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ハンドレッドの悩める日々  作者: 若松ユウ
前章「晩冬のこと」
4/11

04「山毛欅と紫陽花と」【フェルナンデス】

――山毛欅(ぶな)の挿し木は、順調に育ってるみたいだ。

 フェルナンデスは、庭の木蔭にある植木鉢に、じょうろで水をやっている。

――こんなものかな。あまり水をやりすぎて、根腐れしてはいけないからな。

 フェルナンデスは、わずかに雪が残った地面に融雪代わりに水を撒くと、近くの棚にじょうろを置き、続いて、別の鉢植えを持ってくる。

「さてと。手紙と一緒に送られてきたこの鉢は、どこへ置いたものだろう?」

――作りすぎたからお裾分けする感覚で、植木を送りつけないで欲しいものだ。ガーデニングを楽しむなら、一人で世話できる範囲に留めておくべきだろうに。

 株分けされた紫陽花の鉢を持ち、フェルナンデスが置き場に悩んでいると、そこへマーガレットが駆け込み、燕尾服の上着の裾を持ち、それを頭にかぶせながらしゃがみ込む。急に裾を掴まれたフェルナンデスがよろけ、持っている鉢植えの土を少しばかりこぼしつつ、何とか体制を整えていると、遅れてナンシーが走り寄り、フェルナンデスを挟んでマーガレットに言う。

「お嬢さま。私がマグカップをキッチンへ持って行ったあいだに、ダンスシューズをどこに隠したか、白状なさいまし」

「し、知らないわ。きっと、ナチュラルとリバースを繰り返して逃げたのよ」

「ひとりでにステップを踏む靴があれば、見てみたいものですね。どちらへ逃げたのですか?」

「教えないわよ」

――僕を巻き込まないで欲しいな。

 フェルナンデスは、とりあえず鉢植えを山毛欅の隣に置くと、マーガレットに向かって優しく言う。

「マーガレットさまは、ダンスがお嫌いなのですか?」

「いいえ、違うの。うまく出来ないから、恥ずかしいの」

「誰しも、はじめから上手に踊れるものではありませんよ?」

「そんなこと無いわ。女学院のみんなは、スイスイ覚えてたもの」

「それは、たまたまダンスの才能に恵まれているか、あるいは別の場所で、すでに習ったことがあっただけでしょう。ここだけの話ですが、ギルバートさまも、ワルツのステップを習得されるまでには、ずいぶん苦労されましたよ」

「えっ。お兄さまも?」

 驚いたマーガレットが立ち上がると、ナンシーが補足する。

「はい。ギナジウムに通い始めた当時は、頭で思い描いた通りに身体がついて行かないと、大変に悩まれていました」

「そうなのね」

 マーガレットが納得していると、フェルナンデスはマーガレットの背中を押し、ナンシーの前に立たせながら言う。

「俗に、習うより慣れよと申します。恥ずかしがらずに、ハンドレッドさまとともに楽しんではいかがでしょうか?」

「そうね。楽しむことが一番だわ。――シューズは、お帽子の箱の中よ」

「さようですか。では、お召し替えに参りましょう」

 ナンシーはマーガレットの手を取ると、二人仲良く屋敷に戻った。

――やれやれ。まだパーティーは始まっていないというのに。

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