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挿話:咲の困惑

この話は本編とは特に関係ありません。飛ばして読んでも本編に影響ありません。

 咲は困惑していた。


 その原因は先程パーティーを組んだばかりの男性、ヒロのせいだった。


 《戦士ファイター》であるヒロは特に目立った所の無い、人当たりのよさそうな青年。

 それが咲にとっての彼の第一印象。


「いやー、このゲームずっと楽しみにしててさぁ」


 などと、興奮を隠せない様子でパーティーリーダーであるトモと話す姿は、まるで子供のようで愛嬌があった。


 しかし、そんな印象が崩れ去るのに時間は掛からない。


 初めての戦闘。

 ウルフと言う名前のモンスターが青年へと攻撃を行なった。

 青年はウルフからの体当たりで後ろへと弾き飛ばされていく。

 直ぐにでも、回復が掛けられるように咲は動作を行う。

 しかし、そこで咲の思考は停止してしまった。


 何故ならば、咲の近くにいたのは先程の《戦士ファイター》の青年ではなく、《半裸(パンツ一枚)》の男だったのだから。

 厳密に言えばどちらも同じ人物ではあるのだが、思考が放棄された咲にはその事実が認識出来ていなかった。


 回復の技能を使用する為、ほんの一瞬目を離した。その一瞬の間に何が起こったのかが咲には理解が出来なかった。


「おらっ!」


 パーティーリーダーのトモのウルフを打ち倒す声が響く。


「何遊んでんだよ」

「いや、急に武器が手から離れて……」


 目の前で二人が話をしているが、咲の頭には入らない。ただただ、その裸体を凝視し続けていた。


「――脱げ……た」

「戻ってるじゃないか」


 再び防具を身に付けた姿に変わった事で《半裸(パンツ一枚)》の男がヒロであった事に咲は結び付いた。


 狩りを続行するが、咲は先程の光景が目に焼き付いて離れなかった。

 格別格好が良いという訳ではなかったが、細く引き締まった身体、程好く筋肉の着いた二の腕、そして、筋肉によって窪みの付いた脇腹。

 パンツ一枚で足元に転がっていたその姿が頭から離れなかった。


 咲も今まで異性の裸体を目にして来たことが無いわけでは無い。

 雑誌や、テレビで何度も目にしている。しかし、VRと言えど、肉眼で目の前に現れるのとは訳が違った。


 比較的裕福な家庭で、更に一人娘。学校も男子禁制のお嬢様学校に通い、蝶よ花よと育てられていた。

 そんなしがらみに反発してVRMMOへと手を伸ばしていたのだが……。

 咲にとっては些か刺激の強すぎるものだった。


(まさか、VR技術がこれ程とは……)


 自分でも想像していなかった生々しい技術を目の当たりにしていた。


 そんな咲を置き去りに、パーティーは狩りを進めていく。


 視線は自然とヒロの姿を追う。

 自身に起きた不具合に狼狽えたヒロへとモンスターの迫撃が決まり、身に纏った防具が弾け飛ぶ。


 そして顕になる裸体。


 身をよじり、追撃をかわそうとする脇腹。

 ヒロの反撃の一投が敵を塵へと返す。

 荒れた呼吸に躍動する脇腹。


 脇腹。


 咲の視線は一点に固定されたままだった。


「――!」

「――き!」



「咲っ!」

「え?」


 その声に我に帰る頃には戦闘は既に終了していた。

 自分を心配そうに呼ぶリーダーのトモの姿が目の前にあった。


「大丈夫か? 回復頼みたいんだが……って、あー、そりゃ、気にしちまうよな……」

「その、集中してなくてご免なさい」


 ヒロへと目線を向けながらリーダーのトモが頬を掻いた。


「本人も、悪気がある訳じゃないと思うんだ。もし、何か、その、我慢出来ないようなら俺から注意するからさ」

「いや、大丈夫ですからっ」


 そう話ながらも横目には脇腹を追っていた。

 ヒロは自分に起こった事で精一杯で、そんな咲の視線に気が付く様子は無かった。


 そんな事が何度か続いたのちに、トモはヒロへ向けて声を掛ける。


「……今すぐにその格好を戻さないと、流石にパーティーから外さなきゃならん」

「俺のアイテムの中にも防具が無いんだよ!」


 そんな風に言い合いをし、困惑した顔を浮かべるヒロ。

 そんな身振りの為にがら空きになった脇腹。


「そこまで拘ってネタをやり続けるのは関心するし、俺自身は嫌いじゃない。けど、パーティーの中には女性もいるんでな……」

「わざとじゃなくて……」


 会話の途中、トモが咲にちらりと視線を向ける。

 だがその視線が咲と交わる事は無かった。


「それじゃ、また機会があれば遊ぼう。俺は歓迎するよ」


 そう言って、離れていくのをパーティーメンバーは追って行く。


「うん、その程々にねー」


 ヒロの耳には届いていない様子だったがパーティーメンバーも口々に別れの言葉を告げていく。

 咲も名残惜しみながら心の中で脇腹に別れを告げた。






 そして、それから進んだのちにまた再開する事になるとは、この時の咲は想像もしていなかった。


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