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不破瞳は生まれたばかりの息子皆人を連れて竜ケ崎邸を訪れた。
古風な和風の門を抜けて出迎えてくれたのは女当主麗那の双子の子供麗華と麗一、そしてその背後に二人よりも少し大きな少女、
「あら刹那ちゃんたちは先に来ていたのね」
「こんにちは、瞳おばさま」
とペコリ。
双子は今日が三歳の誕生日。刹那は少しだけ年上で、来年の三月に四歳になる。
三人に案内されて奥へ進む。麗華と麗一は瞳が持っている箱が気になってしょうがない様子だ。
奥の客間に当主の麗那と刹那の母野田可奈多がいた。
「お久しぶりです不破先輩」
瞳と可奈多、そして麗那は同じ高校の先輩後輩である。学年としては瞳が一つ上で、麗那は怪我で入院していたので卒業は一年遅い。
年上の瞳の子供が一番小さいのは、瞳が大卒でそれも医大を出てから出産したからだ。
「これ、二人のための為のバースデーケーキよ」
と差し出すと双子は嬉しそうに受け取った。
「もしかして瀬尾先輩が?」
と可奈多。
「中のスポンジは店の職人さんが焼いたけど、デコレーションは手ずからよ」
「お忙しいでしょうに」
と恐縮する麗那だが、
「まあ閉会中だから暇そうよ。選挙も終わったばかりだし」
「頭数が増えたから大変なんじゃあ?」
瀬尾先輩、総一郎が率いる青年党はこの年の総選挙で五十名を超える大勢力になっていた。
「それよりも早くケーキを切ってあげて」
双子はケーキを待ちわびてうずうずしている。
「そうね」
麗那はナイフをふるってケーキを六等分にした。
「貴女が刃物を振るうと、下のテーブルまで切りそうね」
「そんなことしませんよ」
と苦笑する麗那に、
「出来ません、じゃないんだ」
と笑う可奈多。
「流石にこれじゃあ無理です」
麗那は竜ケ崎一刀流の宗家である。
「瞳先輩こそ、これから刃物で人体を滅多切りにするんでしょ」
「人聞きの悪い表現をしないで」
瞳の専門は外科である。
二間続きの和室の奥に用意されたベビーベッドに寝かされている皆人。それをのぞき込む三人。
「随分と大きいわね」
と刹那。
「むかし私たちが使っていたやつだから」
双子用なので幅が大きいのだ。
「なるほど」
人見知りもせず三人を興味深げに見つめて、
「ねえねえ、にいにい」
と手を伸ばしてくる。
刹那は目を丸くして背後の瞳を振り返って、
「小母様。この子言葉を話せるの?」
「まだ単語をオウム返ししてくるだけだけどね」
「私は野田刹那よ。せつな」
と自己紹介すると、
「せちゅな」
と繰り返す皆人。
「私は麗華。こっちは弟の麗一よ」
と言うと、
「れぇか、れいち」
と繰り替えす。
「凄い」
三人はもう一度名前を名乗ってみる。
「せつな、れえか、れいち」
先ほどよりも滑舌が良くなっている。
刹那は三人の位置を入れ替えて、
「私は?」
と聞いてみる。
「せつな」
そして麗那と麗一も指さして、
「れいか、れいいち」
と識別して見せた。
面白がっていろいろと話しかける三人。皆人はそれに逐一反応していたが、先に麗華と麗一の方が疲れてあくびを始めた。
「刹那、そろそろ終わりにしてみんなを寝かせてあげなさい」
と可奈多。
「そうね。布団を敷くわ」
三人は麗那を挟んで川の字になって眠った。
「普段はなかなか寝付かなくて困っているんだけど。今日は遊び疲れちゃったのね」
と麗那。
「刹那ちゃん、年の割に大きいわね」
と医者に成り立ての瞳。
「両親ともに小さいのに」
刹那の父阿僧祇は体が小さいことをコンプレックスにしていた。
「顔立ちも含めて義姉さんに似たんでしょうね」
