今年も七夕の夜は雨予報
七夕にちなんだ作品です。
7月7日。年に1度だけ織姫と彦星が会える特別な日。2人が待ち望むその日は、おそらくやってこない……。
数年前から何故か七夕の夜は晴れることがなくなった。みんな短冊にお願い事を書きすぎたんだよきっと。天の神様がお願い事叶えるの面倒になって雨を降らすんだ。でも、今年くらい晴れてもいいじゃん……。織姫と彦星はまた会えないし、僕の願いはずっと叶わないままだよ。全国の雨女雨男さん達、明日は大人しくしていてください。ティッシュで下手くそに作ったてるてる坊主、窓辺に吊るされてくるくると回っていた。
「彼女ほしい……。」
全国のリア充さん達、そろそろいい加減にして下さい。僕だって彼女ほしいのに。僕だって彼女ほしいのに。なんなんだよ、なんで僕には彼女がいないんだ。ふざけるなよ。なに、リア充だけいちゃいちゃしてるんだ。そういえば、最近あの田中にも彼女が出来たんだって?僕よりも先に?はー意味わからない。可愛い可愛い彼女がほしい。僕に出会いをください神様。僕に彼女が出来ますように……ほんとお願いしますよ。そうでなければ……
「全国のリア充さん達滅んでください。」
僕には青春なんて2文字は存在しない。中学の時、初恋だったあの子には笑顔で気持ち悪いと言われたっけ?高校の時も気になっていた部活の後輩から「恋愛対象としてみれない」とか何気なく言われて、告白もしてないのに悲しいふられ方をしたな……。あんまり積極的にはなれないけどさ、僕なりに頑張っていたと思うんだ。ほんと何がいけなかったんだろうな。とりあえず、もう誰でもいいから付き合いたい。
7月7日。僕は目が覚めた。ふと窓の外を見ると晴れていた。お、てるてる坊主効果?そうか、晴れたんだ!今夜は織姫と彦星は会える!!僕の願いも叶いそうだ。気分をよくした僕は天気予報を確認せずに家を出て、大学に向かった。
去年も今年も正月に神社で「彼女が出来ますように」って千円札入れて頼み込んだが、今のところ効果なし。七夕の方がロマンチックな感じするし、願いも叶いそう。けど、毎年七夕の日は雨ばっかりだったから今年はやっと晴れる!嬉しい!大学の七夕用に飾っている笹の葉に名無しで短冊を吊るしている。まぁ、同じような願いはそれなりにいる。みんなはノリで書いてると思うけど、僕は本気だ。田中にギャフンと言わせてやる……。
「彼女がさ~もう可愛くて仕方がねぇんだよ。」
やめろ田中、死ね。のろけは聞きたくない。嫌がらせか?
「はいはい。」
「そういや、お前短冊に彼女ほしいとか書いてたろ?」
「まぁ、ノリで書いただけさ。」
いや、本気だけどさ。
「ノリかぁ……彼女はいいもんだ、俺はお前のこと応援してるぞ~」
僕は笑いながら田中死ねと思った。
今日はサークルで講義が終わってからもずっと大学にいた。いつの間にか外は厚い雲に覆われている。もしかして、雨降る?なんか、降りそうだな……。今年は晴れると思っていたのに。てるてる坊主は雨女と雨男に負けそうだ。今年の七夕も無理か……。
「なんだか雨降りそうだね……。」
突然、後ろから声をかけられた。同じサークルの宮田さんだ。
「う、うん。これじゃあ今年も織姫と彦星は会えそうにないよ。」
「そうだね、私のお願い事叶えて欲しかったなー」
「宮田さんはなんのお願い事したの?」
普段大人しそうな宮田さんが何をお願いしたのかなんとなく気になった。みんな仲良く過ごせますようにとかかな?宮田さんっぽい。
「んー、私の彦星に会えますようにって。」
彼女はちょっと照れながら、肩まで伸びた黒い髪をいじりながら言った。か、可愛い……。
「あ、冗談だよ!」
急に恥ずかしくなったのか、冗談だと言い始める宮田さん。宮田さんの彦星が僕だったら……なーんてね。でも、宮田さん彼氏ほしいってことかな?もしかして、チャンス……?宮田さん結構可愛いし、大人しそうな雰囲気がとても女の子らしい。もし付き合えたら……妄想し始める僕。いやダメだ、考えるな。何勝手に都合よく考えてるんだ。いや、でも何故か僕に話しかけてきたし脈ありとか?あれだったら、飲みに誘ってもいいんじゃないかな。軽く誘えばべ、別に深い意味はない感じだし……?よ、よしっ……
「あ、あのさぁ……今日一緒に飲みにでも行かない?」
お、結構軽く言えたぞ?こい!こい!!宮田さああん!!
「んー」
ピロリン♪
宮田さんが手に持っていたスマホが鳴った。宮田さんが画面を見ると、なんだろう……ぱああっという効果が似合いそうなほどに急に宮田さんの顔が明るい笑顔になった。
「あ、ごめん。今夜彼氏が会いに来るみたいだから、行けないや。」
「そ、そうなんだ。いやいや、大丈夫だよー」
「ごめんね。じゃあ、また明日ー」
宮田さんは手をヒラヒラさせて、嬉しそうな小走りで去っていった。
宮田さんの彼氏は遠距離で滅多に会えないらしいと、後に聞いた話。だから、私の彦星ね……。
気が付けば雨が降り始めていた。あ、傘忘れた……。僕は1人雨の中を濡れて帰った。
「はぁ、彼女ほしいな……。」
読んでいただきありがとうございます。