英雄
「ああ、攻撃はAIがちゃんとしますからね。私が途中で操作したりもしません。ご安心を」
魔帝が地響きを一歩ずつ踏み鳴らす。
「おぉらあぁぁぁぁあ!!」
トモが魔帝の足へと雄叫びを挙げながら攻撃を繰り出す、
「《盾強撃》」
が、トモの身体程の魔帝の足がトモを蹴り上げて後方へと弾き飛ばす。
「喰らえっ!」
ヒロが龍の魔法を放ち、魔帝の頭を捉えるが対してダメージを与えた様子もなく魔帝は足を鳴らした。
「《回復祈》《守備力上昇》!」
「《炎槍呪》!」
咲がトモの回復と支援を行い、シルフィが技能による攻撃を放つ。
炎の槍は魔帝の頭から当たり、その身体を包み込む。
「はぁぁ!」
リコの吠える声が響く。
燃え盛る炎を、魔帝が腕の一降りで消すとリコが棍による跳躍を行い魔帝の顔目掛けて蹴りを放った。
そのリコの影からエダが飛び出し、追撃を与える。
「いい調子じゃないですかぁ、ヒロさん」
陽気に話しかける、白石の声が聞こえた。
「……でも、ここらで困難が無いと面白くないですねぇ」
魔帝が光輝いていく。
次の瞬間には目も眩むような眩い光と共に衝撃が走った。
ヒロ以外の仲間達がみな後ろの扉近くへと吹き飛ばされていた。
「全範囲攻撃!?」
今の光に皆ダメージを負い、ヒロの鎧もまた脱げている。
「くっ、《身代わり》!」
ヒロへと迫る魔帝の攻撃を、走りよるトモが代わりに受ける。
そして、ヒロへと触れて鎧を着せた。
「今のをどうやって攻略するか、それがゲームクリアの鍵ですよ、ヒロさん」
今の一撃だけでみんなHPを殆ど削られている。
「《多回復祈》!」
咲の技能で皆の傷が癒される。
その間も魔帝の攻撃は止まらず、ヒロとトモに襲いかかる。
「ほらほら、もうそろそろくるんじゃないですか?」
魔帝の身体がまた光輝いて、近付いていたリコとエダも纏めて吹き飛ばした。
攻撃をしては吹き飛ばされて、鎧を剥がされ、咲に回復してもらってはまた吹き飛ばされて……。
咲のMPも残り少なくなり徐々に苦しい状況へと追い込まれていく。
「あぁ……大分いい感じでダメージを与えてますねぇ。」
満身創痍なヒロ達へ向けて、白石は話す。
「ヒロさんの攻撃なら、後二十回ぐらいで倒せるかどうか……」
漠然とそう言い放った。
「まぁ、攻撃出来ればですけど」
そう付け足しながら。
次の瞬間には、魔帝から眩い光が放たれヒロは眼を閉じる。
視界を取り戻した時、目の前には魔帝の振り上げた拳が直前へと迫っていた。
「ヒロっ!」
トモの叫ぶ声が響いた時、ヒロは弾き飛ばされ、ゆっくりと塵へと還っていく所だった。
「一度、ヒロさんにはご退場してもらいますね」
ヒロはそんな白石の声を聴きながら、リスタート地点へと送られた。
魔帝が動きを止める。
「ヒロさんのリスタートポイントはこの城の入口です」
「何……?」
白石の声にトモが尋ねる。
白石はそんなトモの声に答えるように話し始めた。
「もう一度言いましょう。ヒロさんのリスタートポイントはこの城の中に設定されています。あぁ……ご心配なく。貴方達はちゃんと第四の街からリスタートされるように設定されていますから。彼だけの特別です」
嬉しそうに白石は言った。
「やはり、彼には『一人』でクリアして頂かなくては……。それ以外でのクリアなんて邪道でしかありませんからねぇ……。彼なら、彼がこれをクリアして頂ければ私の言っていたことも分かって頂ける事でしょう。きっと」
「あぁ……、彼がこれをクリア出来るまでどれだけの回数がかかるでしょうかねぇ……。多ければ多い程、その後の喜びも大きくなる。むしろ、ここに辿り着くまでに何回かかるでしょうかねぇ。その為だけに複雑な長い道順とトラップを用意したのですから……」
