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その3 虎の子渡し


「だからさあ、佐竹。小ムネの夜泣きがひどくって、女官さんたちがここんとこ、ずっと寝不足になっちゃってるっていうからさあ……」

 小ムネユキの寝所の部屋で、困った声で内藤が佐竹を説得している。


 ここは異世界。弟星のノエリオール、その王宮の一室だ。

 赤子を世話する部屋らしく、全体に彩りは明るい爽やかな色目で統一されている。

 そこに置かれた長椅子に座り、おくるみにつつんだ小ムネユキを腕に抱いて、先ほどからずっと内藤は困った顔で言い募っていた。


「だから俺もこの部屋で、小ムネと一緒に寝ようかなって、ただそれだけの話じゃん?」

 彼の腕の中の赤子は、「ぶぶ、あぶう」と意味不明の声を上げながらも、目の上の内藤の顔をじいっと見つめる風である。

「すぐそばに居たほうが、なにかと世話とかもしてやりやすいしさ。なんでそんな、怒ってんの……?」

 そう言って、ちょっと首を傾げている内藤を、先ほどから佐竹が腕を組んで仁王立ちになり、恐ろしい目で睨みおろしていた。その周囲の空気は、すでに絶対零度まで冷え込んでいる。


「本気で、それで済むと思ってるのか」

 やっと言葉を発したと思ったら、やっぱりその声が地を這っている。

「ここは、あの狂王サーティークの王宮だぞ。俺と一緒に寝ろとは言わんが、せめて同じ部屋にいろ」

 その上で、「でなければ『危機管理』の意味がない」と、ぼそっと意味不明のひと言が聞こえた。事実二人は、昨夜は違う寝台ベッドではあったものの、共に二人用の客間の一室に泊まっている。


(はあ? どういう意味なんだよ、まったく……。)


 内藤はもう、呆れ果てて二の句が継げない。

 佐竹の心配していることが一体なんなのか、さっぱりわからないのである。


 そういうことなら、もういっそ佐竹も小ムネユキの寝所で一緒に休めば、という話になってもよさそうなところなのだが、実はそういう訳にもいかない事情があるのだった。

 ムネユキは、何故か実の父親であるサーティーク以上に、佐竹のことを嫌っているようなのだ。今もそうだが、こうして同じ部屋にいるだけでも、なんとなくぐずぐずと機嫌が悪くなる。

 そのことはもう何度もためして実証済みで、これで佐竹が部屋を出て行ったとすれば、途端ににこにこ、きゃっきゃとご機嫌が全快してしまうのだった。その豹変ぶりといったらもう、なにかの魔法にでもかかっているのではないかと疑いたくなるほどである。


 因みに、そのことを知ったときのサーティークの、勝ち誇ったような顔といったらなかった。

「傑作だな、『兄上殿』!」

 と、まるでもう鬼の首でも獲ったかのような喜びようで、憮然とした佐竹の背中を力いっぱいばしばし叩いた。

「さすがは小ムネユキだ。己の敵は生まれながらに、本能的に嗅ぎ分けるようだな? 大したものだ――」

「は? 敵……??」

 まったく意味がわからずに呆然としている内藤を後目に、瓜二つの二人の男は、空中でびしばしと、殺気だった眼光をぶつけ合った。

 佐竹は完全に不愉快きわまりない顔だったが、対するサーティークも似たようなもので、一応顔は笑っていたものの、その目はまったくそうではなかった。


 内藤は、溜め息をつく。


(なんで小ムネ、そんな佐竹のこと嫌いなんだろ……?)


