鈴木昇二は……ほら……ね?(察し)
3か月くらいじゃエタるとは言わない。
まだだ、まだエタらんよ……
「やったじゃない! 一歩前進ね!」
「うん、まぁ、確かにその通りだと思う。少なくとも、前進ではあるはず……たぶん」
と、昇二は女神に答えた。要するにそういうことである。
「あの装置で行く異世界に人間がいたって分かっただけでも、随分と進んだ気がするわ!」
「そうなんだけどね……」
テンション若干高めの女神と、対照的に低めの昇二。
「……どしたの? なんか暗いけど。って、死んだ直後の人間が明るくても怖いけどさ」
「ん~……」
複雑な感情を隠すこともできず、唸り声をあげながら昇二は今回の転移を思い返していた。
あ、人だ。
そう昇二が認識した次の瞬間、件の人間は相当に驚いた表情を浮かべ、そして、殴りかかってきた。
「ちょ、ちょっと!?」
慌てて避けようとするものの、ガツンと頭部に衝撃を食らう。一発で意識が飛びそうなほどの力だ。
「ファラルバゾガバグバッ!! ラベラベコロハダモッ!」
何か言っているが、当然昇二には理解できない。そして相手の攻撃は止みそうもない。
続けて数発殴られ、たまらず昇二は倒れてしまった。そこに……
「ゴダッ! ゴダッ!」
と、掛け声(?)と共に渾身の蹴りが来る。必死で頭を守るものの、素人の防御がそう効果を生むこともなく、しかも、格闘技の試合だったら止めてくれる審判がいるが、相手は恐らく突然現れた得体のしれない何者かを、本気で殺しに来ている。
昇二にしてみればたまったものではないが、相手の立場で考えると、そうなっても仕方がない。
せめて、言葉だけでも通じれば……!!
「ゴダッ! ゴダッ! マダキラバルドロッセェ!! ゴダァ!」
(あ、今のはなんとなくニュアンスわかった。マダ、は日本語のまだと同じ音で同じ意味なのかも)
そんな暢気な感想が出てきたのは、もう目も鼻もぐちゃぐちゃにつぶれ、蹴られる痛みも感じなくなり、ごん、ごん、という衝撃だけを感じるようになったからだろうか。
数回の死亡を繰り返してきた昇二には、わかる。
死亡のプロである昇二が判断するに、これはもう助からない。
(だってほら、意識も白くnpbそnkhywば……)
最後の意識が日本語にすらなってなかったのは、今思うと頭蓋骨が割れて脳が潰れたからかもしれない。
そんなことを考えつつ、
「もはや死のマイスターと呼ばれてもいいかもしれない」
と呟いた昇二に、女神が噴き出す。
「ぶはは、あ、ごめん。急にふざけたことと言い出すからつい」
謝罪になってないようなことを言う。そんな女神に、昇二はしかし真面目な顔で言った。
「なんというか、今更だけど、異世界転移って初期スポーン地点がメチャクチャ重要じゃね?」
そうなのだ。
昇二が経験した数回の転移で、いわゆるよくある異世界転移モノのテンプレ通りと言ってよい初期出現地点は、最初の一回の森の中だけである。
大体、転移モノの大半は「異世界から呼ばれる」シチュエーションが王道で、こっちから転移しに行くパターンは少ないし、その場合でも大概の作品で行く先の座標ぐらいわかったうえで転移しているものだ。
それに比べると、海のど真ん中、砂漠のど真ん中は邪道どころか外道と呼ぶべきもので、恐らく生存ルートはほぼないだろう。
「でもさ、地球に当てはめてみるとさ、そもそも陸地に当たる確率が半分以下で、さらに人が生存できる地域は少なくて、あと今回みたいに誰かの目の前に転移したら大騒ぎになって当然なんだよ」
文化レベルや相手の性格にもよるだろうが、よくある中世ヨーロッパ的な世界だったら殺されて当たり前だと思う。現に殺されたわけだし。
あまりにも相手の姿を確認できたのが一瞬過ぎて、自分を蹴り殺した相手の服装すら良く分からない。声からたぶん男だろう、と思ったぐらいである。
「あの装置って、そういう所どうにかならないの?」
転移することはもうしょうがないとして、転移先の人間との最初の遭遇があまりに不幸なものだったので、可能なら似たような事態は避けたい。
行くたびに殺されていたら、そのうちあの世界で「昇二が現れたら殺す」というテンプレが出来上がってしまうかもしれない。気分はゴキブリである。
「どうにもならないわねー」
しかし、女神はあっさりそう言ってのけた。
「あれはあくまで『人間を異世界に転送する装置』ってだけの代物であって、それ以外の何の機能もないらしいわ。さすがに、そういう機能があったら私も使ってるし」
「……そりゃそうだ」
がっくりと項垂れながら、昇二も納得するしかなかった。
「私も腹くくらないと。結構な確率の宝くじ当てるようなものなのかもしれないし」
「それ、外れるたびに俺死んでるってこと分かってて言ってる?」
げんなりと昇二が突っ込むが、つつーっと女神は視線をそらした。
(自分に何の落ち度もないのに無間地獄に落とされた気分だ)
昇二の内心の嘆息は、恐らく状況をあまりに的確に評しているものだった。
2018年中に3話くらい更新したい(抱負)