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老婆と真相

「さて、とりあえずその被害者が倒れていた場所はどこだ?」

「この街の近くにある森の西側です。詳細な場所はみなさんそれぞれ異なるのですが、大まかに言うとそうですね」

「その詳細な場所は……」

「大丈夫じゃ。儂が知っておる」

「OK……それじゃあ、被害と場所との間に何か関係があるかもしれん。森の地図なんかはあるか?」

「はい。今持ってきます」


 そう言って、フランが部屋を出て行く。


 一応、軽い自己紹介は済ませており、リナから薬を受け取った女性がフラン。テレポートを使える老人がマーズベルトと言うらしい。


「お待たせしました。この街とその周辺の地図です」


 フランが持ってきた地図を机の上に広げると、ペンを持ったマーズベルトが地図を確認する。


「まず、最初に発見されたのは森の中心から東に少し外れた辺り……この辺じゃの。そして二人目は………」


 マーズベルトはひとつひとつの場所を声に出して思い出しながら、点々と地図に印を付けた。


「で、ここが今日、十三人目を見つけた場所じゃ」


 そう言ってマーズベルトは十三個目の印を地図に描いた。


 全ての印のつけられた地図を見てみる。が、印は森全体様々な場所につけられており、何の規則性も見出せない。

 何か分かるかと思ったんだが、どうやら場所には何の関係もないようだな。


「ユウリさん。何かわかりそうですか?」


 地図を眺めていると、リナが俺の顔を覗き込んできた。


「いや、これだけじゃどうもな……フラン。ここに運び込まれた人たちに何か共通点はあるか? その森に一人でいた原因とか」

「いえ……特にはないと思います。患者さんの格好も冒険者のような人から建築士の方のような人とさまざまでした」

「近くに、変な動物や植物とかは?」


 俺は今朝、被害者を発見したというマーズベルトを見る。


「いや、そんなものはなかったの」


 だが、マーズベルトも首を横に振る。


 もしかしたら毒キノコなどそういう類のものではないかと思ったが、どうやらそれも違うようだ。


「そうか……」


 ……何ひとつ手がかりが見つからない。

 ただ闇雲に森の中を歩き回るというのも一つの手だが、俺とリナの二人だけでは広い森の中を隈なく捜査するなど時間がいくらあっても足りない。

 できれば避けたい案だ。


 何か、他にいい案はないか……?




「何も手がかりらしきものが掴めませんね……」


 隣を見ると俺と同様、リナもうーんと唸りながら頭を傾げている。


「このままだと、また魔力を失って倒れる人たちが出てきますね……なんとかしないとですけど……」

「ん? 待て……」


 魔力を失って倒れる…………そうか。その手があった! なぜ思いつかなかったんだ……!



