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惚れ薬の拮抗薬を飲んだツバキに、フラウは問いかける。


「どうして予め飲んでおかなかったんですの?」

「……いや、事前に試した時、私には効果が出ませんでしたので。体質的に効かないのかと油断していました」

「そんな薬で大丈夫なんですの、まったく」

「面目ない。しかし、これで効果があるのは証明されました。いや、貴重な体験でした」


何故か誇らしげに言うツバキ。


「貴重な体験ですって?」

「ええ、まあ。これが恋というものでしょうか。フラウ様が愛しくて堪らなくなりました」

「……今は大丈夫なのね?」

「はい。いつもどおりの天才ツバキ・ベルベットです」

「……なら、いいわ。それでは、挨拶回りにでかけましょう」


ツバキ・ベルベット。初恋はまだである。




まず訪れたのは、最高学年からだ。

貴族たちとの邂逅は上手く行った。いささか上手く行きすぎたくらいだ。

媚薬香水による効果もあってか、フラウは一種の神々しさを纏っていた。

貴族たちは傅き、それをフラウは協力を感謝しむしろ頭を下げるのはこちらだといった低姿勢で対応した。

幸いなことにツバキの出番はなく、つつがなくことは進んだ。


「悪漢がフラウ様を手篭めにするようなシチュエーションがあるかときた、いえ、心配していたのですが、そんなことはありませんでしたね。むしろ、フラウ様に心酔しているように見えました」

「期待って言いかけましたわね貴女」

「まあ、何事もないに越したことはありません。さあ、どんどん次に行きましょう」


実は、誰も知らないツバキの誤算があった。

フラウの側に付き従うツバキを見る目にも、媚薬香水の効果は発揮されている。

王女であるフラウは当然のこととして、むしろツバキの方にこそ視線を向ける者も多かった。

それも、男女問わず効果は発揮された。

だが、表面上は何事も無く進んだので、二人が気付くことはなかった。




「……さすがに、疲れますわね」

「そうですね。今日はここまでにしますか?」

「いいえ、あと半分ほどですもの。最後までやり切りますわ」

「さすがはフラウ様。その意気です」


後日、噂が真実であると知った者達による協力申し出が増えることを見越して、少しでも消化しておきたいという思いが二人にはあった。

フラウの社交能力は素晴らしく、無愛想なツバキは横で見ているだけで、多少の口を挟む程度。

それだけに、フラウのバイタリティの高さは眼を見張るものがあった。


「素晴らしいですね。まるで雑草のような根性です」

「それ、褒めてますの? まあ、伊達に王女として今までを生きてきたわけではないということですわ」

「腕、お疲れになっていませんか?」

「握手のしすぎでだるだるですわー……」

「後で軟膏を塗りましょう」

「ええ、そうしてくださる?」

「……意外です。私が塗らせていただいてもよろしいのですか?」


その言葉を理解するのに、フラウには数秒の時が必要だった。


「わたくし、自分のことは自分で出来ますわよ?」

「まあそうおっしゃらずに」

「……はあ。それでは、塗ってくださいませんこと」

「喜んで」




「さて、挨拶回りも終わりましたし、軟膏を塗りましょう。そうしましょう」

「やけに嬉しそうですわね」

「いや、そんなことは。綺麗な肌をしておりますね」

「褒められても何故か嬉しくありませんわ」

「本当はちょっと嬉しかったりしませんか?」

「……まあ、少しは」

「フラウ様は素直ではないようで、実はとても素直な方ですね。好ましい」

「馬鹿な事言ってないで早くやって頂戴。明日もまた、授業に書類仕事に挨拶回りにと忙しいのですから」

「ええ。ですがその前に、お風呂に入りましょう」

「そうですわね。わたくしもお湯が恋しいですわ」


ツバキが古代魔法によりエーテルのお湯を創りだす。

服を脱ぎ、裸になるフラウ。


「もう恥ずかしがらないのですね」

「いい加減慣れましたわ。どうせお風呂に入るだけですし。どうせだから、一緒に入りませんこと?」


少し悔しそうな様子のツバキに、フラウは苦笑をこぼす。

初めはずいぶんと無感情な人物だと思っていたが、それは表情が顔にあらわれないだけのことだ。

まだ知りあって半年も経っていないが、フラウはずいぶんとツバキの感情を読めるようになってきていた。

そして、フラウの言葉によって、ツバキは明らかに動揺していた。


「……驚きました。まさかフラウ様から誘われるとは」

「わたくしだっていつまでもやられてばかりではありませんわ。どう、悔しいかしら?」

「いえ、嬉しいです。歓喜の極みです」

「そこまで喜ばれるとは思っていませんでしたけど。やっぱり、一緒に入浴はやめようかしら」

「ご無体な」

「ふふっ、冗談ですわ。さ、おいでなさいな」


二人は、初めて裸の付き合いというものをした。

といっても背中合わせで湯船に浸かるだけだ。

特別どうということはない。ただ、背中同士で肌は当たった。


ふと、フラウがツバキの方に振り返る。

肩に手を置き、言葉をこぼす。


「……貴女、痩せ過ぎではなくて?」

「フラウ様の胸と比べれば、多くの女性は痩せすぎに入ります」

「そうかしら?」

「そうです。当たっています」

「ふふっ。先程もそうでしたが、貴女が動揺するの、今日で初めて見せてもらいましたわ。貴女も人間なんですね」

「今までなんだと思っていたのですか」

「天才ツバキ・ベルベット。正体不明の地底人、なんて。だって貴女、表情がわかりにくいんですもの。あまり笑わないし」

「……自分でも、そう思います」

「貴女は天才ツバキ・ベルベット。第一王女フラウ・カッサンドラ・ルージュのパートナー。今のところは、それで十分ですわね」

「光栄です」

「固くなっているわね。本当、今日は貴女の新しい一面がいろいろ見れて、よかったですわ」

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