阿僧祇の姉なゆたは競泳界のスターである。弟の阿僧祇も運動神経は良かったが、体格が小さいのでなかなか大成しなかった。ようやくバレーのリベロとして実力を付けて、昨年には姉弟揃っての五輪出場を果たした。
「結局、先輩が最後の一人でしたね」
と麗那。
「二人とも普通に結婚しちゃったものねえ」
三人はほぼ同じ時期に瀬尾総一郎と知り合い、ハーレムの参加者候補になった。三人はそれぞれハーレムのメンバーから候補者指定の連絡を受けたが、最終的に参加したのは瞳のみ。それ以降、新たな候補も誕生しなかった。
「先輩は志保美先輩の紹介になるんですか?」
「まあそう言うことになるのね」
西条志保美は不破瞳の父の教え子にあたる。それ以前に、総一郎の実父速水秀臣の妻は瞳の伯母であり、従姉の御堂真冬もハーレムのメンバーになっている。
「二人は?」
「私のところには希代乃様が」
と可奈多。
可奈多の姉日野波流歌は最初の七人の一人で、希代乃の最大のライバルだった女性だ。
「姉の小学校時代の同級生だから、家にも遊びに来ているはずなんですけど。何せ当時とは別人なので」
小学校時代の神林希代乃はぽっちゃり姫の異名をもつふくよかな少女だった。中学に上がって、総一郎たちと離れてから体重はそのままで身長が二十センチも伸びてしまって、当時の面影を探すのは困難である。
「先輩の結婚式のお手伝いをしたので、その時にメンバー全員と顔を合わせましたけど、それ以前に親しかったのは希代乃様とうちのボスくらい」
可奈多がボスと呼ぶのは希代乃の紹介で彼女を雇ってくれた水瀬麻里奈である。
「他に西条先輩には自立の時にアパートを紹介していただきましたね」
「希代乃様って、ちょっと怖い人ね」
と麗那。
「そんなことは無いわよ。理に聡い人だけど、同時に情に厚い人であるわ」
と瞳。
「そうね。困っている私に親身に接してくれて」
と可奈多。
「敵とでも利害が折り合えば妥協を厭わない柔軟さも持ち合わせている人よ。敵との戦いも生きるか死ぬかのゼロサムゲームではなく、利益を生じさせるプラスサムゲームにしてしまう」
とべた褒めである。
「私から見れば矩華先輩の方が怖いわ」
と可奈多。
「確かにすべてを見通すようなあの鋭い眼差しは怖いけど」
と苦笑する麗那。
「りっか姉は、理に厳しいけど。ああ利害の利じゃなくて道理の理ね。ハーレムのシステムを考え出したことでも分かるように、理想と現実を整合する叡智を兼ね備えた人よ」
「普通なら同じ男性を取り合う関係なのに、そこまで冷静に評価できるんですね」
と感心する麗那。
「取り合っているんじゃなくて、みんなでシェアしているのよ」
と笑う瞳。
「阿僧祇さんと知り合ったのは麻理奈さんの紹介?」
「知り合ったのは先輩たちの結婚式だけど」
「その結婚式の時の話を聞かせて」
と喰いついて来た麗那。
「阿僧祇さんは、姉のなゆたさんとセットで呼ばれていたんだけど。ハーレム関係だけだと女性ばかりになるから」
と瞳。
「新郎側と新婦側に振り分けるのが一苦労だったと聞いてます」
と可奈多。
「全員で社交ダンスを踊ったとか」
「初めは新婦のお母様が出し物として踊るはずだったんだけど、それならみんなで順番に踊ればいいと希代乃様が言い出して」
総一郎が新婦の矩華を始めとしてハーレムの女と順番に踊り、関係者が伴奏して踊る。
「ちょうどその時の映像を残したディスクがあるわ」
と取り出した瞳。
「きよねえが編集した、関係者だけに配られたものよ」
初めに相手を務めるのは主役でもある新婦の矩華。そして一緒に踊るのは企画の言い出しっぺでもある新婦の両親永瀬ご夫妻。続いて新郎の実父である速水の伯父様と母親代わりの西条美星。総一郎の相手は娘の志保美。更に仲人の神林夫妻と続く。総一郎のパートナーは当然娘の希代乃だ。
「皆さん、ノリノリですね」
