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ハンドレッドの悩める日々  作者: 若松ユウ
本章「初春のこと」
6/11

06「急な発熱」【マーガレット】

――季節は、あっという間に春。叔母さまとハイドレンジアさまがやって来られて、お屋敷の中は、いつになく賑やかになってます。

「ねぇ、どうなのよ、ギルバート。あなたが押しの強いタイプは波長が合わないっていうから、今時分には珍しい、お淑やかなお相手を見つけてきたのよ? コーヒーを飲んでないで、なんとか言いなさい」

「そうやって、すぐに結論を求めるんですからね。人生を左右する問題なんですから、急かさないでくださいよ」

 琥珀色のウイスキーの入った瀟洒なロックグラスを持ったメアリーが、漆黒のブラックコーヒーが入ったカップとソーサーを持ったギルバートに詰め寄っている。マーガレットは、それを遠巻きに眺めつつ、よく通るメアリーの声を耳にしては、片手を上品に口元に添えてクスリと笑った。

――お兄さまも、大変ね。

「お待たせ、マーガレット」

「あっ、ハンドレッド。ナンシーは一緒じゃないのね」

 盛装したマーガレットが振り向き、一人で来たことに疑問を投げかけると、正装したハンドレッドは、メアリーを小さく指差しながら事情を説明する。

「あの人が飲みたいワインがセラーになかったから、いつものお店のソムリエさんに訊いてくるってさ。すぐに戻るらしいよ」

「そうなの。叔母さまも、わがままな人ね」

「そうだね。――それより、マーガレット。心の準備は出来ましたでしょうか?」

 ハンドレッドが恭しく尋ねると、マーガレットも澄ました態度で答える。

「えぇ、出来ましてよ、ハンドレッド」

「それでは、僕と一曲、踊っていただけますか?」

 ハンドレッドが掌を上にして片手を差し出すと、マーガレットは微笑みとともに、その手に自分の手を重ねて置いた。

  *

――楽しい時間は、すぐに過ぎてしまうもの。途中、躓いたり間違えたりしたけど、ハンドレッドは、それを嫌がったり咎めたりしなかったし、むしろ、うまくいかないことを愉しんでる様子だった。だから、急にあんなことになって、とってもビックリしたの。

「オッと。もう一回、右からいこうか?」

「いいえ。今度は左からよ」

「そっか。それじゃあ、気を取り直して、次のリズム、に……」

 マーガレットに合わせて足のポジションを直そうとした途端、ハンドレッドは、ゼンマイが切れたロボットのように、急に動きを止め、その場に膝をついてへたり込む。

「ハンドレッド?」

 マーガレットは、心配そうに小腰を屈め、ハンドレッドの額に手を当てる。

――大変! すごい熱だわ。

 パッと素早く額から手を放すと、気が動転したマーガレットは、おろおろと意味もなく手足を動かす。

――どうしましょう。早く、ハンドレッドを助けてあげなくちゃ。あぁ、どうしたら良いの


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