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鈴木昇二はタコの惑星を回顧する

「……と、そういう感じだった」


 昇二がタコ世界の話を終えて、口を閉じる。


 女神は、だが何の反応もせずにメモを取る姿勢のまま(神なのに? と昇二は思っていた)プルプルと俯いて震えていた。

 と、がばっと顔を上げ、顔を真っ赤にして昇二を睨みつつ叫んだ。


「思いっきりR-18じゃないの! こんなの書けないわよ!!」


 だが、昇二は顔色を変えずうんうんと頷いて「だよなー」と答えるしかなかった。


「だけど、嘘はついてないぞ。月が3つあるタコ星人の世界での俺の一生は今言ったとおりだ。多分、地球よりも全然化学が進んでたんだろうな、捕獲された後、恐らく脳内の記憶を読み取って俺の存在の研究をされたんだ。奴ら、数日で日本語を使ってコミュニケーション取ってこようとしたし。というか命令だな、完全に研究対象だったから」


 当然といえば当然である。

 例えば、逆の立場、彼らタコ星人の誰かが異世界転移することになり、現代地球に突如現れて、捕獲された場合。100%研究材料になる。それ以外の未来はないと断言できるだろう。


「んでまぁ、研究対象が生殖行為で増やせるならって感じで、記憶の中からいろんな事を再現されたり、想像してたことを、どんな技術なのかわからんけど体験させられたり……ただ、俺の体力が持たなかったんだな、5日で俺死んだ」


「うわぁ……」


 女神は明らかにドン引いていた。


「ぶっ通しだったからなー。夜想曲なチート小説だったらなんかそっち系のエロスキルに目覚めて無双できたのかもしれん」


「いらないわよそんな感想」


「最序盤だけはちょっと嬉しかった」


「だからいらないってば!!」


 マジ怒りである。まじおこ。女神まじおこ。


「ただ、なんつーか、進化し過ぎた化学は魔法に見えるってやつは、完全に同意だ。実感した」


 ふいに、昇二の表情がくしゃりと歪む。


「あいつが……居たんだ。どんな方法なのかわかんねぇけど……顔も、声も、あったかさも、柔らかさも、ぜんぶ……あいつが……」


 いるはずのない世界に。

 残してきてしまった女性と、触れ合ってしまった。

 昇二の記憶から作られた彼女は、当然だが昇二の記憶していた彼女そのものだった。

 体感ではもう25年も昔の話だ。

 だが、昇二は「この空間」に戻ってくるたびに「スタート時」の感覚が蘇ってくることも実感していた。

 ガフディーがあった世界の感覚は急速に薄れつつある。

 説明しにくいが、25年前になったはずの地球の記憶と、同じ程度の比重……否、下手をすると、最初の生の記憶がガフディーの25年よりも色濃く思い出せる感覚。


「……」


 流石に掛ける言葉もないのか、女神は黙って神妙な面持ちで昇二を見つめる。


「そして頑張り過ぎた結果、ここに戻ってきてしまった……!!!」


「ねえ。ちょっとシリアスな雰囲気に真面目に付き合っちゃった私の立場をどうしてくれる」


「俺の死体と、五日分の遺伝子が死滅する前にDNA解析まで終わらせられたら、下手するとあの世界には無数の俺のクローンが奴隷として使役されるようになるのかもしれん」


「それはそれで話のネタにはなるわね……ってちょっと、私よりも作家みたいなこと言わないでよ」


「ただ、あいつら、俺が死んだ本当の理由がよくわかってないと思うんだよな。飯を食べるって行為が理解できてなかったみたいだから、多分あいつの姿かたち、存在と同じで、俺が食わされてたのは本物じゃなくて幻覚みたいな偽物だったんだと思う」


「あー……それだと、仮にクローンが作られていても、実用はできなさそうね」


「だと良いけどな。自分と同じ顔が何万と存在するってのは、ちょっとゾッとするよ。ま、実質餓死でここに戻ってきたようなもんだし、違いすぎる存在の研究がそんなに上手く行くこともないだろって楽観視しとくよ」


「そうね、精神衛生上それがいいと思うわ」


 女神の相槌に、ふぅ、と一息吐いて、昇二は言った。


「じゃあ、俺が無双……は出来なくても、普通に暮らせる世界を狙って、ガチャ回しますか」

3年……経ってる……!?

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