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そしてパーティの日がやってきた。


フラウが拡声器を持ち、開催の辞を述べる。

大広間には何千人もの生徒たちが集まっている。


「皆さん、本日はお忙しいところお集まりいただきありがとう御座います。本日のパーティはみなさんの協力なくしては開催できませんでした。まことに感謝いたしますわ。それでは、存分に楽しんでください」


フラウ・カッサンドラ・ルージュ主催、第一回王立アカデミー文化祭の開催である。

用意された料理等とは別に、数々の出店や催し物が並び、その光景は壮観であった。

アカデミーに集まった貴族たちは、各々の流儀で人を饗すために小部屋を借りるなどして、まるで王国の縮図であるかのようだ。

そしてもちろん、大広間はフラウの、王族に相応しい華やかな社交界が行われている。

討論会や研究発表会などの、フラウとツバキが主催した行事も大広間だ。

参加者は食事を楽しみながら、授業内容やアカデミーに伝わる噂話、研究の進展具合などで大いに盛り上がっている。


「パーティは成功のようですわね」

「ええ、今のところは大盛況です」


フラウが呼びかけ、ツバキが答える。

壇上ではフラウのファンクラブ『ルージュのくちづけ』による、惚れ薬の研究発表が行われている。

薬品名はそのまま『ルージュのくちづけ』だ。

命名者はわかっている。


「次はダンスタイムです。フラウ様は準備をしていただけますか?」

「貴女はどうするの?」

「私はダンスの心得がないもので、壁の華にでもなろうかと」

「意外ですわ。ツバキさん、なんでもできそうなイメージがありましたのに」

「それは買い被りというものです」


ツバキは運動音痴である。

また、平民という立場上ダンス等というものに触れることもなかったので、経験はゼロだ。


「それにしても、勿体無い。誘われても断るおつもりですの?」

「私を誘う人なんていませんよ」

「……それ、本気で言っていますの?」

「まあ私は平民ですから。顔もそう魅力的というわけではありませんし」

「行き過ぎた謙遜は美徳ではなくもはや嫌味ですわ。貴女、今から男性の誘いに対して対策を考えておかないと後悔しますわよ」


フラウの目から見て、ツバキは魅力的な顔立ちだ。

小さな頭に艶のある髪、長い睫毛に整った鼻と口。

そしてなにより、神秘的な深い藍色の瞳。ツバキと目が合う時、フラウはたまにドキリとする。内緒にしているが。


「……そうですかね。まあ、そのときはそのときです。なんとかしますよ。それよりも、フラウ様の方が心配です。何もしなくても次から次へと誘われるでしょう」

「わたくしを誰だと思っていますの? これでも一国の王女ですわよ。作法は完璧ですわ!」

「その意気です。では、ここからは別行動ですね」


壇上の発表会がちょうど終わりを告げた。

次の品目は、オーケストラを呼んでのダンスパーティ。




結論から言えば、フラウの言った通りになった。

ツバキは良くも悪くも有名人である。よく研究の成果を野外で発表し、爆発騒ぎや異臭騒ぎなどを起こしている。

その結果、顔が売れている。

見るものがよほどのぼんくらでない限り、ツバキの顔は魅力的であることに気付いている。

また、錬金術師としての才能からも、関わり合いになりたいと考える生徒は多かった。

いわゆる『隠れファン』の多いツバキが、このパーティでどのような目にあうか、彼女は考えて然るべきだった。

つまり、一言でいって、ツバキは困っていた。彼女にとっては珍しいことに。

頼みの綱であるフラウは今、ダンスパーティの華だ。邪魔をする訳にはいかない。

では『ルージュのくちづけ』のメンバーに助けを、と考えても、そのメンバーが率先してダンスに誘ってくる始末。

これはもう踊るしかないのだろうか、と覚悟を決めた時、ふと隣に不思議な人物を発見した。


中性的な美貌。目が覚めるほどの美形である。物腰は落ち着いている。憂いを含んだようなブルーアイに、少し浅黒い肌。南方の生まれであろうか。

簡易な、旅人のような服装はパーティには不釣り合いであるが、それが実に様になっていた。

そして何よりおかしなことに、その人物は剣を腰に下げていた。


「もし、そこの人」

「なんですか?」


ツバキが声を掛ける。パーティで帯剣している人物。はっきりいって不審人物である。

責任者の一員でもあるツバキにとって、見過ごすわけにはおかなかった。


「いえ、なぜ剣などを持っているのかと。物騒ですね」

「……ああ、そうですね。すみません。でも、これがないと落ち着かなくて」

「いつも帯剣を?」

「そうです。やっぱり変ですか?」


ツバキは一瞬考えた後、素直に答えることにした。


「ええ。すごく変です。私が言うのも何ですが。ああ、申し遅れました、私は天才ツバキ・ベルベットといいます」

「これはご丁寧に。わたしはメリア・シルキー=リフトハイマンです。よろしく」


名前を聞いて初めて、ツバキは彼女が女性であることに気付いた。

彼女は、どう見ても美少年にしか見えなかった。

髪も短い茶色で、化粧もしていない。


「メリア様、でよろしいですか? 私のことはツバキとお呼びください」

「いえ、そんな。わたしもメリアでいいですよ。同じ学年ですよね?」

「おや、私のことをご存知で」

「有名ですから」

「そうですか。では、メリア。貴女はこの後の剣術大会に参加する予定ですか?」

「ええ。今日はそれが一番の楽しみです。フラウ王女殿下も参加なされるんですよね」

「応援しますよ。勿論優先順位はフラウ王女殿下ですから、もしお二人の試合となれば私はフラウ様を応援いたしますが」

「ええ、それで結構です。それにしても、今日のパーティは素晴らしいですね。アカデミーの生活は息が詰まるようで、こういった催し物は大歓迎です」

「フラウ様の御心に感謝ですね」


表向きはフラウが企画・立案したパーティなので、ぬけぬけと言うツバキであった。

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