魔魂石とキメラ ②
「うあぁぁぁ!!!!」
俺の攻撃を受けた男が悲鳴をあげながら足元から崩れ落ちる。
目の前には男と女が一人ずつ気絶して倒れている。
とりあえず監視の二人は倒したが……。
俺は倒れた二人を見ながら肩を回し、腕の凝りをほぐす。
しばらく縛られていたからか、解いた後もまだ腕に縛られているような感覚がある。
「なんだ! 何があった……なっ!」
騒ぎが聞こえたのか、急いでやってきたこの集団のリーダーの女が俺を見て目を見開いた。
「お前! どうやって紐を解いた?!」
「そう驚くことじゃない。あれくらいの縄、いつだって解けた」
「あれくらいの縄って……あの縄にはバインド魔法をかけたからそう簡単には解けないはずだ……!!」
そうなのか?
だが、それは監視の二人がそう信じたから解けたのであって、俺のせいじゃない。
責めるならお前たちの仲間を責めるんだな。
「お前たちすぐにもう一度こいつを縛れ!」
リーダーの女が俺を指差しながら周りの奴らに指示を出す。
「おっと、いいのか? お前ら、俺をただの人だと思ってもらっちゃ困る」
指示を受け、先ほどと同じ縄を持った奴らが俺との差を詰めてくるが、もう縄で縛られ大人しくしている理由もない。
俺は少し大げさとも言える態度で、詰め寄る敵に待ったをかけた。
「死にたくなければその場で止まることをお勧めする」
「黙れ。そんなのデタラメに決まっている」
「そうか? 実際、俺から魔力を吸い取ることができたなかっただろう? 俺が俺以外の誰かからの魔力への干渉を常に拒んでいるとしたらどうする?」
もちろんそんなのは口から出まかせだが、もともと俺に魔力が一切ないなんて想像もつかない相手にとっては、俺の言葉は真実味が帯びて聞こえていることだろう。
「そんな……!! まさかそれほどの魔力を持っているというのか?!」
実際、相手は俺の言葉に驚いき、一歩後ずさった。
だが、何か思い至ったのかすぐにその足を元に戻す。
「いや待て……それならばなぜお前は森で私たちを撃退しなかった。それほどまでの力を持っているのなら、私たちなんて簡単に倒せるはずだ」
「情報収集さ。わざと捕まって、敵の居場所を見つけるために素直についてきたんだ。まあ、あの二人は俺の想像以上にペラペラと喋ってくれたがな」
「くっ…………!!」
リーダーの女は顔を歪ませながら俺と倒れている仲間の二人を交互に見る。
他の連中もどうしたものかと少しざわつき始めた。
「さあ、どうする? 俺の話を信じずにかかって来るなら好きにしろ。その場合、俺が編んだ術式魔法が火を噴くがな」
俺は敵たちを煽るようにそんな嘘を投げかけた。
「そ、そんなの信じられるか……!!」
すると、集団の前方にいた一人の男がそう言って、俺に向かって魔法で編んだ光の剣を振りかざして来た。
おお。
なかなか勇気のある行動だ。
この状況下で先陣を切って飛び出して来るとは賞賛に値する。
だが………ダメだな。
声が震えている。
その意気は認めるが、自分を奮い立たせるため自分に嘘をついている。
口ではそう言って向かって来ても、それは無意識に信じ込んでしまっている証だ。
ーーー俺の嘘を信じた証だ。
ボンと、男の目の前で魔法陣が浮かび上がり、言葉通り彼に向かって火が噴き上がった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!!!!」
魔法陣から放たれた火が男の剣を持つ手を包み、その熱さに耐えられず男が悲鳴をあげながら剣を落とした。
「お前、いつの間にそのような魔法陣を……っ!」
「言ったろ? ただの人だと思ってもらっちゃ困るって」
仲間の一人が燃え上がる様子を見たリーダーの女と他の連中が、恐怖を感じたのか一歩一歩と俺から距離を取っていく。