と笑う麗那。
次に真冬が登場し、伴奏カップルは姉の真夏と矩華の弟永瀬貴志。二人は貴志の卒業を待って結婚した。そして瞳の出番。
「翼先生のお相手は誰ですか。随分と若いようだけど」
「貴志君の同級生で、私の同業者。瀬尾聡太郎君よ。先輩のお母様を拾って育てた瀬尾総門氏の甥っ子の息子だから、血は繋がっていないけど又従姉弟になるのね」
翼は数年後に千里の兄千万太と結婚するが、この時点ではまだ関係は始まっていない。また聡太郎も母方の従妹との結婚話が持ち上がっていたが、
「聡太郎君のお相手はまだ中学生だったので、この場に呼ぶのは止めようと言うことになって」
と可奈多が補足する。
その次が野田なゆたで、弟の阿僧祇と踊っているのが可奈多である。
「ここも未来の御夫婦ね」
と麗那が笑うが、
「この時が初対面で。だからどことなくぎこちないでしょ」
と照れる可奈多。
「最後が千里叔母様。そして司会をしていたまりねえと先輩の親友でまりねえを引き合わせた当事者でもある勅使田類博士。まあこの時点ではまだ修士課程の学生だけど」
「何の博士ですか?」
「工学になるのかしら。専門はAIで、うちの病院とも共同研究をしているわ」
「ハンサムですよね」
と可奈多。
「母親がフランス人でハーフだそうだから」
「それにしても、主役のはずの永瀬先輩がいまいち嬉しそうじゃない気が」
と麗那。
「りっか姉は入籍も渋っていたし、結婚式は出来ればしたくないってごねていたからね」
と瞳。
「それは、他の方に気を使って?」
「仕事柄、結婚に夢を持てなくなったと言うのが実情みたいだけど」
矩華は女性弁護士として男女間のトラブルを扱うことが多い。もちろん離婚調整も数をこなしている。
「結婚式を一番強く望んだのはきよ姉だったわね」
「希代乃さんはどう言う積りで?」
「本音は簡単に漏らさない人だけど、これは単なる結婚式と言うよりもハーレムの結団式と言う側面が大きいみたいね」
「そんなことより、ご主人の第一印象はどうだったの?」
と麗那。
「別に。私この時はミーハーにもお義姉さんの方とばかりお話していたから」
「知名度で言ったらこの中で一番だものね」
神林希代乃はその筋では有名だが、顔はあまり知られていない。御堂真冬はこの時点ではまだ駆け出しで評価は定まっていなかった。
「決め手になったのは、初めて関係を持った時。随分と落ち着いているので、慣れているんですね、って言ったら。実際にするの初めてですって」
事情を知っている瞳は苦い表情を浮かべたが、事情を知らない麗那は、
「実際に?」
と首を傾げた。
「以前に予行演習をしたって」
と苦笑する可奈多。
「ボスにも裏を取ったけど、先輩もその場にいらっしゃったとか?」
と瞳に矛先を向ける。
「これは阿僧祇さんが何故呼ばれたかにも関わるんだけど」
と前置きして、
「話はまふ姉がハーレムに参加して程なくの頃。まふ姉の企画でキャンプに行ったのよ」
ハーレムメンバーだけだと男手が足りないと言うことで呼ばれたのは、矩華の弟永瀬貴志。その元同級生で総一郎の親戚である瀬尾聡太郎。そしてなゆたの弟野田阿僧祇の三名。しかもなゆたな本人は多忙のために不参加だったのに。
「でも姉が居なかったことが逆に良かったのかもしれないけど」
「なんで瞳先輩は呼ばれたんですか?」
「既に候補生として一度見学会に呼ばれていて、要するに最終的な意思確認だったのね」
「見学会?」
二人はそこに喰いついたが、
「ともかく、先輩は三人の弟分に女性を体験させてやろうとけしかけたの。真っ先に手を上げたのは聡太郎君で、指名されたりっか姉は口で相手をした。続いて阿僧祇さんは長年の憧れだったまりねえを指名して」
「ボスは素股で応じたって」
