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「一年生、少ないですね」

「まだ家で合格パーティとかを催しているんじゃないかしら? 地方の貴族は到着までまだ日があるでしょうし」


王立錬金術アカデミーは、ダリルバニアの首都の中央にある。

それだけ重要な機関であり、入学した者はエリートとしての人生が約束されるといっても過言ではない。

その為、毎年この時期の社交界はパーティで大盛り上がりする。

一つのパーティが終わったら次のパーティを……と繋げるうちに、終わりを見せない大宴会が開かれるのも少なくはないのだ。

フラウが王女であるにもかかわらずパーティを開かないのは、入学して当然だからである。

王族を入学させないような経営者はいない。

それでも、入学試験順位2位というのは快挙ではあるが。


「まあ、少しでも予習できたらいいなと思っていましたから、丁度いいです」

「貴女のそれは、どう考えても予習ってレベルではないですわ。いったいどこまで行くつもりなのかしら?」

「まだ【初等錬金術講座】の範囲内ですよ」

「校長に直接教わりに行って、そしてお礼にと【聖なる血をサバトの贄に】の内容解読を教える毎日。わたくし、もう慣れましたけれど、なんだかお祖父様と孫が遊んでいるようで、その内容が日に日に高度になっていくのを一緒に聞いているわたくしの頭は既にパンクしそうですわ」

「うん、やっぱり【初等魔術講座】も【初等錬金術講座】も面白い」

「……ところで、そこで煮えたぎっている汁は一体何ですの。今日ずっと気になっていたのですけれど」

「毒薬」

「……ッ!? 毒薬!? なんでそんなものを」

「いや、これが【初等錬金術講座】の知識で作れる中で一番レベルが高そうだったから」

「……絶対に、人には使わないでくださいね」

「わかっています。ただ、この毒は薬にもなります」


それは、心臓の動きを強めすぎる毒であった。

健康な人間が多量に服用すると、血管が破裂して死んでしまう。

しかし人は死ぬとき、心臓の鼓動が弱まっていく。逆に言えば、心臓を動かせていればある程度は生きさせられるのである。


「……わたくしが読んだ時、毒薬の作り方なんてその本には書いていなかった筈ですけれど」

「文の裏を読むんです。それをメモに記して整理すれば、このとおり、製法の発見くらいは簡単です。原料も、全部初等錬金術講座の材料で作れます」


実際には【初等錬金術講座】に毒を生成する手法は書いていない。

毒も、それを使って人を救うすべも【中等錬金術講座】の範囲である。

そして【中等錬金術講座】は、アカデミーで最低一年を過ごさないと買うことのできない本だ。


「毒がなければ生きていけないなら、いっそ死んだほうがマシですか? それとも、手立てがあるなら最後まで足掻くべきでしょうか。錬金術は、生かすべきだと言うでしょう。私にはまだわかりません」

「初等錬金程度で命について語られても、わたくしだって困りますわ」

「そうですね、申し訳ありません」

「貴女が既にわたくしを置いて先へ先へと進んでいるのはわかります。でも、なぜそんなにも急ぐような真似をしているんですの?」

「急いでますか? 私自身では普通だと思っているのですが」

「急ぎすぎですわ。わたくしも貴女に追いつけるよう頑張っていますが、ちょっと最近疲れ気味ですわ」

「それはまた申し訳ありません」


際限なくツバキが校長に疑問点を聞き、それにライラがまた際限なく答えるわけだから、すごいペースで勉強が進んでいた。

付いていっているフラウもまた大したものだったが、だからこそツバキの才は際立っていた。

まさに天才と呼ぶにふさわしい。


「大体、わたくしたちはまだ一度も授業を受けてないのですわよ。それがどうして、初等とはいえ教科書に書かれていないところまで先へ進んでいるのです」

「そうですね。私にとって、教師っていませんでしたから。授業ってものがまだよくわかってないんです。家庭教師を付けられることはありませんでしたから」


実際は、ツバキには家庭教師が必要と思われないくらいに利発な子供だったからである。

商家の娘として、小さい頃に言葉と文字と数字を習った。

それだけで、ツバキは何でも習得してみせたのだった。




「ところで、この毒薬とは別に睡眠薬も作っているのですが、よければどうですか」

「どうって、どうなるのかしら?」

「寝て起きるまで、どれだけ触っても起きません。いやらしいことをしても夢の中です」

「それをわたくしにつかってどうするおつもりなの!?」

「冗談です。半分は」

「半分!? もう半分は本気!?」

「イッツ・無表情・ジョーク。HAHAHA」

「HAHAHAじゃないわよこのバカ! 効果は自分の身体でお試しになってくださいまし!」

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