳えていたのだ。

「すごい、すごい可愛い!煙突!白枠の窓!玄関までの階段も手すりも、玄関の取っ手も全部可愛い!!

なんの建物だろう?!」

さっきのことなど忘れるくらいに、めいはその屋敷の可愛らしい風貌に酔いしれていた。レンガの色や手すりの細かい彫刻に見とれながら階段を上がると、重厚な木彫りの扉が目の前に現れた。

どんな大きい人も通れそうな高い扉だ。

その横にはレンガに埋め込まれたテレビのようなモニターがある。呼び鈴だろうかと思考がよぎりながら、

そのモニターに触れようとすると

「ぁだっ!!!」

「え?」

額と鼻にはしった鈍い衝撃に、思わずのけぞる。もたれかかろうとした低い手すりにバランスを崩す。

「危ない!」

その時知らない男の人の声と逞しい腕が、めいを抱き留めた。

しかし重力の助けもあって、めいのお尻はどっちりレンガの床にこんにちはすることになった。


「大丈夫??君・・・」

お尻の痛みを確認していると、頭の上から声が降ってきた。

「え、・・・あ、は・・!!」

優しい声に目を開けると、鼻先から数センチの距離に知らない男の人の顔がある。

「ち、ちか!」

一気に顔の温度が2度くらい上がった気がした。

「帝?どうした?」

「うわ帝がまた女の子たらしこんでる!!」

「ばか人聞き悪いこと言うな。ドア開けたらこの子にぶつかっちゃっただけだよ。」

扉の奥からまた二人、男の人が出てきた。

「女の子?大丈夫??」

「は、はい・・・大丈夫です・・・」

抱き留めてくれた人がそっと立たせてくれた。そこで改めて男の人たちの顔を見る。

・・・・なんだろうこの場違い感。ここはアイドル事務所か。

「あれ?君が持ってるの・・入寮案内?」

ころころ表情の変わる人が、めいの手の中にある紙を指さして言った。

「あ、はい・・!あの、黒寮・・・っていう寮を探していて・・・」

こんなに男の人がわらわら居るから、もしかしてここは蒼寮なのかもしれない。とにもかくにも自分の住む場所ではないなと悟った。

返事のような沈黙が返ってくる。

その時、さっきの美少女の声がこだました。

『ゆめゆめ注意なされることね!!』

あんな視線を・・また・・・・・

「・・!」

うかつに黒寮の名前を言ったから・・・!どうしよう、また何か言われる・・!?

覚悟を決めかねていた時、思いもよらぬ響きがめいを包んだ。

「・・そうだよ。ここが黒寮だよ。」

「・・・え?」

ここが・・黒寮・・?じゃあこの人たちは・・・?

「じゃぁ君が今日から入るめいちゃんだね?待ってたよ、俺たちのプリンセス。」

帝はめいの手を恭しくとり、手の甲に唇を近づけた。

大脳を経由することなく手がこわばる。

「俺は東宮帝。よろしくね。」

帝は形のいい唇をめいの手にちゅっとあてた。

「!!!!!」

「おい、いきなり手出すなよ!」

「なにしてんだ帝!」

「先手必勝でしょ?」

「お前な・・・」

めいは声の代わりに顔で沸騰音を響かせた。

「おい、玄関で騒がしいぞお前ら。さっさと中に入れ。」

玄関の奥からさらに身長の高い人が現れる。もうとっくにキャパオーバーだ。

「そうだな。めいちゃん、入って。」

は、はい!と返事をしたくても口がはうはう言うだけで声にはならなかった。

追い討ちをかけるように帝が誘う。

「ようこそ、黒寮へ。」

この時めいは人生で初めて、『洗練された笑顔』というものを見た。


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