第一話
鉄のパイプが木の枝のようにひしゃげた。
さっそく午後から作業できるように朝から組んでもらっていた足場が
ガランガランと激しい音を立てて崩れてしまった。
「くそ!すばやい!」
悪態をつく真っ赤な全身タイツ。
メッキのように鈍く光る黒いゴツゴツとしたベルトがあのパワーの出力元のようだ。
なんとも奇妙な格好の男が放った渾身のパンチをすんでのとこでよける。
ラッキー。たまたまだ。
そのまま地面に転がる鉄パイプを蹴りあげてやる。
「くっ!ブルー!イエロー!頼む!」
ひるんだ赤タイツが仲間に呼び掛ける声が聞こえた。
「言われなくても!」
「分ってるよ!」
警戒して声の方へ顔を向けると青タイツと黄タイツの足が顔の前までせまっていた。
女の顔にひどいんじゃないの。と一瞬の抗議を思ってみたが、届かなかった。
「きゃあ!」
なんとか腕で防いだが、派手にブッ飛ばされる。埋め立てられたゴミがすこしづつ頭を出しているせいで、いたるところを切ってしまう。
飛ばされた衝撃で息がしにくかった。なんとか四つん這いになり、顔を上げる。
ちょっと呼吸しやすくなったところで、泣き言がこぼれた。
「うう… 流石に痛い…」
20メートルほど前方に自分をこんなめにあわせた連中が腕組みをして
何かをわめいていた。
「地球を狙う悪の組織め!正義の力でこれ以上の悪事は許さない!」
ばかでかい声が不愉快きわまりなかった。
…地球を狙うではなく資源を狙っているのだーなんて説明してもあの連中には通じないだろうなあなんて朦朧とした頭で考える。
――私たちの世界からこの国への技術提供への見返りに資源の提供を受けることが決まった。君は現場で、突っ立って…ではなく監督しててくれい。
なんて言われて送り出されて、いざ採取を開始しようとしたらタイツ3人組に襲われた。
この通り許可を得たうえで行ってと、現地の言葉で書かれた書類を見せても詭弁で籠絡した悪魔めと従業員もろともブッ飛ばされて、この状況だ。まったくこちらの言葉が通じていないようだった。
現地人は気絶してるだけですんでいるが、こちらの従業員は派手に爆発したり、やたらめったら遠くまでスッ飛ばされて星になったりと散々だ。肉体用再生ポッドをもう10台ほど申請しないと追いつかない。
「女幹部!よく聞け!」
真ん中から声が聞こえたから赤タイツだと検討をつける。
「俺たちがいる限り」
黄タイツが叫ぶ。
「この地球の平和は」
青タイツがうそぶく。
「守り抜く!」
赤タイツが喚いた。やかましい。
「「「我らジャスティスガードナー!」」」
ハモってポーズ。ずけずけと作業現場に入ってきた時もやっていたが、この星の特有のあいさつでもないらしいのは現地人スタッフの反応を見て分った。
……もう意味が分らない…
そろそろ意識が飛びそうなので、携帯空間転移マシーンを起動させる。
ゆらあっと体がボケていき、視界も同様にかすんでいく。
フェードアウトしていく世界に赤、青、黄の人型がいまだポーズをしていた。
意識が途切れる前に起きたら営業所の移動願いを出さなくちゃと、
民間商社資源開発部東京営業所配属、入社5周期目のクロウナは強く思った。