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ラーメンを食べる前に

作者: 結冬 桜

 突然、電話がなる。 

 しかし私は今、ラーメンを食べようと箸に手を付けた瞬間であった。だからこそ、電話がなった瞬間私は考えを張り巡らせた。

 今電話に出て長い話になったらラーメンは伸びてしまうし、お腹だって減る。それに、これから会社に来いと言う電話だったらあまり出たくはない。でも、だからといって電話にでないのは失礼だし、家族になにかあったかもしれない。懸賞が当たったという知らせかもしれない。


 そうだ、まず掛かってきた番号を見よう。そうすれば、会社からか、家族からか、懸賞の電話かが分かる。…はずだった。あいにく私の使っている電話は「番号」だけしか表示されず、誰からかかってきたかわからないのだ。いつもは携帯を使っているため、普段はそんなことはないのだが、今日は全くといっていいほど使わない固定電話にかかってきたから、困る。携帯の「連絡先」で調べたら時間がかかってしまい、探している間に電話は切れてしまう。


 留守電ということにして、今は先にラーメンを食べようか。一瞬そう思ったが、緊急の用事ならば、そういうわけにはいかない。

 美味しそうなラーメンの香りと電話の着信音が同時にしてきて、頭が真っ白になる。私はどうすれば…どうすればいいのだろう。


 思い悩んでいると、挙句の果てにはインターホンがなった。

 

 私は心を決めた。電話やラーメンよりも、玄関前では人が待っている。早く行かなければ、待たせている人に悪い。なのでまず、玄関前に立っている人の要件を素早く済ませ、電話にすぐ出て、「急いでいるから」などといって適当に済まし、ラーメンを食べよう。決めたらすぐ玄関へ向かう。

 「はい、なんでしょ…」

 なんということだ、玄関前に人はおらず、回覧板だけが寂しく置いてあったのだ。つまりさっき鳴らしたインターホンは、

 「回覧板があるので、ここに置いておきますよ」

という意味だったのだ。驚きで口が開いた。 


 しかし、こんなにゆっくりしてはいられない。次は電話だ。全速力で廊下を走り、電話があるリビングまで行きつく。

 しかしこれもまた、電話は鳴りやんでいたのだ。メッセージはないかと、留守電の記録されているボタンを押す。メッセージを再生します。という音声案内が流れ、録音された言葉が流れる。

 「あっ、すみません。番号間違えました。本当にすみません。ごめんなさい、切ります」

 なんということでしょう。ついには電話までもが間違い電話・不必要なものだったのだ。


 残すはラーメン、これしかもう残っていない。…恐る恐るラーメンの入っているどんぶりをのぞく。絶対だめになっている、という考えの裏でそれを否定する(大丈夫だろう)という思いでゆっくり見ていく。

 第一印象、めちゃくちゃ伸びてる。第二印象、香り、全然しない。第三印象、食べてみる、冷めているし、伸びた分、味が薄くなっている。

 思わず大きくため息をついた。

 「こういう日もある。よね」

 独り言を涙目でつぶやいた。


 冷めきってしまったラーメンをずずず、とすすった後、静かな部屋のカーテンを開く。夜の風がフワッと入ってきて、心地よい。さっきまで切羽詰まって考え事をしていた自分が恥ずかしい。でも今は、不思議なくらいとても清々しい気分だ。


 伸びきったラーメンを食べ終わったどんぶりと、間違い電話の履歴と、素っ気ない回覧板を見つめていると、なんだか笑いがこみあげてきた。

 「また、こんな日があって欲しいなあ」

 誰もいない、ひとりぼっちの部屋で一人、つぶやいた。



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― 新着の感想 ―
[一言] いくらなんでもそう簡単にラーメンは伸びないでしょう。
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