「どうかしましたか?」

「一つ、いい案を思いついた」

「本当ですか?!」

「ああ」


 リナにそう返事をし、俺はフランさんに尋ねる。


「確か、被害にあった人たちはみんな一人で森を歩いているときに倒れたんだよな?」

「ええ……そうです」


「だったら実際に一人で森を歩いてみれば手っ取り早い」


「そんなのダメですっ!」

「そうです! 依頼した私が言うのもなんですが、それは危険すぎます!」


 俺が思いついた案を言うや否や、リナとフランが猛烈に反対してきた。


「何か。策でもあるのか?」


 そんな中、マーズベルトがそう聞いてきた。


「いや、策というほどではないがな……リナ、ちょっといいか?」


 マーズベルトの問いに対して、俺は曖昧に返答しながらリナを呼び寄せた。



「なんですか? 私は賛成しませんよ?! ユウリさんが倒れたりしたらどうするんですか!」

「落ち着け。お前は俺の体のことについて知っているだろう?」

「か、体のことって……! どど、どういうことですか」


 何を勘違いしたのか。顔を赤くし、激しく動揺し始めるリナ。


「だから落ち着け。何を赤くなっている。お前が教えてくれたんだろう。俺の中の魔力について」

「あっ!」


 やっと俺の言いたいことが理解できたのか、リナははっとした表情を浮かべた。


「そうか……ユウリさんには……」

「そうだ。俺の体内には魔力がかけらほども流れていないんだろ? なら魔力を失って倒れることはない。そもそも失う魔力がないんだからな」

「だから、一人で森を歩くなんて言ったんですね」

「そういうことだ」


 マーズベルトの言うことを信じるならば、今回の騒動の原因は場所とはあまり関係ない。被害者がその場に足を踏み入れたから魔力を喪失したという因果関係はなさそうだ。

 ということは、原因は動物などの動くもの。

 原因そのものが向こうから一人でいる人間に向かってやってくると考えるのが妥当だ。


「俺が一人でいるときにその原因がやってきたところを捕まえる。それでこの依頼は終了だ」

「分かりました」


「どうかされましたか……?」


 リナと話をしているとフランが不思議そうな顔でこちらを見てきた。


「いや、なんでもない」


 俺は元々この世界の人間ではない。

 体を流れる魔力が皆無というのは、この世界においては類を見ない、あり得ないことなのだ。

 このことはあまり他に公言しない方がいいだろう。


「とにかく私はユウリさんの考えに同意できません。リナさんもなにか言ってあげてください」


 そう言ってリナに迫るフランに対し、リナは申し訳なさそうに答える。


「そ、その……やっぱり私はユウリさんの案で行くしかないと思います」


 言おうとすれば止めたが、リナも俺の体質のことについては黙っておくつもりらしい。


「リナさんまで……!」


 予想外のリナの返事に悲しそうな表情を浮かべるフラン。


「もちろん、想定外の何かが起こった場合に備えて対策は練るつもりだ」

「でも……」

「まあまあ、フラン。 本人がこう言っておるのじゃ。それに何か考えがあるようじゃしの。彼を信じてみようではないか」


 それでもまだ、賛成しきれないフランにマーズベルトが声をかけた。


「大丈夫だ。ここに他の奴らみたく、魔力を失って運ばれることは絶対ない。俺の命にかけて保証する」


 命をかけるなどと心にもない宣言をしながらも、俺はフランの顔色を伺う。

 別にフランになんと言われようが俺には関係ないのだが、協力関係を結んでおいて悪いことはない。




「はあ……わかりました。約束ですよ! 絶対にこれ以上、被害者を増やさないでくださいね」




 *




 次の日の朝。

 俺は例の森の中を一人で歩いていた。



 手がかりを探すためにもとりあえず、被害が出た場所に足を運んではみたが、マーズベルトの言う通り、あたりに変わった植物などは見当たらなかった。


 それぞれの場所に共通点があるといったこともなく、やはり今回の騒動は突発的に起こった何かしらの自然現象または森に棲む野生動物の仕業か、それとも誰かが引き起こした事件かのどちらかだと推測できる。


