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始まり

 暗く、光の届かない洞窟の中を松明の明かりが照らす。

 剥き出しになっている壁の岩肌はただの映像処理にも関わらず、まるで質感をもっているように見える。


「来るぞ……!」


 前を歩く二人のうちの片方、パーティーの先頭を歩く《騎士ナイト》のトモが注意を促した。






 《騎士ナイト

 下級職業である《戦士ファイター》の上級職業であり、その職業は他の職業よりも高い防御力を誇り前線の要とも言える。

 主な武器として剣、または槍を持ち、更に盾での攻撃も可能。《技能スキル》に関しても、敵の注意を惹き付ける《威嚇ハウリング》、味方のダメージを自分で受け止める《身代わりサブスタンス》などパーティーの中での防波堤の役割を担う事が多い。






「《威嚇ハウリング》!」


 トモが前方から接近してくる敵影に向けて《技能スキル》を放ち、注意を自分へと向ける。近付いてきた事によって、松明の明かりに照らされたそれは、蝙蝠の姿をしていた。

 ただし、全長一メートル程の。

 その蝙蝠が三匹、トモへと向かって襲い掛かる。


「《守備力上昇プロテクト》!」


 パーティーの中間に位置する《神官プリースト》の咲がトモに支援技能を送る。トモの周りに薄いベールのような光が現れ、全身を包んだ。






神官プリースト

 下級職業《僧侶ディコン》からクラスアップした職業。回復職業である《僧侶ディコン》よりも更に強力な回復技能と支援技能を持つ。

 主な武器はメイス、杖だけ。技能に関しても回復と支援に特化したパーティー必須の支援職業である。






 支援の光に包まれたトモが、蝙蝠の突進を盾でいなす。三匹の代わる代わるの攻撃にトモが反撃を繰り出す隙を探るが、途切れる事のない攻撃に舌打ちする。


「堪えて! あと少し……《雷電呪サンダーボルト》!」


 咲の隣、《魔導師ウィザード》のシルフィが繰り出した雷撃がトモの周りを囲む蝙蝠へと向けて放たれた。

 幾筋もの雷光が蝙蝠に突き刺さる。

 三匹が体制を崩し、地面に向かって落下し始める。


「おらぁ! 止めだ!」


 地に落ち切る前にトモの剣が蝙蝠を横切りに薙ぐと、その身体を粒子へと変えていく。

 そのまま二匹目をトモが振り向き様に突き刺した。






魔導師ウィザード

 下級職業《魔術士ソーサラー》からの上級職業で主に技能による属性攻撃を得意としている。

 下級職業が単体に向けての攻撃技能しか持たないのに比べ、上級職業では複数を同時に攻撃する事が出来、その威力もまた高い。パーティーの中で砲台、または火力としての役割を担う。






 最後の一匹へとトモが視線を向けると、その一匹が突如身体を翻し、シルフィへと向けて飛び出した。


「しまった! ヒロ!」


 トモの背後を抜けて飛んでいく蝙蝠を見ながらトモが叫ぶ。

 高い防御力を誇る《騎士ナイト》だが、移動速度や攻撃速度などは他の職業に劣り、咄嗟の対応などは不得手としている。

 蝙蝠はシルフィへと一直線で飛ぶ。その距離が無くなる寸前、その間へと身体を滑り込ませる人影があった。


「一撃だけなら……耐えられるっ!」


 ヒロと呼ばれた青年がシルフィの前へと身体を投げ出した。

 勢いを増した蝙蝠の突進を受け、鎧ごと身体を後ろへと弾かれながら眼光鋭く蝙蝠を睨み付ける。


「これでっ……!」


 転がる寸前、空中でヒロは手に持った短槍を放つと真っ直ぐに蝙蝠へと吸い寄せられ、突き刺すと同時にその身体を塵へと返した。

 地面を転がってからヒロは立ち上がる。身体に付いた汚れを払うように手をかけるが、VRMMOの中である事を思い出しその手を止めた。


「大丈夫か?」


 近くにいるシルフィと咲にヒロは声を掛けるが、シルフィはヒロを見ると笑い出し、咲に至っては目線を思い切り背けられた。

 心無しか、咲の顔が少し朱に染まっているように見えたが、ヒロは松明の明かりのせいと一人納得した。


「仲間への気遣いは大事な事だが、それ以前に……」


 近付いてきたトモがヒロへと声をかける。


「お前はその格好をなんとかしろ」


 トモの目の前に立つヒロは、地面に短槍を突き立て、パンツ一枚で仁王立ちしている姿だった。


「しょうがないだろ? なんたって俺の職業は《アーサー》なんだからな」







《アーサー》

…………


……








 最新VRMMO『フロンティア・オンライン』の宣伝用のPVを見た時からヒロはずっとオープンβが始まるのを心待ちしていた。

 壮大なグラフィック。圧倒的な戦闘シーン。そして、何よりも仲間と共に成長し、巨大な敵へと立ち向かって行く姿。

 この日の為に公式サイトの情報を常にチェックし、掲示板などを徘徊し、更には質問や励ましのメールを公式サイトに何度も送るなど、ゲームが開始される前から熱心なファンとなっていた。ただし、そのメールが返信されてくる事などはたった一度を除いて無かったが……。


「ついに……ついにこの時が来た……!」


 ヒロは午後二時、公式サイトからゲームが配信されるや否やダウンロードし、セットアップ中である。

 セットアップの完了率のパーセンテージに苛立ちながらも、もう一度公式サイトにて情報を確認し直す。


 全てをもう一度目を通す頃に、準備が終わり、『フロンティア・オンライン』を起動する。

 身体の感覚が切り離され、VRの中に沈み込んでいく。

 それはまるで眠りに落ちる寸前のような、世界が反転するような気分をヒロは味わう。

 意識は既に切り替わっていた。何かに包まれるような、宙に浮かんでいるような感覚の中、キャラクター設定用の風景がヒロの目の前に広がる。

 そこから、名前、性別、髪型、顔のパーツ、体系と様々な項目を決めていく。

 更に、パラメーターの調整などをしながら……



[次のプログラムに変更を許可しますか?]


[はい(Y) いいえ(N)]



 視界の端にそんなポップが浮かび上がった。


「ん?なんだこれ。まぁ、いいや」


 ヒロは特に気にすることなくそのまま進める。


「よっしゃ! さぁ、待ちに待った冒険の始まりだ……!」


 最後に残った、職業を決める項目も選択し終わり、風景が徐々に光に包まれていく。








[戦士]











[戦+;]









[#$`%+;]








[アーサー]



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