魔魂石とキメラ ③
「ライトニング・エア・ボルトッッ!!」
リナの放った雷撃がキメラの吐いた炎の球を打ち消した。
そして同時に、リナの魔法がキメラの顔面に突き刺さる。
「遅れてすみません!」
リナはそう言いながら、ふわりと俺とキメラの間に着地する。
「地下となるとユウリさんの居場所の感知がなかなかできず、テレポート先を定めるのに時間がかかってしまいました……」
俺に万が一のことがあったときの対策。
それがマーズベルトの魔法によってリナを俺のいる場所までテレポートさせることだ。
マーズベルトはテレポート魔法の他に、探知魔法といって、探し人がいつも身に付けているものを媒体とし、その人がどこにいるかを発見することができる魔法が使えるらしい。
そして、マーズベルトはその探知魔法とテレポートとの二つの魔法を使って俺の近くにリナを送り届けたのだ。
ちなみに、俺が出発する前、マーズベルトには探知魔法の媒体として俺の髪の毛を一本渡しておいた。
「いや、助かった。あれ相手じゃ俺はどうにもできないからな」
「そう、ですね」
俺とリナは再びキメラの方に向き直る。
「あれは……?」
「おそらくだが、あれは人々から奪った魔力から生成されたものだろう」
リーダーの女が破壊した石は魔魂石と同じものだった。
集められた魔力が何らかの特別な方法でキメラへと姿を変えた……あくまで俺の推測だが、概ね当たっているだろう。
「そうですか……想像以上におおごとになってしまいましたね」
「まったくだ」
最初はただ犯人を捕まえればいいと思っていたのだが、まさかこんな化け物が現れるとは予想外すぎる。
「それにしても、おかしいですね………かなり近距離からそれなりに魔力を込めて攻撃したはずなんですが……」
リナがキメラを見て困ったように頬をかく。
見上げると、リナから攻撃を受けたはずのキメラにはかすり傷の一つも付いていなかった。
「ユウリさんは下がっていてください」
そう言ってリナはキメラに向かって走りだす。
「はあぁぁぁぁっっ!! ライトニング・エア・ボルトッッ!!」
リナが再びキメラに向かって魔法を放つ……がキメラはリナの攻撃をもろともせず、そのどでかい身体で受け止める。
「やあぁぁぁ!!」
リナが続けて魔法を放つも、どの攻撃に対してもキメラは避けようとする仕草すら見せない。
その様子を見ていると、リナの攻撃が小さな羽虫のように見えてくるほど些細なものに感じ始める。
「ギュルルルルッゥガアァ!!」
と、それまで黙って攻撃を受けていたキメラがリナに向かって大きな火の玉を放った。
だが、リナは一直線に飛んでくる火炎球を軽く横に交わし、その隙にキメラの斜め後方の死角へと入り込む。
「ここからの攻撃なら………ライトニング・エアーーーーーうっ!!」
リナが再び魔法を放とうとしたとき、リナは背後からの思わぬ攻撃を受け、前方へと吹き飛んだ。
「リナっ!!」
なにが起こった……!?
リナの立っていた場所は確実にキメラからは見えていなかったはず…………
それにリナが吹き飛ばされたのは前方。
リナはキメラの頭部方向を向いていたため、これはつまりキメラは自身の背後から攻撃を仕掛けたことになる。
魔法か……? いや、それにしたってリナが見えてないとあれほどまで正確に打てないだろうし……どうやって……
俺はふと、上を見上げる。
と、そこでリナが吹き飛ばされた原因が判明した。
「っ! 尻尾か……!!」
一本一本が独立した意思を持って蠢く白い大蛇。
それが尻尾としてキメラの後部から生えているのだ。
尻尾を構成するうちの一匹の蛇が再びリナに向かって伸びていく。
「くっ! ヴォルティック・ウェブ!」
リナはすんでの所で、電磁波のようなもので作った盾を発生させてその攻撃を防いだ。
「厄介です……」
リナが困惑した様子でキメラから少し距離を取る。
前から攻撃すれば強烈な炎の玉が飛んでくる。だからといってキメラの後部に回るものならば尻尾の大蛇たちが襲いかかってくる。
その上、どこから攻撃しても巨大な体躯ゆえに、リナの魔法攻撃では蚊ほどのダメージすら与えられないときた。
…………これでは対処のしようがない。
なにか。なにか弱点さえあれば……
「ライトニング・エア・ボルト!!」
リナが再度魔法を放つ。
キメラの額へと向かっていったその雷撃は、しかしながらキメラの前足で叩き落とされた。
………ん?
なぜキメラは今、わざわざリナの攻撃を前足で防いだ?
さっきまではリナの攻撃を避けようともしなかったのに…………
偶然? 鬱陶しくなって羽虫を叩き落とすかのようにしただけなのか?
いや、違う。
確信はないが、俺の勘がそう告げる。
いまさらそんな動きをするのは不自然だと。
俺はキメラの額に目を向ける。
するとそこに、青白い石が埋め込まれているのが見えた。
「そうか……! リナ! 額だ! キメラの額にある石を狙え!」
「額の石、ですか? 分かりました!」
俺の勘が正しければもう一度リナの魔法を防ぐはず………
「ライトニング・エア・ボルト!」
リナがキメラの額目掛けて魔法を放つ。
「ガルルゥゥラァッ!!」
が、キメラは再度リナの魔法を前足で弾いた。
ビンゴだ!
やはり、あいつの弱点は額。
あそこを狙い打てば倒すことができる……っ!
ただ………
「……っ! ダメです! 攻撃が額まで届きません!」
肝心の攻撃がキメラの額に届く前に全て弾かれる。
これではいずれリナの魔力が尽きてしまう。
何か、もっと強力な。キメラでも防ぎきれないような攻撃があれば……
そうだ! リナのベリアルを追い詰めたあの大技なら……
俺は一度目の前に戻ってきたリナに聞いてみる。
「確かにハイ・エナジーボルトならキメラでも防ぎきれないと思います…………ですが、ハイ・エナジーボルトを撃つためには詠唱するための時間が必要なんです」
前方ではキメラの吐く火炎球が、後方では白い大蛇の攻撃がある中で詠唱するための時間が取れない、とリナは言う。
くそ……っ! 何か俺にできることはないか。せめて尻尾の白蛇たちの動きさえ止めることができればいいのだが…………!
今の状況下、言霊の使えない俺がキメラ相手に太刀打ちできるすべはない。
キメラが言葉の通じる生き物であったならばリナに加勢できるのに。
「チッ……さっきみたいに炎が出せたなら……」
と、俺がそう口にした瞬間だった。
ーーーーボッ
そんな音とともに、俺の握った拳を包むようにして炎の渦が出現した。




