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1-9

部屋の隅で、ツバキは草をすり潰していた。

ハッカ草という、爆弾の火種に使える代物だ。

その様子をフラウは、同じように草を潰しながら見た。


「こうして見ると、まるで悪い魔女が毒薬を作っているみたいですわね……」

「では、フラウ様は魔女に捕まったお姫様ですね」


黒髪の魔女が、金髪の姫を囚えている図がフラウの頭に浮かぶ。

それはあまりにも似合いすぎていた。


「それで、今度は何を作っているんですの。もうそろそろ、一年生で作れるものなんて無くなりそうなんですけれど」


部屋の片隅には雑然と置かれた錬金術の結果の数々。

研磨石によって磨き抜かれた水晶玉や、高度な錬金に使用する中和剤、トカゲの干物など怪しいアイテムで埋め尽くされている。

危険なものは校長のライラが管理しているので、とりあえず爆発するようなものや人を死に至らしめるようなものはない。


「今作ろうとしているのは、液状爆弾です」

「またどんな文献にも載っていないようなものを思いついたのですね……」

「これが実用化されれば、暗殺や破壊工作など思うがままでしょう」

「なぜ悪い使用例から挙げるの?」

「道具は使い方次第で、どんなものでも危険になりえます。それを錬金術師は決して忘れてはいけない。と、校長先生が」

「殊勝な心がけですわね。どれだけ本気か知りませんが」

「まあ、当然、これっぽっちも」


道具に罪を被せるのは間違っている。

使う人間が悪いのであって、爆弾が悪いわけではない、ということだ。

もちろん危険な道具は然るべき管理をするべきだし、滅多矢鱈に作ってはいけないということはツバキにもわかっている。

だが、危険を恐れては進歩など望めない。

大体、人を殺すには刃物一つで十分なのだ。テロにしたって、既存の爆薬がある。

新しい物が出来たからといって、古い脅威がなくなるわけでもない。

ならば、今ここで新しく危険なものを作ろうがどうしようが勝手ではないか、とツバキは考えている。


すり潰されたハッカ草に少量のロウを入れ、粘性のある液状に仕上げる。

ひとまずは完成である。

ハッカ草は火種でしかないので、実際にはこれに火薬となる触媒を混ぜ込まなければならない。

なので、さらに調合を続ける。

少量の火薬を慎重に混ぜ合わせる。


「これは爆破させたい場所に塗りつけて使用します。壁などを吹き飛ばしたいとき、これを使えば他の場所への被害は最小限に抑えられるでしょう」

「ずいぶんと自信があるようですけれど、それだけの火薬で本当に壁なんて吹き飛ばせますの?」

「もちろんです。これは従来の爆弾に比べ、密着度、振動の伝波度が全く違います。粘性のある液体によって密着した状態での爆発は、物体に多大な損壊を与えるでしょう。レンガくらいなら粉々に出来ます。実験してみましょうか」

「いいですけれど、当然安全な場所でやってくださいね。部屋でやったらアカデミーから追い出しますわよ」

「さすがに私もそこまで非常識ではありませんよ」

「先日の爆発騒ぎはわたくし、絶対忘れませんわよ。シールドの魔法が間に合ったから良かったものの、あやうく貴女と心中するところでしたわ」

「錬金術に失敗はつきものです」

「それと、あのときわたくしを抱えた貴女がドサクサに紛れて胸とおしりを触ったのも忘れませんわ」

「お詫びに今、私の胸を触りますか?」

「……ええ、ではちょっとだけ」


フラウに比べてあまり肉付きは豊かとは言えないが、確かに主張するツバキのふくらみに手を伸ばす。

服の上からではあるが、手にすっぽり収まるそれの感触はなんともここち良かった。

むにむに。


「……ハッ!? わたくし今いったい何を!?」

「私の胸を堂々と揉んでいましたが」

「毒されていますわ!? わたくし、ノーマルだと思っていたのに、ツバキさんと出会ってから何かおかしくなっていますわー!?」


頭を抱えるフラウ。

青春の形は人それぞれである。




校長のライラに許可を取り、広場で実験をすることになった。

観客も多数いる。

ツバキが何かを作り、実験するのはもはや恒例行事となっていた。

なぜか出店まで出たりしている。

自称天才ツバキ・ベルベットは良くも悪くも有名人になっていた。

天才であることは今のところ誰にも否定されていないが、魔女、発明狂、爆弾魔という名でも知れ渡っている。

いつも側に第一王女フラウ・カッサンドラ・ルージュが付いているのも、有名になる一因であったかもしれない。


「お集まりの諸君。本日、私は爆弾について新たな可能性を見出した。この実験により、爆弾業界は更なる発展を遂げるだろう」

「馬鹿な事言ってないでさっさと始めなさい」

「まあ、そう慌てないで。さて、取り出したるはこのゲル状の液体。これが、従来の常識を覆す全く新しい爆弾です」


容器に入ったゲル爆弾を大衆に見せるようにする。

その見た目に周囲から疑問の声が上がる。


「あれが爆弾だって? どう見てもそうは見えないな」

「爆弾どころか鎮火剤に似ている」


「ですが、爆弾なのです。従来の爆弾は破壊力を増すために火薬を増やしますが、これは物体に直接塗りこむことで威力を高めます」


一ブロックのレンガに塗りつける。ネバネバの液体がレンガを覆う。


「ではみなさん、離れてください。これから爆破しますので、大変危険です。念のため、可能であればシールドをお願いします」


言われるがままにシールドを展開させる見物者。

アカデミーの学生は皆、魔法学の試験に合格している為、シールドを扱えない人物はいなかった。


「それでは。3、2、1、ファイヤー」


魔法によって着火。

ドォン! と大きな音を立て、爆炎が上がる。

レンガは跡形もなく消えてしまった。

周囲がざわめく中、フラウがツバキに詰め寄る。


「ちょっと。あんなに大きな爆発が起こるなんて聞いてないですわ」

「ううむ。すこし火力が高すぎましたね。ハッカ草の効果を実際より過小評価していたかもしれません。まあ、成功したのでいいではないですか」

「……はあ。呆れて何も言えませんわ」

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