 大体そもそも、その「敵」っていうのは何だ。

 一体、なにが原因で、小ムネと佐竹が敵同士にならねばならないのだろう。

 まさか内藤も、ここまでだとは思わなかった。だから正直なところ、ちょっと残念な気持ちもある。内藤としては佐竹と一緒に、ごく平和裏に小ムネユキの世話ができるものと考えていたからだ。

 佐竹も今では、この赤子に嫌われているという事実を重々承知していて、決して小ムネユキのそばに近寄ろうとはしない。当人は決して小ムネユキのことを嫌っているわけではないようだったが、それでもここまで忌避されていれば、おのずと「可愛い」とまでは思えなくて当然だろう。


 いや、まあいい。

 そのことは、今はいいのだ。それよりも。


「え〜っと……。いや、だから何をそんなに心配してんの? 俺が赤ちゃんと一緒に寝たからって、なにがどう危険なんだよ??」

 いやまあ正確には、この小ムネユキと、その抱き枕であるひつじの顔をした大きなぬいぐるみと一緒に、だが。

 ぽわっとしたその質問を受けて、佐竹の両眼がさらに剣呑になった。

 「それをいちいち、具体的に説明せねばわからんのか」と、その眼光が言っている。

「厄介だな……」

 顎に手をあて、ごく低く言ったその台詞は、内藤にはやっぱり聞こえなかった。

「え?」


 しばし無言で、そんな「恋人」を見下ろしていた佐竹だったが。

「……わかった。すぐに元の世界に帰るぞ」

 次に来た彼の台詞は、思った以上に突拍子もないものだった。

「……へ!?」

 内藤は、耳を疑う。


(元の世界に、帰るって……??)


「ちょ、ちょっと待ってよ……! だって俺たち、つい昨日、ここに着いたばっかしじゃんっ……!」

 さすがに声を高くして、抗議する。

「『小ムネの子育て手伝います』ってわざわざ来といて、一泊しただけで帰るとかっ……、いくらなんでもそれ、ひどいし!」

「…………」

「まだ、ろくになんにも手伝えてないじゃんかっ! もっと小ムネと一緒にいたいし! 俺、そんなのだからなっ……!」

 なんだかもう最後の方は、半分泣きが入りそうになる。

 佐竹はもう、無言で眉間に厳しい皺を寄せているばかりだ。


 が、やがて。

「なら、連れて戻ればいいだろう」

「……は?」

「要は、『虎の子渡し』みたいなもんだ」

「……へ?」

 内藤の呆然とした顔などには一瞥もくれないで、佐竹は勝手に自分の中で、その結論に到達したようだった。

「サーティーク公に話を通す。ちょっと此処ここで待っていろ」

 言うが早いか、もう踵を返して、長身・強面のその男は大股に部屋から出て行った。


「え? いや……ちょっと、佐竹……??」

 だらだらと冷や汗をかく。


(連れて帰る……って、まさか――) 

 

 まさか、あっちの世界へか。

 思考がぐるぐるして、まったくまとまってくれなかった。


(でも、だって、赤ちゃんだぞ? あの《鎧》の《産道》を、小ムネを抱いて歩けって……??)


 あの冷静な佐竹をして、何がここまでそんな暴挙へと衝き動かすのか。


(大体、あっちの世界で、病気とかなったらどーすんの??)


 というか、父や洋介に、どうやって説明すればいいというのか。

「だっ、大丈夫……だよな? 小ムネ?」

 困りきった顔で、抱いた赤子の顔を覗きこむ。佐竹がいなくなったことで、案の定というべきなのか、赤子は非常なにこにこ顔で、うれしげに内藤を見上げていた。「だあ」「ぶう」と、いかにももの言いたげな可愛い唇がうごめいている。

「まさかお前のお父さん、んなこと許可しないよなあ……?」


 しかし。

 内藤の期待は、予想外にもあっさりと裏切られることになる。


「面白い。どうせなら社会勉強でもさせてやれ」

 実の父親の軽いそんな一言で、あっさりと小ムネユキの「地球行き」は決定されてしまったのだった。


相変わらずどあほな展開です…。

いやもう半分以上二次ですね、これ(苦笑)。

怒らない人だけついてきてください…^^;;

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