「二人はそれぞれまだ将来の伴侶と出会う前だったのだけど、貴志君はまな姉にアプローチしている最中だったから。逆にまふ姉の方から仕掛けたの」
「やっちゃったんですか」
と可奈多。
「この為にご丁寧にちゃんとゴムを用意してね」
「それは先輩とするためじゃあ?」
「無いわね。だって先輩のものはそんな市販品じゃ収まらないから」
思わず顔を見合わせる二人。
「それよりも今度は麗那ちゃんの馴れ初めを聞きたいわ」
と話題を変える瞳。
「私は獅子王の女になりたかったんです」
と切り出す。
「獅子王の伝説に付いて知ったのは怪我で入院しているとき。同室の女の子から話を聞いて。それが現役時代の瀬尾総一郎の異名だと知った直後に、その当人が教育実習生としてやってきたんです」
この三人が総一郎と出会ったのはまさにその期間だった。
「その時点では、ハーレムは定員が埋まっていると言うことでやんわりと断られましたけど、しばらくして欠員が出来たからって連絡をくれたのが永瀬先輩」
「あとから聞いた話だと、きよ姉が可奈多さんを指名したんで、対抗上りっか姉が麗那ちゃんを推したとか」
と瞳。
「そうだったんですか」
と笑う麗那。
「永瀬先輩との初会見の時、ちょうど今の夫も同席していて。獅子王の話は先輩も初耳だったと見えて、話題はそっちにずれてしまったから」
「獅子王の女になりたいなら、初代でも三代目も同じなのでは?」
と可奈多。
「ええ。それは言われました。実際、私が聞いた獅子王の伝説は初代のものと三代目のものとが混在していたから」
「後は実際に本人を見て選ぶしかないわね」
と瞳。
「私に選ぶ権利があればですけど」
と苦笑する。
「でも実際には今の御主人を選んだ」
と言われて頷く麗那。
「決め手は何だったの?」
「先輩から提示された参加条件は、高校を卒業して且つ自立していること。私にはこの道場があったのだけど、それを叔父と争うことになった。その時助っ人として現れたのが、水瀬さんと三代目だった。それが結果として私の心を決めてくれたのだけど」
これが縁となって、麗那は麻理奈の舞台にゲストとして立った。その間にハーレムメンバーが次々に楽屋を訪ねてきた。
「二人を推薦したのは瀬尾先輩だったんですよね?」
「まあ結果として先輩の計画通りだったのでは?」
との指摘に、
「今にして思えばね」
と同意する麗那。
「瀬尾総一郎と言う人は、常に最適のAプランの他にBプランを用意している人だから。どちらを選んでも良いと言う状況は至極当然と言うか、むしろ問題はどちらも選ばなかったとき。でしょ」
と瞳。
「だからその押しは、どちらかを選ばせるためのものでしょうね」
どちらも選ばなかった場合、ハーレムの情報が外に漏れてしまう可能性がある。
「困るのは瀬尾総一郎本人じゃなくて、参加している女性の方。そう言うことに最も気を回すのはおそらくきよ姉あたりかな」
「口止めのBプランですか?」
とちょと気を悪くする麗那だが、
「むしろハーレム入りの方がBプランでしょ」
と可奈多。
「そうねえ。私と二人の境界は他の選択肢があったと言う事。今ハーレムにいる人たちは、私も含めて瀬尾総一郎一択だった女性ばかりだもの」
「瞳先輩は男嫌いで有名でしたものね」
と可奈多。
速水秀臣をめぐる神林ほのかと御堂江利の争い。江利の妹である映見は姉が親友の男を奪ったのだと勘違いしていたが、実際のところは婿入りを望む神林家と速水姓を守りたい秀臣の意思が折り合わなくて関係が壊れた後、御堂の次女であった江利が接近したのであった。瞳の男性不信を助長したのは実の両親の冷めた関係。秀臣とは真逆の浮気をしそうにない男を選んだ映見であったが、夫となった不破清彦は妻である映見に対してもあまり興味を示さない淡白な性格だった。
