第二ステージ
第二の街は第一の街と比べ質素で、もはや街と呼ぶよりも村という雰囲気だった。
第一の街の周りが草原だったのに対して、第二の街の周りは青々とした木々に囲まれている。
「なんとか、第二の街に着いたよ」
『お疲れさまです』
指定ボイスによるリコからの労いの言葉を受け取る。
「攻略情報に咆哮の事は挙ってたけど、まさかダメージが入るとは思ってなくて一瞬あせったよ」
『あれって《威嚇》とは違うんですか?』
《戦士》の技能である《威嚇》には敵の注意を惹くのと、一定の確率で敵の詠唱を阻害する効果がある。
「どうだろね? ボス専用で微妙に仕様が違うのか、それとも俺の仕様のせいか……」
『あたしも戦う時には気を付けます』
「リコちゃんの場合は詠唱のタイミングだけ気を付ければ問題ないさ。後はパーティーの前衛が崩壊しなければ楽勝だと思う」
最初のボスだしね、とヒロは付け加える。
『あー……、えっと、そうですね!』
何処か歯切れの悪い返事をリコは返した。
それから、第二の街をヒロは見て回り終えると次のフィールドを目指した。
(武器の新調は出来た。もし……俺の仕様が『超魔界村』ならパワーアップが出来る筈なんだがなぁ……)
武器と防具を見て回り、まだ試して無かった武器の変更を行なってみた。
結果として、短剣と斧と矢、そしてその辺の道端に落ちていた木の棒から松明へと変更する事が出来た。
ヒロはもしやと思い防具を扱う店で腕輪も試してみたが、変化する事は無かった。
そして、防具の変化と供に武器が強化されるかどうかも確認してみたが……特に変わる様子も無かった。
(たしか、パワーアップするのは青銅の鎧だから、青銅製品が無かったのが原因か?)
これから先の事を考えると、パワーアップ出来るか出来ないかで進む難易度が大きく変化してくる。
(黄金とまでは贅沢は言わないけど、せめて青銅には変えたかったな)
無い物ねだりばかりしていても仕方がないので、現状のままヒロは先へ進む。
武器は、ここまで使っていた短槍から矢へと変化させていた。
◇
第二の街から先へと進む今度のフィールドは森の中だった。
空を生い茂った木々の葉が覆い隠し、どこか薄暗くなっている。
道なき道を掻き分けて進まなければならず、更に地面も所々隆起しており足場も悪い。
「クソ、木が邪魔で視界が悪すぎるなこりゃ……」
草原とは違い、モンスターが木の影や頭上から突然現れるこのフィールドはヒロに接近戦を余儀なくしていた。
遠、中距離を主体に戦うヒロにとってこの戦場は不利な事この上ない。
「リスタート地点が第二の街になってたのは、不幸中の幸いか……」
この『フロンティア・オンライン』のゲームの進め方は、ほぼ一本道と化している。
第一の街から第五の街までのステージを進み、そして最後のボスが待つ城を目指して行くという単純な構造だ。
街ごとに細かなサブクエストと呼ばれるものも存在してはいるのだが……、ヒロにとっては経験値もアイテムもほぼ意味を成さない為、用が無いものは無視して進んでいる。
そして、何よりも重要な事は『一度、次の街まで進んでしまうとそれよりも後ろへは戻ることが出来なくなってしまう』という事だ。
もしも、サブクエストなどで自分の欲しかったアイテムを取り逃してしまった場合、もう一度キャラクターを作り直すしか無くなってしまう。
ヒロはもう既に、この森に入って五回以上のアタックを繰り広げている。
殆どの死因が気付かぬ内に敵の接近を許してしまい不覚をとっていた。
「……相性最悪だな、ここは」
神経を尖らせながら、辺りを見回し一歩ずつ慎重に進む。
足場の悪さに、敵の不意打ちの警戒と精神の消耗の激しいこのステージはヒロにとって難関であった。
「慣れるしかないか……っと!」
頭の上に降ってきた大きな蜘蛛を後方に飛び退いてかわしながら、ヒロは呟きを打ち切った。
着地と同時に矢を二本投げつけ蜘蛛を塵に返す。
「難易度上がりすぎだろ……、どんだけ理不尽なんだよ……」
ゲームのマップの構造にも自分に対しての仕様に関しても愚痴る。
暫く進み、前方にモンスターの影を見つけた。
醜い顔に小柄なゴブリン。まだヒロには気が付いていない。
腰を落とし、物音を立てぬようにゴブリン目掛けて矢を投擲し、その手を離れようとする時、ヒロの左側から微かに物音が響く。
直ぐ様顔を向けた先には、そこにもゴブリンの姿があった。
そして、此方へと向けられたボウガンの蔓の跳ねる音が響く。
「遠距離攻撃かよぉぉ!」
体制を変える事が出来ずに防具が砕け散る。
が、ゴブリンへ向けてヒロは反撃の一撃を放つ。
なんとか、敵が次の攻撃を放つ前にヒロが仕留める事が出来た。
防具を再び直そうとアイテムを操作した時、背後からの衝撃に目を見開いた。
最後に見えたのは自分を貫いて前方へと消え去っていく矢の姿だった。
「どうにもなんねぇよ、コレ……」
第二の街の入口の前でヒロは、今日何度目か分からないぼやきを口にした。
「もう無理だ。ちょっと出直そう」
頭を掻き、溜め息を吐きながらシステムのログアウトを選択しようと指を伸ばす。
「お、やっと戻ってきたね」
「ん?」
掛けられた声に反応して、その指を止めた。
声のする方を見ると、街の入口のすぐ横に生えた木にもたれ掛かった一人の女性の姿があった。
「アンタ、『パンイチ』だろう?」
広まっている呼称で話し掛けてくるその女性は、身軽そうな防具に短剣を背面の腰に横向きに下げた《斥候》の基本的な格好をしていた。
「あんたは?」
「アタシは、エダ。見ての通り《斥候》だよ」
「……何の用?」
呼称で呼ばれた事に警戒心を顕にするヒロ。
これまでも、度々この仕様のせいで謂れのない中傷を浴びてきた。
またこれもその類いだろうと、そのままログアウトの操作を進める。
そんなヒロに、エダはゆっくりと歩み寄って来た。
「……ねぇ、アンタ。アタシと組まない?」
顔を上げたヒロの眼には、にやりと笑みを浮かべているエダの表情が映った。




