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プロローグ

「いや……ま……うっそだろ……?」


 呆然と、彼は呟いた。鈴木昇二、享年21。つまり彼は死人だ。ついさっき、死んだ。その事実は改変され、違う死に方だった事にされてはいるが。


「焦らないでいいわよ。落ち着くまで待つから。時間は、文字通り無限にあるようなものだし」


 そういって彼を慰めたのは、女神。彼女自身が忌み嫌う定石でありながら、必須なために避け得なかったのがこのイベントなのだ。

 こればっかりは、カットすることが出来なかった。

 モノによっては飛ばしてあるパターンも数多存在するのだが、彼女の目的を彼に理解してもらうためには、このイベントは無くてはならなかったのだ。


「だって俺……そんなに不幸じゃなかったよ? ぼっちでもないし、両親も健在だし、それに……」


 そうだ。大抵の場合、こういうのはソコソコ暗い過去を持った男に訪れるものだと彼は知っていた。

 彼はいわゆる「イケてる方のオタク」なのだ。

 そういう物語を読んだり、アニメを観たりすることは好きだった。

 そして人付き合いも良好だった。

 よくみるそういう物語の主人公たちとは、毛色が違う自覚があったのだ。


「まぁ、今回はこちら側の管理ミスというか、あなたに落ち度は全く微塵もないよ。ただ、どーしようもなかっただけで」


 本来、神々は一個人の生き死にに、いちいち介入したりはしない。

 そもそも大多数の神にそんな権限は与えられていない。

 数千年前だったらまだしも、人類の文明がここまで発展した地球で、神々が人間に干渉することはほとんどない。

 そう、()()()()


 改変される前の昇二の死因は、交通事故死だった。歩道に車が突っ込んできたのだ。

 昇二はたまたまそこを歩いていただけだった。


「ふふ、でもこれで私の目標に大きく近づいたんだけどね。まさか本当に申請が通るとは思わなかったわ」


 混乱したままの昇二をよそに、独りほくそ笑む女神。


「それに俺、彼女出来たばっかだよ……?」


 だが、そのつぶやきを聞いて、心底申し訳ない表情になる。


「ん~……まぁ、それこそが、君がここにいる原因、でもあるんだけど」


「え?」


「さっき、君がこちらの手違いで死んじゃったのは説明したでしょ?

 でね、当然手違いだから、死ぬ前に戻してやり直すか、とか、君が死んだ世界、やり直した世界がどうなるのか、ってのを、少しこちら側で調べてみたらしいのね。

そしたら、君があの事故で死んだ世界Aとあの事故が起こらなかった世界B、この二つには発生しなかった、とある出来事が『あの事故は起こらなかったけど別の原因で同じ時間に君が死んだ世界C』で発生することが確認されてね。

 それがこちら側の者にとって、とても魅力的な出来事らしくって。

 じゃあ、君には死んでもらおうか、と」


「そんなっ!?」


 ひどい話である。


「詳しくは教えてくれなかったんだけど、君の彼女が結構大きく関わってるらしいのよ。

 あ、でも彼女は間違いなくあなたを愛してるわよ、それは断言してあげる。

 交通事故死の場合は運転手を憎むし、事故が起こらなかったらあなた達は結婚して幸せな家庭を作ったらしいわ。

 ただ……」


「ただ……?」


「試しに覗いてみた『事故は起きなくて、たまたま歩いていたあなたの頭上に工事現場の足場からモンキーレンチが落ちてきて直撃して死んだ場合』では、その運転手が目撃者になって、悲しむ彼女と出会い、建築会社に訴訟を起こす彼女を支える立場になって、いつしか二人は……」


「うわーーーーーーーーーーーー!!!! ききたくなーーーーーーーーーい!!!!!!」


 ひどい話である。


「で、なんか、その二人の玄孫(やしゃご)か何かが凄い発明するんだって」


「ああああああああ……」


 聞きたくなかった結末のさらにその先を聞かされ、がっくりとうなだれる昇二。落ち着くどころではなかった。







「それで、俺はどうすればいいんですか……?」


 たっぷりと30時間ほど泣きはらしたあと、昇二はようやくかすれた声を絞り出した。

 眠気も空腹感もないので、思う存分落ち込んだら、意外と吹っ切れてしまった。目の前の女神と名乗る存在を見やる。


 正直、女神には見えなかった。少なくとも、昇二の持つ女神のイメージとはかけ離れていた。

 だってジャージなのだ。今まで気にも留めていなかったが、この女神はジャージを着ていた。それも、どこかの中学校で採用されていそうなジャージだ。


(なんだこいつ!?)


