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ハンドレッドの悩める日々  作者: 若松ユウ
本章「初春のこと」
9/11

09「予想外の大事」【フェルナンデス】

――さて。長旅でお疲れのハイドレンジアさまは、ゲストルームまで案内しましたから、あとは、あの酒豪だけですね。

 廊下を歩いていたフェルナンデスは、ふと足を止め、窓の外に注目する。アールヌーヴォー調の優美な曲線と装飾が施された窓の向こうには、広々とした庭が見える。

「会場にはギルバートさまもおられることですし、すぐに戻らなくても平気でしょう。庭の植木の世話をして、波立った気持ちを抑えてからにしましょう」

 誰にともなく呟くと、フェルナンデスは踵を返し、廊下の先にある階段へと向かって行った。

  *

――降りてきて正解でした。これは、ひどい。

 生えてきたばかりの葉の中から、虫の被害に遭っている葉だけを選びつつ、フェルナンデスは、剪定鋏でパチパチと手際良く切り落としていく。

「せっかく春を迎えて、これから若葉を茂らせていくという時期なのに。タイミングが悪いですね。すぐに、元気にしますから」

 植木鉢に向かってブツブツ小声で話しかけつつ、フェルナンデスは、全ての葉を順々に確かめながら作業を進めていく。そして、隈なく病気に罹った葉を落とすと、鋏を箒に持ち替え、切り落とした葉を塵取りに入れていく。

――半分以上、切り落とすことになってしまいました。これで、これ以上、病に蝕まれることはないでしょうけど、少し心配ですね。

 フェルナンデスは懐からビニール袋を取り出し、集めた葉をその中へ入れて口を縛ると、それを焼却炉に持って行き、閂を外して鉄扉を開け、炉の中に放り込んだ。

「これで良し」

 鉄扉を閉めて閂を下ろすと、フェルナンデスは軽くパンパンと手を叩いて泥を払い、山毛欅の挿し木を置いた作業台に戻る。

――あとは、効きの早い肥料を足して成長を促せば、元に戻るでしょう。それにしても、何が原因で虫食いになったのか。

「あっ」

 フェルナンデスが修復に戻ろうとすると、茂みからナンシーが姿を現し、仁王立ちをして行く手を塞いだ。そして、フェルナンデスが口を開く前に、ナンシーが詰め寄って問いただす。

「この多忙なときに、優雅にガーデニングを楽しんでいるようですね、フェルナンデス。私に仕事を押し付けて、さぞかし、良い気分でしょう」

「落ち着きなさい、ナンシー。これには、事情があるんです」

「言い訳なら結構です」

 まるで見たものをコチコチに石化させるメデューサのような目をして、ナンシーがフェルナンデスを睨みながらピシャリと言い、腕を引いて屋敷に連れ戻そうとすると、フェルナンデスは腕を回して掴まれた手を振り払い、作業台を指差しながら事情を説明する。

「あの樹が病気にやられてたから、治してやってるだけですよ。終わったら、すぐ戻りますから」

「まぁ、大変。やっと生えてきた葉が、すっかり減っているではありませんか。なんということをしてくれたんですか、フェルナンデス!」

「待ちなさい、ナンシー。話を、最後まで聞けというのに」  

 そのあと二人は、しばらく口論を続けた。

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