「前者だといいんだがな……」


 もちろん前者であっても面倒なことに変わりないのだが、自然現象や野生動物の仕業であるならば仕方のないことだと割り切れる。

 それに対策についても簡単だ。

 ただこの森への立ち入りを禁止すればいいだけの話だ。



 だが、後者だと話はそう単純ではない。

 なんといってもその場合、犯人との接触を避けては通れない。

 原因が分かった。よし帰ろう。と言うわけにはいかないのだ。


 それに、対策にしても森への立ち入りを禁止したところで、犯人は活動場所を移して、森ではない違うどこかで同じような行為を繰り返す。


 それでは根本的な解決にはならないし、依頼を達成したことにはならないだろう。

 楽をしようと中途半端にこなし、その結果、無駄な時間を浪費してしまうという未来は避けたい。


 速やかに、そして完璧に依頼をこなしてさっさとテレポートでアルベレンへ向かおう。



「そこの坊や……助けておくれ……」



 そんなことを考えていると茂みの中から萎れた声が聞こえてきた。

 茂みを分けると、そこには座り込んでいる老婆の姿があった。



「ちょっと足を挫いてしまってねぇ……すまんが、ちょっと手を貸してくれんかの」


 老婆はそう言って、ちょいちょいと俺を手招いてくる。


「悪いが、俺はまだ街に戻る予定はないんでね。街まで送り届けることはできない」

「なら、あそこの日のよく当たっている木のところまで連れて言っておくれ。夕方まであそこで休むとするよ。この薄暗い茂みの中よりかは数倍もマシさ」


 老婆が指差す方向には、確かに木々の隙間からたくさんの日の光が漏れている場所がある。


「仕方ないな」


 俺もさすがに、この短い距離を進むのを嫌って、茂みの中に怪我した老婆を放っておくほど非情な人間ではない。

 俺は茂みの中に足を踏み入れ、老婆に手を差し出した。





「ありがとう…………あれ?」




 老婆は礼を言いながら俺の手を取ると、しばらくして素っ頓狂な声を上げた。




「……? どうした?」

「どうしたって? あんたはどうもしないのかい?」



 なんだ? 俺がどうしたって言うんだ?




「俺は特にどうもしないが……」




 なにかあるのだろうか。

 そう答えた俺を見て、なぜか老婆が焦ったようにそわそわし始める。

 それにさっきから老婆の俺の手を握る手が妙に力強い気がする。

 不思議に思っていると老婆の表情が急に変わった。




「ちっ! なんだお前は! 魔力がこれっぽっちも吸い取れねぇ!」




 突然、老婆が俺の手を弾き、先ほどの弱々しい口調と打って変わって、やけに男勝りな荒々しい口調でそう言った。



 一瞬、目の前で何が起こっているのか理解できなかった。

 頭の回転は早いと自負していたのだが、ここまで急な展開に流石についていけない。


 なんだって?

 魔力……吸い取る………?



 確か、俺がここにいる目的は……



 なるほどなるほど。

 ようやく頭が追いついた。



「ここ最近森で人々から魔力を奪っていたのはお前か」



 俺は目の前の老婆にそう聞いた。



「はっ! なんだお前。知っていたのか」

「知ってるも何も、俺はお前を捕まえるためにこの森へ来た」

「俺を捕まえる? はは! それはこっちのセリフだぜ。こうもはっきりと手口を知られた限り黙って返すわけにはいかないな!」

「ふん。そんな年老いた体で何を………」


 言っている、と言いかけたところで遅まきながら気がついた。



「ん? 年老いた体でなんだって?」



 老婆が挑発じみた口調でそう聞いてくる。


 周りを見渡すと老婆の仲間だろう黒いローブを被った何人もの奴らが俺を取り囲んでいた。


 俺としたことが油断した。

 てっきり敵は一人だろうと思い込んで、周囲の警戒を怠っていた。


 さすがにこいつらを全員捕まえるのは無理がある。


 さて、どうするか……


 俺は周りの状況を確認する。

 軽く二十人は超えているだろう。


 だが、敵の数が多いことは何も悪いことだけじゃない。

 一人の心が揺らぐと、その疑心は周りの人間に伝播する。

 俺の嘘が響きやすい状況でもある。



 ここで全員倒すという手もあるが……


 いや。それはやめておこう。

 これだけの人数だ。

 この森にどこか拠点となる場所が存在するはずだ。

 そこを突き止めてからでも遅くはないだろう。


「おい。こいつの腕を縛れ」


 老婆が命令すると、俺を取り囲んでいた何人かが俺の腕を紐のようなもので縛り始める。


「お前の魔力がなぜ奪えなかったのかは分からんが、その話は後で聞こうか」



 腕を縛られた俺に対し、老婆は見た目にそぐわないほどしっかりした姿勢でそう言った。


「俺をこれからどうするつもりだ?」



 老婆の返事次第で俺の出方も変わってくる。

 俺を今すぐ殺そうとするならば俺だって反撃する。


 俺の武器は口だ。

 腕を縛られたところで大して痛くない。


 後で聞こうと言っているあたり、別に殺そうとしているわけではなさそうだが、拠点に向かわないのであれば黙って捕まっているのも意味がない。



 と、様々な考えを頭の中で巡らせていたが、その心配も老婆の返事で掻き消えた。



「そうだな。大人しく我々について来て貰おうか」



 とりあえず、まだ捕まったままで良さそうだ。









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