挿話:一般プレイヤーの恐怖
この話は本編とは全く関係ありません。飛ばして本編を読んで頂くのをお勧めします。
《フロンティア・オンライン》のオープンβが開始されてから一週間程が経った。
このゲームのプレイヤー達にも様々な住み分けのようなものが出来始めている。
ある者はこのゲームの最速攻略を目指し、またある者は気の合う友人を探す為に街へと入り浸る。
他にも、第一の街で受けられるサブクエストを漏らすこと無く受けようとする者。
そんな中で、変わったプレイヤーの存在があった。
その人物は、パンツ一枚という姿でフィールドを奇怪な動きで飛び回り、縦横無尽に駆け回るというものだった。
その様子をとあるソロプレイヤーが目撃していた。
「《強撃》!」
彼が、一匹ずつコツコツと狩りをしてレベルを上げている時、それは現れた。
「ふぅ……ドロップも集まってきたし、一旦帰るか……」
彼の視界の端、少し離れた場所から走ってくる人影があった。
彼は足を止めて、その人物を見る。
一心不乱に、彼へは目もくれずに走り続けているその姿は《戦士》の様だった。
視界の左端から徐々に正面へと進み、モンスターへとぶつかる。
その次の瞬間にその《戦士》は《半裸(パンツ一枚)》へとチェンジしていた。
モンスターへと槍を投げ付け、また彼から見て右端へと向かう様は横スクロールのゲームを想像させる。
そのままその《半裸(パンツ一枚)》の男は走り去ってしまう。
「なんだ、ありゃ……」
彼は対しての気にする事なく、そのまま街へと戻った。
そしてまた狩り場へと戻ると、また先程の男が左端から走っている。
既に姿は《半裸(パンツ一枚)》であった。
また五分程経つと、同じように男は駆け抜けていく。
それからも半裸であったり防具を身に付けていたり、数分置きに、早ければ右端に消えた直後には左端に移っていた。
彼は男が何をやっているのか興味が沸いてきた。
何を思ってそれほど一心不乱に駆けるのか、何故《半裸(パンツ一枚)》なのか。
男が一周していく度に徐々に彼は近寄っていく。
その行動が間違いだったと気付いた時には、もう彼の目の前を男が通り過ぎようとする所だった。
彼に近付いてくる途中で、男は《半裸(パンツ一枚)》へとクラスチェンジする。
しかし、その勢いは止まらない。
迫りくるモンスターを、ハードルの様に飛び越えて綺麗なフォームで走り抜ける。
最初に走る姿よりも、その動きは少しずつ精錬され、無駄の無い動きになり勢いも増していた。
徐々に近付いてくる《半裸(パンツ一枚)》。
狭まる距離と共に彼を悪寒が襲い始める。
男の表情が分かる程の距離になると、
「ひっ……」
彼は口から悲鳴を漏らす。
男のその眼は何処までも闇の様に深く、口元は異様な程に釣り上がっている。
彼が咄嗟に持っていた剣を構えてしまうのも無理は無い程、男は異色の気配を放っていた。
(ヤバい、こいつは近寄っちゃ行けないヤツだ……)
尚も、男は走り続ける。
(こいつは、本物の本物だ)
通り過ぎる際に、彼の剣先が男の二の腕をほんの少しかすった。
次の瞬間に、足元から塵へと還っていく男。
男は彼へと向き直って、口を開いた。
オ・マ・エ・モ・テ・キ・カ
それから直ぐに逃げ帰った彼は、三日三晩《半裸(パンツ一枚)》の男に追い掛けられる夢をみたという。