決着とそして目的地へ
「し、死ぬかと思いました……」
リナはバタンと仰向けになり、心底ホッとしたかのようにそう言った。
「それにしてもドラゴンなんて初めて見ました……ほんとバレないかドキドキでしたよ。まだ、震えが治りません……」
仰向けの状態のまま、リナは体の震えを誤魔化すようにえへへ、と笑いかけてくる。
「ああ、そうだな。しかし、困った。なんで魔魂石を……」
「きっとあれに蓄えられた膨大な魔力に惹かれてやって来たのでしょう。心配ありませんよ。魔魂石はドラゴンの胃の中に入ったんです。想定していた形とは違いますけど、魔魂石を封じることができたんですから」
リナはそう言って、ふいと上体を起こす。
「………だといいんだがな」
「? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
何か引っかかる気がする。
だが、それを考えたところで何か答えが出てくる気もしない。
……まあ、いいか。
リナの言う通り、ドラゴンが魔魂石を飲み込んだ以上、あれがキメラのような化物を生み出すことはないだろう。
それに過去を振り返っても仕方がない。
とりあえずの問題はここからどうするか、だ。
この地下空間の唯一の出入り口だった後方のトンネルは先ほどの岩なだれによって塞がれてしまった。
だから、今ある外へと繋がる道はドラゴンが空けていった天井の大きな穴だけだ。
だが……
「高すぎるんだよな……」
頭上に空いた穴を見上げる。
さて、どうやってあそこまで登るか。
基本このような事態に陥ってしまった場合、情けないがどうしてもリナ頼りになってしまうのだが、
「どうしましょう……私の得意魔法は雷属性の魔法です。すみません。私ではあそこまで移動できるような魔法は使えません」
「だよな……なんとなく想像はしていた」
そんな毎回都合よくことが運んだりはしないことは経験上理解している。
キメラとの戦い、ドラゴンの出現と予想外の出来事を二つも回避できたんだ。最大の危機は過ぎ去ったものの、さすがに三度目ともなるとそうそう奇跡は起こらないだろう。
というか、こう立て続けに想定外のことが起きると自分の想定力に自信がなくなってくる。
「ここにマーズベルトさんがいてくれたら、テレポートで帰れるんですけど………」
リナがふと、そんなことを口から漏らす。と、
「呼んだかの?」
「きゃあーー!!」
「おおーー!!」
突然背後から声をかけられ、俺とリナは思わず飛び退いた。
「ふぉっふぉっふぉ。二人とも無事なようで安心したわい」
聞いたことのある笑い声に振り向くと、そこにはマーズベルトが立っていた。
「マーズベルトさん!」
「マーズベルト。 なんでここに……」
「いや、の。森の方でドラゴンの姿が見えたと街の人たちが言っておったのを聞いて、もしやと思ってのお。それにしても」
そう言ってマーズベルトは周りを見回す。
「随分とボロボロじゃのう。お主らも、この場所も。ここで何が起こったのか……はあとでゆっくり聞こうか。まずはフランの病院に戻るぞ」
「ちょっと待て」
と、テレポートを使おうとしたマーズベルトに俺は待ったをかける。
「どうしたんじゃ?」
「あそこにいるやつらを放ってここから去るのは不用心だ」
後ろを振り返る。
そこには俺の嘘でできた炎によって、気絶した敵の集団が倒れていた。場所が壁際だったのが幸いしたのか、奇跡的にドラゴンの引き起こした岩なだれの直撃を免れていた。
「ここに来たときから気になっていたのですが、あの人たちはなんなのですか?」
「あいつらが今回街の人から魔力を奪っていた張本人たちだ。リナが来る前に一通り倒しておいたんだが、あいつらもそのうち目を覚ますだろう」
「心配ないじゃろう。目を覚ましたところでここから出ることはできんじゃろうよ」
「だが、あの中の一人にテレポートのような魔法を使うやつがいたぞ」