 今更ながら心中でツッコむ。ジャージだけじゃない。眼鏡だし、髪はタオルでバンダナのように縛っているだけだ。


(な、なんだこいつっ!?)


 どこからどう見ても女神には見えない。

 これはアレだ、よく漫画などで表現されるオタク女子だ。

 そんな女を捨てた格好してるくせに顔は可愛いところまで含めて漫画だこれ!


「まぁね、テンプレですっごく嫌なんだけど、異世界転移ってやつをしてもらいます。

 あ、転移してもらうのが嫌ってわけじゃないよ、このさ、『死後に女神に会って転移の説明を受ける』ってテンプレが嫌なだけで」


「はぁ……」


 大体のところは最初に死んだと教えられた時点で気が付いていたくらいには、昇二も今のこれをテンプレだと認識できていた。

 気の抜けた返事になったのは、単純に女神が女神らしくないことにまだ慣れていなかったからだ。


「これは、手違いだったあなたの死を、結果的に世界を曲げてまで敢行したことに最後まで抵抗していたある神からの願いでもあり、私の実利のためでもあります」


「ん? 俺の死に反対してくれた神様がいるんですか?」


 突き落とされっぱなしだった昇二にひとすじの光が。


「あなたの妹なんだけどね、彼女、『ヤンデレ妹』の神なのよ。ようやく受肉できたのに、そしてようやくあなたに彼女が出来たのに、全く本領を発揮できなくて怒り心頭だったの」


「…………うん」


 昇二の脳みそはフリーズした!


「ちなみに、事故が起きなくてあなたが恋人と結婚した世界では、最終的にあなたは……」


「やーーーーーめーーーーーてーーーーーー!!!! 聞かせないでーーーーーーーーー!!!!!」







「まぁとにかく、彼女の意向は『私が殺せないのなら天寿を全うしてほしい』なんだけど、これはOK?」


「なんだろう、嬉しいような嬉しくないような……まぁ、もちろん俺だって長生きはしたいっすよ。もう死んでるけど、ははは……」


「ま、まぁ、受領したってことでいいわよね」


 虚ろに笑う昇二に多少ヒキながら、女神がそういうと、昇二の身体が数秒ぼんやりと光った。


「な、なんですかっ!?」


「まぁまぁ。妹の愛情とでも思っときなさいって。もし説明しなきゃいけなくなったら説明するから」


「ええ~……」


 驚く昇二に笑いながら、女神はそういって流した。


「私にとってはこれからがやっと本番なの。あなたにもう一つ、了承してほしいことがあるのよ」


「な、なんでしょう?」


 ごくり、と、昇二の喉が鳴る。

 この期に及んで、自分にどんな条件を飲ませるつもりなのだろう?

 緊張する昇二に、女神はやたら真剣な表情で、こう言った。


「これからあなたはどこかの世界に転移してもらうわけだけど、それを小説にして、ネットにアップする許可をください」


「……は?」


「これからあなたはどこかの世界に転移してもらうわけだけど、それを小説にして、ネットにアップする許可をください」


「ベタに2回言わなくても。え、どういう意味ですか?」


 2度目の時には頭まで下げ、大事なことなのでってやつをリアルにやってくれた女神に、昇二は訊き返す。意味が分からない。


「ど、土下座? 土下座すればいいの?」


「いやいや、普通に女神様のおっしゃってる意味が分からないんですけど!?」


 昇二の対応をどう勘違いしたのか、急にオロオロと土下座の姿勢に移ろうとする女神に、慌てて問い直す。


「そ、そういうことね、断られたのかと思った……びっくりした……」


 と、なんだか目に涙をためて呟く女神に「こっちがビビったわ!」と内心突っ込みながら、昇二は女神の言葉を待った。


「そうね、根本的なところを説明していなかったわ。まず、私が何を司る神なのか、から言っておかなきゃよね」


 まだ少しぐしゅりと鼻声なまま、女神が仕切り直す。


「私はね、小説家ワナビの神なの」


「……はぁ?