トモ達は無言だった。
全員、白石の独善的な言葉に嫌悪感しか湧いてこなかった。
「……貴方達にも、そろそろご退場願いましょうか」
魔帝が、再び動き始めその牙を剥いた。
「あぁ、なんだ。先客がいると入れない仕組みかと思ったけど、そうでもないんだな」
「は?」
白石の間の抜けた声が響く。
全員が振り返った先には、扉の前で腕を組むヒロの姿があった。
「残り二十回だっけ? これならあっという間に終わっちまうな」
そう言って、ヒロは不敵な笑みを零した。
駆け出しながら短槍を投げつける。
「馬鹿なっ! いくらなんでも早すぎる! こんな時間でここに辿りつける程甘くはなかった筈! それがどうして!?」
「白石、お前……マップの確認ちゃんとしたのか?」
ヒロの投げる短槍の勢いは止まらない。
「城の入口のすぐ上に二階に抜けられる穴が空いてるなんて、ショートカットして下さいって言ってるようなもんじゃないか?」
それは、三階へと上がる前にトモが踏み抜いたトラップによる穴だった。
そこをヒロは二段ジャンプでよじ登ってきたのだった。
「十秒でラスボスの間なんて、タイムアタックの攻略じゃいいカモでしかないだろ?」
次々に魔帝へと槍を突き入れながらヒロは叫ぶ。
「……ゲームはなぁ、お前のオモチャじゃないんだよ」
魔帝の攻撃をヒロが掻い潜り、更に槍を突き入れる。
「俺達、プレイヤーのオモチャなんだよ!」
ヒロが飛び上がり、尚も声を張り上げる。
「やる前から想像して妄想して期待を膨らませて遊んで、その世界に触れて体感して味わって遊んで、壊れるまで遊んだら今まで遊んで来た事を思い出して懐かしんで儚んで遊ぶ……!」
魔帝が眩い光を放ち、ヒロを襲う。
ヒロの鎧が打ち砕かれ、パンツ一枚の姿へと変わった。
「ヒロっ!」
「ヒロさん!」
「ヒロっ!」
「ヒロ!」
「わ……ヒロ!」
仲間の名前を呼ぶ声が聞こえる。
飛び上がったヒロが槍を構えた。
「それがっ! それこそが、ゲームだ!」
精一杯の力を込めて、槍を投げ入れる。
槍は、真っ直ぐに魔帝の元へと向かう。
「お前のエゴを押し付けるんじゃねぇ!!」
そして、英雄の一撃が、魔帝へと突き刺さった。
広間にファンファーレの音が鳴り響き、魔帝の身体が塵へと還っていく。
「……お前が作ったのは、とんだクソゲーだったよ」
天を仰ぎながら、パンツ一枚の姿でヒロは呟いた。
ヒロ達の身体も淡く光り輝き出し、光に包まれていく。
光が収まって、眼に映ったのは、この『フロンティア・オンライン』の世界に初めて来た時に見たものと同じ、第一の街の景色だった。
「ヒロ……」
トモが声を掛ける。
「やったんだな、俺達……」
「あぁ……」
その声にヒロも答えた。
「みんな、ありがとう」
仲間達へと、ヒロが言う。
みんな、満面の笑みを浮かべていた。
【いつも、『フロンティア・オンライン』をプレイして頂きまして、有難う御座います】
アナウンスが流れ出す。
【ただいま、本ゲームはクリアされました。誠に有難う御座います】
ヒロ達の事が伝えられ、街にいる他のプレイヤーがざわめき始める。
【……つきましては、二周目をスタートさせて頂きます。モンスターの能力の二倍、総数の四倍……】
「は?」
【……引き続き、『フロンティア・オンライン』をお楽しみ下さい】
「ふ……」
「「「「「「ふざけんなあぁぁぁぁ!」」」」」」
その日、街中にプレイヤーの雄たけびが響き渡ったという。




