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秘密結社『ルージュのくちづけ』とのお茶会は、フラウにとって非常に有益なものだった。

違う学年の人や、教師と錬金術について議論を交わした。

フラウの錬金術に対する造詣は、ツバキとの合同勉強によって一年生にしては非常に高い。

だが、やはり年の功というものもあって、まだまだ未熟なところがあると思い知らされた。


ツバキの錬金術技能は、彼らの上を行くものがあったが。


天才ツバキ・ベルベットは思考の飛躍が多く、時に理解しがたいまでの成長を見せる。

一を聞いて百まで創りだすような。

更に、ツバキは定期的に『ルージュのくちづけ』の会合を行い、また会員を募集するため、幅広い活動を行なっている。

その過程では必然的に錬金術についての議論が発生し、ツバキは常に最上級生や教師と研鑽を積んでいる。


『ルージュのくちづけ』の活動内容にはフラウの今後の為にという名目で錬金術の研鑽や新しい技術の発明なども含まれており、メンバーは皆目覚しい活躍をしていた。

最も多くの知恵を出したのはツバキだが、教師陣や学生たちも研究者である。

合同研究や自己研鑽を通じて、メンバーはいくつもの新しい技術を開発していた。


そういった、学年の枠を飛び越えた学習の機会は、とても有意義だとフラウは考えた。

アカデミーは個人主義のかたまりのような場所だ。いささか閉鎖的でありすぎる。

横の繋がりが薄いのだ。

それをなんとかするためには――


「パーティなどを催すのも、悪くないかもしれませんわね」

「いい考えです。やりますか、パーティ。盛大に」

「盛大にやるつもりはありませんが」

「いえ、やるならアカデミー全土を巻き込んで盛大にやりましょう。4000人が参加する、アカデミー史に残るようなパーティを開催しましょう」

「資金は? 場所は? さすがに無理じゃないかしら」

「資金は以前薬師ギルドに売った『フラウの祝福』の対価があります。お金の使い道に困っていたところなので、丁度良い機会です。場所は、教師陣やライラ校長にも協力を要請しましょう。なに、第一王女殿下の考えとあらば、一日や二日、いえ一週間くらいなら融通がきくでしょう。とはいえ、教師から悪い印象を受けるのも考えものなので、そちらは私が裏から何とかします。『ルージュのくちづけ』のメンバーで根回しをすれば、穏便に事を運ぶことが可能でしょう。彼らも貴族ですからね。フラウ王女殿下のために、喜んで人員と資金を差し出すでしょう」

「……うかつに呟いただけのことが、なんだか物凄い勢いで話が膨らんでいきますわね」


ツバキは完全にやる気である。

しかも、既に開催手段にまで考えを及ばせている。


「いずれ必要なことでした。盛大なイベントを催すのは、フラウ様が皆と触れ合う機会を作るチャンスです」


ぐっとガッツポーズをつくるツバキ。


「まるで以前から計画を練っていたようですわね」

「ええ、まあ。あとは時期について考えていたのですが、フラウ様が乗り気ならすぐにでも実行に移せます」

「……わたくし、なんだか貴女のことを理解してきましたわ。『ああやっぱり』っておもいましたもの」

「嬉しいことです」


こうして、フラウ・カッサンドラ・ルージュ主催のアカデミー全土を巻き込んだパーティ計画は、実行に移されることになった。




「そもそも、アカデミーの生徒も教員も皆、貴族です。パーティを好む。にも関わらず、アカデミーでは一切そういった催し物がない。一種の閉塞感を皆が感じていたのは否めない」

「だからって、ここまで好意的だとは思いませんでしたわ!」


目の前にあるのは大量の手紙。

アカデミー生徒たちによる、協力申し出の数々だった。

ツバキは計画を円滑にすすめるために、事前に噂を流した。

フラウ王女殿下が、アカデミー全体で盛大なパーティを催すつもりだ、と。

その結果がこれだ。


「さて、このラブレターの山ですが、すべてに目を通し、可能な限り協力を受け入れてください」

「いきなり事務仕事ですか。いえ、わかっていましたけれど」

「パーティにおいて一番肝心なのは、こういった事前準備ですからね。仕方がありません。まあ、存分に恩を『買って』ください」

「貴女、悪魔のような思考回路ね。それはもちろん、わたくしと貴族との繋がりを強固にするためですわね」


恩を『売った』貴族は、フラウと直接のパイプができる。

ツバキはこのパイプをアカデミー全体に張り巡らせることを計画した。

パイプは一方通行ではない。

一度パイプを繋げてしまえば、フラウの意思一つで親密な関係を築くことは思いのままだ。


「ご明察通り」

「……本当に、貴女が平民だということが信じられませんわ」

「私が参考にした本を読みますか? 【皇女レティーシアの甘い罠】という官能小説ですが」

「いいえ、結構ですわ!」


フラウが送られてきた手紙を片っ端から読み、メモを付ける。

学年。どこの貴族なのか。その貴族の里はどのような風習があるのか。パーティにどれだけの協力ができるのか。

ツバキのチェックにより、水の一滴も漏らさない詳細な名簿が出来上がっていく。


「この作業が終わったら、挨拶回りですね。手紙の差出人には必ず直接お会いしましょう。ですが、まず第一にライラ校長ですね。難色を示されたら作戦を考える必要があります」

「ええ。わたくし、覚悟を決めましたわ。絶対にこのパーティ、成功に導いてやりますわよ」

「その意気です」


こうして、パーティの計画は着実に進行していった。

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