「結局両極端なのよ」
とかつての偏った男性観を反省する瞳であった。
「で、瀬尾先輩はどう違ったんですか?」
と二人に迫られて、
「私が瀬尾総一郎と知り合ったのは、二人と同じころだけど。その存在を最初に知ったのは小四の時」
神林希代乃が西条志保美から送られた瀬尾総一郎の中学入学写真を見たのが最初だ。
「その時から違和感を感じたのだけど、それが確定的になったのは二度目の接触。医学部への進学を迷っていて病院を見学に回っていた時に、瀬尾みさきさんと出会って息子の写真を見せてもらったの」
その息子の顔に見覚えがあった。瞳の伯母の夫速水秀臣にそっくりだったのだ。それだけなら単なる他人の空似と思ったかもしれないが、母親の方は神林ほのかとそっくりなのだ。
「これは速水の伯父の隠し子だとすぐに分かった。伯父は結ばれなかったかつての恋人の面影を瀬尾みさきさんに見たのだと」
本人の談では似ているとは思わなかったとされ、似ている似ていないは意見が分かれる。顔立ちは似ているけど、育ちが違い過ぎて雰囲気で区別がつくと言うのが主に男性陣の意見で、息子の総一郎も間違えることは無いだろうと断言した。
「一般的にほのか小母様は朗らかに笑っていることが多かったけど、私に対しては時に悲しげな表情を浮かべることがあったから、見間違えたんだと思う」
と瞳。
「伯父の愛人疑惑は私の男性不信を決定付けたのだけど、それから程なくしてみさきさんが亡くなった事。そしてきよ姉が瀬尾総一郎と再会したと嬉しそうに電話してきた」
母親が亡くなって間もないのに既に女漁りなんてと、怒りが込み上げてきて、江利伯母さまの一周忌の時に娘のまな姉にそのぶちまけたの。そうしたら、それを後ろで聞いていた千里さんが弁護するような発言をしてきて」
みさきの葬儀に速水秀臣のお供で参列した千里は、
「総一郎様は母親失ったショックで呆けていて、母の後を追いかねない状態でした。だから生きる目的として長年の夢だったハーレムを作るように、そっと後押しされたのは他ならぬみさきさんでした」
「それは分かるけど、寄りにもよって」
と反論すると、
「一心同体のように生きてきた母と息子でしたから、その位置をたった一人の女に埋められるのが悔しかったのだろう、と言うのが当事者の一致した意見でした」
この場合の当事者とは総一郎と矩華を差す。
「彼女も七人のうちの一人なのよ」
と暴露してくる真夏。瞳はこの発言でそれ以上追及出来なくなった。
「その時点では、ご自分が参加することになるとは夢にも思っても見なかったんでしょう」
と可奈多。
「ハーレムの話はきよ姉から聞いていたし、あの永瀬矩華さんとの話は有名だったけど。この規模は想像を絶していたわね」
「七人と言うのは、偶然にもハーレム宣言の時の人数なんですよね」
と可奈多。彼女の姉波流歌はその中の一人だった。
「箱の提供者は七人の中の一人でもあったしほ姉だから、全くの偶然と言う訳でもないんでしょうね」
「あのマンションの設計者が西条先輩だって聞きましたけど」
「もともとは女性専用マンションになる筈だったらしいんだけど、亡くなったみさきさんから息子の夢の実現に手を貸してほしいって言われて、西条家で建設途上だった建物を提供したらしいわ」
「太っ腹ねえ」
「あら、メンバー候補にあのきよ姉がいたんだから、初めはそちらに勘定を回すつもりだったらしいわ。実際には先輩が速水の伯父からもらった二十年分の養育費で清算したらしいけど」
「それも凄いですね」
「マンションからの収益で学費と生活費を賄うと言う計算で、千里叔母様の入れ知恵だったとか」
「やっぱり私たちは参加しなくで正解だったわ」
と可奈多と麗那は顔を見合わせた。
書き落とした裏話。