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その10 ナイト参上

今回は、コメディというか、ちょっとしたほのぼの回。

よろしかったら^^

 そのかたがノエリオール宮にやってきたのは、佐竹と内藤が洋介や馨子とともにここへ来て、ほんの数日後のことだった。

 フロイタールの王族の衣装を身にまとい、白いマントを流してゆったりとこちらを見ながら微笑んでいる、その青年。まるで鏡を見ているかのような、しかしやや年上に見える落ち着いたその青年を、内藤が忘れるわけはなかった。


 それが誰だかを認識した途端、内藤は目を真ん丸くした。

「あ……あれっ? ナ、ナイトさん……?? ど、どうして……?」

 ここは、いつもの小ムネユキ殿下の部屋である。

 サーティークと共に入室してきた青年は、一同を見てにっこりと微笑んだ。


「やあ、皆さん。お久しぶりだね。サタケ殿もナイトウ殿も、お元気そうでなによりだよ」

 さすがの佐竹も、少し驚いた様子で目を見張ったが、すぐに姿勢を正して一礼をした。

「こちらこそ、ご無沙汰しております、陛下。その節は、内藤ともども大変お世話になりまして、まことに有難うございました」


 佐竹が言うのは、三年前にあちらの世界で内藤が交通事故に遭った、あの顛末のことであるらしい。

「いやいや。私は大したことはしていないよ。どうか頭を上げてくれ」

 几帳面に頭を下げる佐竹を鷹揚に手で押しとどめ、ナイトが嬉しげににっこり笑う。


 実はもともと、彼のその体こそが本当の内藤の体なのだが、中味が変わればこうまで人というのは印象が変わるのだという、これは大変よい例だ。

 今のナイトの立ち居振る舞いや言葉遣いは、どこからどう見ても、もう立派なフロイタール国王のそれでしかない。

 

 ナイトはすぐさま、小ムネユキを抱いた女官の隣にいた洋介に目を留めると、ひどく嬉しそうな顔になった。そうしてすぐに、彼らのそばに膝をついた。

「ああ。もしかして、君がユウヤ殿の弟君かな? あの時はゆっくりお話もできなかったけれど、ほんとうに、ヨシュアの幼い頃にそっくりなのだね」

「え、えっと……えっと」

 洋介は、自分の兄とナイトをきょときょとと何度も見直して、あんぐりと口を開けている。

 内藤自身も、まあ似たようなものだった。

「あのっ、どうなさったんですか? どうしてナイトさんがこっちの国に……?」

「ああ、それなのだがな」

 返事をしたのはサーティークの方だった。


「そなたには、そうそうあの《鎧》を使って異界から来てもらう訳にもいくまい? ナイト公はこの通り、そなたに瓜二つの御仁だ。それで試しにと、ナイト公にも小ムネユキの顔を時折り見に来ていただいている。まあ駄目で元々かと思っていたのだが、これが意外にも図に当たってな」

「へー! そうなんですか? ナイトさん」

 ナイトはちょっと苦笑したが、相変わらずの優しい瞳で頷いた。

「ああ、……うん。そうなんだよ。政務の方は、今ではかなりヨシュアが頑張ってくれるようになっているものだから。それをいいことに、なのだけれどね」

 ナイトは嬉しい反面、やや寂しげな笑みを浮かべた。

「ヨシュアに王位を譲るのも、そう遠くないことかなと思っているよ」

「そうなったらなったでいい。ナイト公には是非ともこちらへ、子守りにいらして頂こう」

 サーティークがすかさずそう言って、にかりと意味深な笑みを浮かべた。


(わ〜、ナイトさんまで巻き込まれるのかあ、この事態に……)