「逃げようとしてももう遅い」
もとより逃す気はない。
まあこのまま逃しても今回の件で懲りるだろうが、罪を犯したものはそれなりのところでそれなりの罰を受けてもらう。
そのためにはここですんなりと逃すわけにはいかない。
……詐欺師の俺が言うのもなんだがな。
「お、 おい! 早く撤退だ!」
「リーダー! でも……!」
「いいから……っておい。お前、やめーーー」
怯えた表情で外へと逃げ出そうとする敵集団に、俺はリナが魔法を放つときのように片手を相手に向け唱える。
「燃えろ」
俺がそう言うや否や、一人ひとり敵の足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから火柱が立ち上がった。
「………あっついな。火なんて出すんじゃなかった」
火柱が全て消え辺りが静まった中、ふと口からそんな感想が漏れる。
相手を捕まえるなら凍らせて動きを止めたりしてもよかったな……魔法ありきの世界だとそんな嘘でも簡単に倒せそうな気がするな。
「それにしても、呆気なかったな」
倒れた敵たちを見渡す。
どいつも服には焼け焦げた跡はあるものの、実際の肌や髪の毛などが燃えた形跡はない。
「……やはりそうか」
最初に監視の二人を倒したときもそうだったが、どうやらこいつらは何か防御系の処置を施していたんじゃないかと思う。
だが、そうは言ってもそれは物理的な攻撃に対してのみ有効であるようで、熱による熱さや一酸化炭素中毒といった症状に対しては働かないらしい。
ここにいる奴らは皆、限界を超えた熱さによる気絶もしくは一酸化炭素中毒で倒れたものばかりだ。
「う……」
と、そんなことを考えていると、倒れた奴らの中の一人が呻き声をあげる。
「まだ意識があるやつがいたか」
「く、くそ……あ、あの方の計画を失敗させては、ならないのだ…………」
見ると、リーダーの女が倒れ込んだまま、ギリギリのところで意識を保っていた。
「こう……なったら……まだ使いたくなかったが……」
そう言って女は服の内ポケットから小さな石を取り出す。
青白く光る石。
まるでこのアジトの中央にある巨大な石がそのまま小さくなったような……
「まさか……!!」
俺が危険を察知するも、そのときにはもう手遅れだった。
女がその石を破壊する。
「これで、お前も終わりだ………」
俺にそう言い残して、力尽きて意識を失った女の手の中の砕けた石の中から、何かがもごもごと生成されていく。
「おいおい……それは……」
俺は目の前に現れた巨大な生物を見て唖然とする。
頭は立派なたてがみを持つライオン、胴体はしなやかなヤギ、そして尾は一本一本が意思を持つ大量の蛇。
いわゆるキメラというやつだ。
体長は四メートルは超えているだろう。
「ギャァオオォォォンッッ!!!」
目の前に突如現れたキメラは地を割るような鳴き声を上げる。
キメラの視界に立っている人間は俺一人しかいない。
「言葉が通じない相手は俺にはキツすぎる………!」
キメラ相手に言霊は通じない。
つまり俺にはこのキメラをどうすることもできない。
キメラが俺に向かってその長い爪を振るってくる。
俺はそれをギリギリのところで避けたーー
「うはっ!」
と思ったが、その爪を振るう風圧だけで俺は壁までふき飛ばされる。
「お、おい……それを、どうするつもりだ………?」
吹き飛ばされた衝撃で軽く意識を飛ばされそうになりながら、俺はキメラの方を見る。
すると、キメラは体内から湧き上がる炎を口元に集め、大きな炎の塊が出来上がっていた。
「ギュルルルルゥゥ」
キメラがその球を俺に向かって飛ばしてくる。
やばい……! 死ぬーーーッ!!
そして、俺が死を覚悟したそのとき、
「お待たせしました! ユウリさん!!」
キメラの頭上にリナの姿が現れた。