俺がここに連れて来られたのも、あのリーダーの女がここにゲートのようなものをつなげたからだ。
その魔法を使えばここから簡単に出ることができるはずだ。
「ゲートのようなもの……か。それなら心配ないじゃろう。それはテレポートではなく、ワープという魔法じゃ。半径5キロ以内であればどこにいても、ある拠点とする場所へとワープゲートを繋げることができる魔法じゃ。逆に拠点から他の場所へと行くことはできん。ワープで森からここへ連れて来られたのなら、外へ出ることはできんよ」
だが、どうやら俺の心配のしすぎだったようだ。
マーズベルトは俺が納得したのを見ると再びテレポートを使う準備を始めた。
そして、しばらくしたのち、マーズベルトの準備が整った。
マーズベルトが魔法を唱える。
「では行くぞ。『テレポート』」
*
「そんなことがあったのですね……」
マーズベルトのテレポートで病院に戻ってきた俺とリナは、フランとマーズベルトにあの地下であった出来事を一通り話した。
もちろん言霊に関する内容については伏せて、だが。
「しかし、あの方……とやらの正体はわからないのですよね?」
「ああ、そいつについては情報を得られなかった。俺と敵対したリーダーでさえもその存在を知らないようだったしな」
あの方……おそらくはそいつが今回の件の黒幕だ。
そいつはきっとここではないもっと遠くの場所から魔法か何かを介してあいつらに指示を飛ばしていたのだろう。
「そうですか……」
「まあ、心配はいらんじゃろう。下っ端の連中は捕まえたんじゃ。再びこの街に悪さをかけるようなことはしまい」
若干の不安を感じたようなフランに、マーズベルトが声をかける。
「そう、ですよね! すみません。どうも今回の被害を受けた患者さんたちを思うと不安になってしまって……ユウリさんたちにはいくら感謝しても足りません!本当にありがとうございました……!」
「いえいえ、そんな! 私たちがやりたくてやっただけですから! ね、ユウリさん!」
「ああ、そうだな。あとはアルベレンまで送ってもらえれば問題はない」
「もう、ユウリさん!」
俺が嘘偽りなく自分の気持ちを口にすると、リナに脇腹をど突かれた。
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃの。そういう約束だった! どうする? 今すぐにでも出るか? 先の戦いで疲れとるようだったら一晩休んでからでも良いぞ」
「あ、だったらここに泊まっていってください! 病人用ですが部屋とベッドはありますよ」
マーズベルトとフランが、俺たちを気遣って、そう嬉しい提案を出してくれる。
「だ、そうですけど……ユウリさん、どうしますか?」
と、隣にいるリナがそう言って、俺の顔を覗き込んでくる。
「その提案はありがたい。が、俺はすぐにでもアルベレンに行きたい」
「いいのか? では、テレポートの準備を始めるぞ」
俺の答えにマーズベルトは頷く。
「悪いなリナ。勝手に決めてしまって……」
「いえ、ユウリさんならそう答えると思ってました! それに私はあれくらいの戦いでは疲れてませんよ? まだまだ余裕です!」
「ふん……それは心強いな」
「はい!」
本当に心強い。
まだ旅を始めて間もないが、リナがいなければ俺はもうとっくに死んでいるはずだ。
最初にリナを見かけることができたのは本当に運が良かったとしか言いようがない。
「テレポートの準備が終わったぞ! 二人とも準備はいいか?」
リナとの出会いを思い出していると、いよいよ出発のときがやってきた。
「お二人とも本当にありがとうございました! またどこかでお会いしましょう」
フランが俺たちに深々と頭を下げて、別れの言葉を口にする。
「そうだな」
「はい! またいずれどこかで!」
「よし。じゃあ行くぞ! 座標は北方アルベレンの街。『テレポート』!!」
マーズベルトが叫ぶと同時。
目の前の景色が一転した。




