01「お母さまとの記憶」【マーガレット】
「王子さまがキスをすると、お姫さまは長い眠りから目を覚ましました。悪い魔女の呪いが解けたお姫さまは、王子さまと末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」
マーガレットに似た高貴な女が絵本を畳み、サイドテーブルの上に置くと、幼いマーガレットは、女に向かって質問する。
「ねぇねぇ、お母さま。どうして、お姫さまは王子さまのキスで、おめめを覚ましたの?」
「それだけ、キスには大事な思いが込められてるからよ。王子さまはお姫さまを救いたい、大切にしたいと思ったから、気持ちが伝わったの」
「ふ~ん」
納得したのやらしていないのやら曖昧な様子のマーガレットに、マーガレットの母は、そっとベッドサイドから腰を上げると、マーガレットの肩まで毛布をかぶせ、小さな胸の上を優しくトントンと叩きながら言う。
「いつかマーガレットも大きくなって、素敵な王子さまが見つかったら、キスの意味が分かるわ。おやすみ、マーガレット」
「おやすみなさい」
マーガレットが目を瞑ると、マーガレットの母は、その額に親愛を込めた軽いキスをし、静かな微笑みを浮かべながら部屋をあとにした。
*
――何か、すごーく昔のことを思い出した気がする。
「ウーン。今のは、何だったのかしら?」
ネグリジェ姿のマーガレットが首を傾げていると、部屋のドアをノックする音がする。
「はい。どうぞ」
マーガレットがドアに向かって声を掛けると、部屋の中へサンデーグラスを持ったハンドレッドが入り、持っているグラスを自慢げに見せながら言う。グラスの上には、常緑樹の葉と赤い実で飾られたドーム状の雪が盛られている。
「おはよう、マーガレット。見てよ、これ。さっき作ったばかりなんだ」
「まぁ、可愛い。雪のウサギさんね」
ニッコリとマーガレットが笑顔になると、ハンドレッドはグラスをサイドテーブルに置き、興奮気味に誘う。
「庭には、まだまだ雪が積もってるんだ。雪合戦だって、スノーマン作りだって出来るよ。融けないうちに、遊ぼう」
「いいわね。すぐに着替えるから、先にお庭に行ってて」
「わかった。待ってるから、早く来てよ」
そう言って、ハンドレッドは風のように素早く部屋を出た。マーガレットは、その後ろ姿を見てクスッと笑うと、いそいそとワードロープへと向かった。
――はしゃいじゃって。まぁ、ハンドレッドにとっては、はじめて見る本物の雪だから、仕方ないか。