 内藤はあきれ返る。

 気の毒に、内藤に瓜二つであるばかりに、一国の王であるにも関わらず、もとは敵国だったはずの国の王子の子守をさせられる破目になるとは。

 いやはや、人生わからないものである。


 ナイトの腕には、すでに女官から小ムネユキ殿下が抱きとられている。小ムネは彼の腕の中で、「ないとこー!」などと言いながら、その頬に手を伸ばしてご機嫌の様子だった。

 ナイトのほうでも、自分にこうまで懐いてくれる赤子はやっぱり可愛くて仕方がないようで、「なんですか、ムネユキ殿下?」と、にこにこ嬉しげである。


「なんだか不思議な気持ちだよ。赤子のサタケ殿を腕に抱いているような気もして、変な感じではあるけどもね」

 くすくす笑うその顔が、もとは内藤のものだとは思えないぐらいに綺麗に見えるのは何故なのか。やはり、育ちというのはかくも大事だということだろうか。

 そんな見るからに優しげなナイトを見て、洋介もすぐに安心したらしかった。そうして早速、お互いに自己紹介など始めている。

 佐竹は勿論、なにやら微妙な顔になって、しかし無言を貫いていた。



 と、みなが和やかに歓談しているところへ、馨子が竜将ヴァイハルトを伴って現れた。

 普通ならば、この場合「ヴァイハルトが馨子を伴って」と言いたいところなのだが、それはどこからどう見ても、馨子がヴァイハルトを従えているようにしか見えなかった。


 佐竹や内藤から、「あまりにも小ムネが緊張するので」と赤子から強引に引き剥がされた馨子に、ヴァイハルトが「それなら」と、このところ政務に関する意見を聞くことが増えているのだ。

 とりわけ、彼女の専門分野である法務に関して、これは冗談ごとでなく、ヴァイハルトやサーティークにとっても有意義な意見交換ができているらしかった。

 サーティークもこのごろでは、「正妃だの側室だのはともかくも、カオルコ殿には是非とも今後もこちらへのご助言・ご協力を願いたい」と、真顔で言うまでになっている。

 それを聞いた佐竹が毎回、心底辟易した目になるので、内藤は実際、気が気でない。


(さっすが、佐竹のお母さん。す〜ぐに、自分の居場所を確保しちゃって――)


「あらやだ! また新顔さんが増えてるじゃな〜い。祐哉きゅんにそっくり……っていうことは、あれね! ナイト様ね? そうでしょう?」

 言うなり、馨子はとっととナイトの傍まで行って、さっさと自己紹介など始めている。


「あら素敵。こちらの陛下もまだ独身でいらっしゃるの? それでしたら、素敵な優良物件が目の前に――」

 馨子が言うか言わないかのうちに、もう佐竹がその首根っこを引っつかんで、有無を言わさずナイトから引っぺがした。

「我が家の恥さらしだ。大概にしろ」

「きゃ〜っ。いや〜ん、あきちゃん、冗談じゃないのうっ。あたしは宗之さんやあきちゃんみたいな、キリッとした男前男子が好みですもの。こちらの陛下はあきちゃん好みの可愛いタイプでいらっしゃいますからね。これはあれよ、ちょっとしたご挨拶。一応の通過儀礼みたいなものよ。だから、ねっ? いい子だから妬かないで?」

 馨子がにこにこ笑って言い放ち、佐竹の周囲がまた冷え込んだ。

「……誰が妬くか」


 おっそろしい目になった佐竹を見やって、小ムネユキを抱いたままのナイトもちょっと困った笑顔になった。

「あ、ええっと……」

 「大魔神」ならぬ「大魔女神」の出現で、ナイトの腕の中の小ムネユキは、またかちんと体を固くしたままである。

「そっ、そういえば、近頃の小ムネユキ殿下は、そろそろお歩きになりはじめているとのことだったね。私も、そのお姿を見るのをとても楽しみにしていたのだよ。今は、どのぐらいお歩きになられるのでしょうね? サーティーク公」

 ナイトが品よく話題をすり替え、サーティークは「心得た」とばかりに、その話題に乗ったらしかった。


「ああ、そうですね、ナイト公。丁度いい。では今日は、せっかくこうして皆様お集まりのことでもありますし、少しムネユキに頑張らせることといたしましょうか――」


 にかりと笑ったサーティークを、場の全員が、「はい?」という顔で見返した。



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