 ……あ、すいません! ごめんって、な、泣かないで!?」


「うぇぇぇ……そうよねぇ、小説家志望のアマチュアを司る神なんて……うぇぇぇぇぇ~~~ん」 


 あんまりな告白に、思わず出てしまった「はぁ?」にショックを受けた女神が泣き止むまで、2時間かかった。









「つまり、本来なら妹の加護に守られてて、死ぬはずではなかった俺が手違いとパラレルの可能性で死ぬことになって、救済のためにどうすればいいかって話になったときに、女神様が『異世界に飛ばして生きてもらう』ことを提案。

 それが認められるついでに俺の許可を取れたら、その世界での俺を覗いて、小説に書いて、ネットの小説サイトにアップしたい、と?」


「うん。っていうか、その目的のために異世界に飛ばす提案したんだけど」


 そうだろうね、と思ったが、そのまま魂を輪廻させられるよりはマシだろうとも思ったので、昇二は何も言わなかった。


「まぁ、いいですよ。どうせ俺はもう地球には居られないんだし、アップされてるのを読むこともなければ、嫌な思いをすることもないでしょうし」


「ほんとっ!? あ、ありがとうっ!!!」


 ぱぁっと喜色を溢れさせて喜ぶ女神に、昇二はホッとする。

 だいたいの男と同じように、女性に泣かれると困るし、笑ってもらえると嬉しいものだ。


「これで……これで私もワナビ神から、プロ作家の神に……!!」


 正直その進化(?)にどれほどの違いがあるのかわからない昇二は、女神の呟きをスルーして、口を開いた。


「で、肝心な、俺がこれからどんな世界に行くのか、なんですけど」


「あ、それはわからないわ」


「……ん?」


「っていうか、私ごときの力で、狙った異世界に転移させるとか無理だし」


「んんっ!?」


「だから、西洋の方で昔、神隠しに使ってたアイテムを特別に借りてきています」


「えっと……それって安全なんですか?」


「さあ?」


 昇二は許可を取り消したくなった!!








「あの。さっきからどことなく、不安しか感じないんですが」


 正直に言ってみる。


「まぁ、私も初めてのことだしねぇ……」


 暖簾に腕押しだった。


「なんかほら、チートとかないんですか? 定番じゃないっすか!!」


 昇二、必死。

 だが、その言葉は女神の逆鱗に触れたのだ。


「チート……!? なんでもかんでもチートチート! やれ最強だの、最弱だけど無敵だの! そんなわけあるかー!!」


 女神が唐突に切れた。

 少しビビりながら、昇二も食い下がる!


「え、うそ、チートないんすか!? じゃあ、あれはっ!? 何故か日本のモノが買える系!!」


「ありません!!」


「魔法の才能とか!」


「ありません!!」


「特に意味もなくモテるとか!」


「ありません!!」


「や、やってたゲームの部下キャラが一緒についてきたり?」


「それ転移の状況から違うでしょ」


「読んでた漫画の世界の悪役に乗り移ったり?」


「それじゃあ転生じゃない」


「スライムだったり蜘蛛だったり」


「それも転生じゃない」


「……………………」


「まぁ、魔法を使える可能性はないとは言えないけど。

 行った先で、その世界基準のあなたの才能は付与されると……思うわ。

 確実じゃないけど。

 魔法がある世界なら、魔法が使える可能性はあるんじゃないかしら」


「……異世界転移って言ったらチートでハーレムでしょうが!!!!!」


 ついに昇二がキレた!!

 だが、女神の反撃!! キレ返し!!


「うるさーーーい!!

 私はその、なんでもかんでもチートで解決する異世界転移モノが大嫌いなのよ!!

 だから、チートなしの大作を書くの!!」


「嘘つけ!!

 面白いチートが思い付かなかっただけだろ!!

 だからワナビの神なんだよ!!」


「カッチーン!

 言うてはならんことを!!

 あ、あんたがこれから面白く立ち回ればいいのよ!!

 ええいもう面倒だ、転移装置起動!!」


「ちょ、おい、まてこらダ女神!!

 勢いで起動すんな!!

 だいたいだな、チートのない異世界転移モノなんて、転移モノである必要なんかねーんだよ!!

 あっ、もう体消えかけてる!?

 ってかもうもしかして聴こえてねーな!?

 くそっ、ばーかばーか!! ちくしょーーーーーーーーっ!!!!!」


 こうして、鈴木昇二は異世界に転移した。

 恐らく、異世界転移モノとしては最悪のプロローグだろう。

勢いだけで書きました。

これからどうするかも何も考えてません。

そして、恐らくエタりますw

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