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覚悟

 気が付けば、街の入口にヒロは立っていた。


「……死に戻り……か?」


 モンスターとの戦闘で死んでしまった場合など、一番最後にセーブを行なった場所で復活される。

 そのセーブを行える場所も街の前や広場など場所は限られているが。

 あまりにも一瞬過ぎてヒロには分からなかった。


 防具もまた元に戻っている。

 ステータス画面はまだ異常なまま。


「やっぱりバグ……いや、こんなシステム自体がおかしくなる事なんてあるのか……?」


 始まったばかりのVRMMO。

 それならば、多少の欠陥は存在するだろう。

 数値がシステムと連動していなかったり、アイテムの名称や説明に誤字が混じっていたり。

 しかし、そんな 些細なものとはヒロの陥っている状態は差異が有りすぎていた。


「一度、ログアウトするか……」


 ゲーム終了のオプションを選択する。

 もう一度、ゲームを立ち上げてシステムを確認してみたがさっきと変わった様子はなかった。

 そのままの状態でモンスターと戦ってみても相変わらず、武器は手元から離れ防具は砕けちっていた。


 ゲーム自体をセットアップし直してみたり、キャラクターを作り直してみても変化せず、どうする事も出来ず、途方にくれる。

 キャラクターを再制作した際も、職業を入力した際は通常通りにも関わらず、いざゲームをスタートさせてみれば職業の欄は《アーサー》と戻っている。

 《戦士ファイター》以外を試してみても変わらない。


 ヒロは自棄になりそのままモンスターの中へと突っ込んだりしたが、直ぐに街の入口へと戻されてしまう。

 そんな行為を何度も繰り返していると、段々、その行動が虚しくなりヒロはログアウトを選択する。

 電源を落とす前に、公式サイトへと連絡を入れるとヒロはその日はそのままふて寝してしまった。


 それから一週間程めげずに毎日ログインするが、状況が変わる事は無かった。

 公式サイトからの連絡も無い。

 もういっその事、諦めようかとヒロは思っていた。例え、ゲーム自体が楽しめなくとも、自分が望んだ風景やゲームの中には触れる事が出来た。

 モンスターと戦わないように進めば色んな景色を見ることが出来た。

 それで、もう、いいじゃないか。

 そんな風にヒロは考えていた。

 掲示板の情報の中に、自分と同じような不具合に悩まされている人はいないかと探してみると、ある掲示板の情報が目に入った。


『第一の街の近辺でストリーキングが出没している』


『ネタキャラだろ?』


『パンツ一丁で奇妙な動きでモンスターから逃げ回るらしい』


『ただの変質者か……』


『リアルでストレスが溜まってるからってVRで露出しないで欲しいな』


『VRなだけに、リアルで余計に性質が悪い』


 その後も、『パンイチ』と名称を付けられ情報が飛び交っていく……。

 紛れもなくヒロの事だった。

 本来、どのVRMMOでも最低限の装備とは決められているものである。この『フロンティア・オンライン』も例外では無い。

 どれだけ装備品を外した所でインナーとハーフパンツは脱げない仕様になっている。

 これは、ゲーム内でのマナーであったりモラルを守る為に必要な措置であった。


 そして、ヒロにはそれが適応されていない。


 同じゲームの中でヒロだけが様々なシステムから除外されていた。

 極め付けに、


『運営に通報しといた』


 そう締め括られていた。


 自分が何をしたというのだ。

 ただ自分は楽しみたかっただけなのに……。

 ゲームの世界に触れ、スキルやアイテムを駆使して敵に立ち向かう、仲間と共に冒険を繰り広げていく……。

 ただそんな当たり前の事を楽しみたかっただけなのに……。

 ヒロはその全てが奪われてしまった。

 このゲームをどれ程待ち望んでいただろうか……、どれだけ情報を詰め込み想像を膨らませただろうか……。


 ヒロは、一通のメールを開く。

 何度も公式サイトへとメールを送った中で返って来た、たった一通のメール。


『いつも励ましのメールを有難う御座います。必ず、貴方が満足出来るゲームとして仕上げますので楽しみにしてて下さい』


 公式サイトの名義で無く、個人名義で返ってきた一通のメール。

 最初読んだ時には嬉しくて堪らなかった。

 自分が送ったものに返事が来るなんて想像もしていなかった。

 ましてや、自分の事を気にかけて貰えるなんて……。


 今、二度目に読み返した時に自分の中に込み上げて来たものは憤怒や、怒りに似たものだった。

 何が満足だ? こんな俺だけが除外されたシステムの中で何が楽しめるのだ、とヒロは憤りを感じる。


「俺が……何したってんだよぉ……!」


 自分が想像していたよりも、ゲームの質が低く、楽しめなかった。

 それならばまだ納得がいく。

 過度に自分が期待しすぎたのだと、諦める事も出来る。

 だがどうだ、現実は自分だけが閉め出された現状に、到底納得が行かない。


 ヒロは、この『フロンティア・オンライン』に裏切られたのだ。


 涙が溢れて止まらなかった。

 ぼやけて滲む視界を何度拭おうと変わらないシステム。

 止めどなく溢れ続ける涙。

 変わることない半裸の姿……。


 拭う事も止め、流れるままに全ての涙を出し尽くし、ヒロは立ち上がった。



「やってやる……」



 そして、覚悟を決める。



「……この、ふざけた仕様で駆け抜けてやる……ゲームクリアまで!」



《アーサー》としてこの『フロンティア・オンライン』に立ち向かう事を。


お気に入り登録有難う御座います。

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