表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハンドレッドの悩める日々  作者: 若松ユウ
本章「初春のこと」
7/11

07「主人の立場」【ギルバート】

――ハイドレンジアとの初顔合わせは、滞りなく無事に済んだんだけど。

「ねぇ。私としては、こんな良い話、なかなか無いと思うんだけど」

「いや、しかし。この歳で身を固めるのは、時期尚早な気が」

 ギルバートが苦い顔をすると、メアリーはウイスキーを飲み干してテーブルに置き、早口にまくしたてる。

「もう。そんな悠長なことを言ってると、いつまで経っても結婚できないわよ。お家柄だって悪くないし、気立ての良い素直な子じゃない。マーガレットとも仲良くできそうよ。こんなに好条件が揃ってるっていうのに、何が不満なのよ? 言ってごらんなさい」

「ですから、こういうことは焦って決めることでは」

「ほら、みなさい。まんざらでもないと思っているんじゃない。早いところ身を固めて、私を安心させてちょうだい。お兄さまが亡くなってからというもの、ずっとあなたを信用して任せてきましたけどね」

「叔母さん。もう、その辺にしてください」

 メアリーの鋭い舌鋒にタジタジとなっていると、ギルバートは視界の端で、ナンシーがハンドレッドを運び出すのを見かける。

――何かあったんだろうか?

「ギルバート。聞いてるんですか?」

「失礼。ちょっと、マーガレットの様子を窺ってきます」

「待ちなさいよ、もぅ」

 酔いが回ってきたメアリーをその場に残し、ギルバートは、どう対処して良いか分からずにオタオタとしているマーガレットに近付き、声を掛ける。

「どうしたんだい、マーガレット」

「あぁ、お兄さま。あのね。ハンドレッドがね。大変なの」

 マーガレットが興奮気味に言う支離滅裂な言葉を、ギルバートは冷静に受け止めて解釈する。

「ナンシーが運んでいくところは見たよ。さっきまでは、楽しそうに踊ってたと思ったんだけど」

「そうなの。ステップを間違えてね。やり直そうとしたらね。急に元気が無くなっちゃったの」

「ダンスの途中で、いきなり具合が悪くなったんだね」

「そう。だから、私、心配で」

――原因は分からないけど、状況は飲み込めてきたぞ。 

 ギルバートは、不安におびえるマーガレットの肩に腕を回し、そっと抱き寄せながら優しく言う。

「大丈夫だよ。きっと、慣れないことをして疲れただけさ。だから、マーガレットは着替えて、ナンシーと一緒にハンドレッドの側にいてあげなさい。俺も、ここが一段落したら向かうから」

「そうね。それじゃあ、ハンドレッドの様子を見にいくわ。お兄さまも、あとで来てね」

「あぁ。終わったら、すぐに行くよ」

 そう言って、ギルバートはマーガレットの背中を押すと、マーガレットはスカートの端を持って一礼したあと、早足で会場を立ち去った。

――何事も無ければいいけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