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「今日は錬金術でプリンを作ろうと思う」

「はい?」

「今日は錬金術でプリンを作ろうと思う。材料ならすでに調達済みです」

「ちょっと、ちょっと待ってくださらない?」

「まずは卵。そして砂糖。ミルク。バニラエッセンス。愛情。以上がこの調合に必要な材料です」

「愛情!? いやそれより、なんでお菓子を錬金術で作るの?」

「フラウ様。錬金術と料理には密接な関係があることは錬金術師にとって常識ですよ。詳しくは【錬金術の成り立ち~慕情編~】をどうぞ」


錬金術は厨房で発生した、という学説は今でも根強い。

機材の多くが、厨房で揃うものでもある。


「そんなことはわかっています! でも、なぜ今プリンなんですの」

「私のプリン分が足りなくなったから……」

「プリン分ってなんですのいったい」

「私の母は、よくプリンを作ってくれました。私もことあるごとにプリンをせがんだものです」

「はあ。まあ、分かりましたわ。では、わたくしも手伝いますわ」


遠い目をして語るツバキに、なんとなく言い知れぬものを感じたフラウ。


「……フラウ様がプリンをお作りになったら、プリン・プリンセスですね」

「凍えるようなダジャレはやめて頂戴」


卵と砂糖を混ぜながら、牛乳を魔法で創りだした湯煎で温める。

それらを加えてまた混ぜ、バニラエッセンスを加えて混ぜ、粗めのろ過器で濾す。

卵液を注ぎ入れ、お湯を張った容器の上に浮かべて、魔法で包み込む。

加熱すると、すこしずつプリンが固まっていく。


「後は常温になるまで冷やしてから、さらに冷蔵します」

「なんというか……本当にプリンを作っただけでしたわね」

「さて、それでも美味しくなっているかはまた別の問題。では、冷やしている間にカラメルソースを作りましょう」

「ええ、砂糖はこの上砂糖をそのまま使えばいいのね。それにしても、いつの間にこんなものを手に入れたのかしら」

「『金の羊亭』と商談がありまして、その折に購入したんですよ」


ほどなくして、カラメルソースも出来上がる。

プリンの上に回しかけて、完成。


「……それでは、私とフラウ様の愛の結晶がこれです」

「なんだか嫌な言い回しですわね」

「お嫌でしたか?」

「……べつに、嫌ってわけじゃないですけれど」

「ふふふ」

「なんですのその笑いは」

「いえ、なんでも」


プリンは、とろけるように甘かった。




所変わって秘密結社『ルージュのくちづけ』本部。

大導師、天才ツバキ・ベルベットはここに余ったプリンを持ち込んでいた。


「諸君。これは私とフラウ様による共同作業で作られたプリンだ。諸君らへの贈り物でもある」

『光栄です!』

「大量に作ったから、諸君ら全員に配れるだけの量はある。ただし、これを食べるということはフラウ様に忠誠を誓うということだ。そのことをよく胸に刻んでほしい」

『当然です。グランドマスター』

「よろしい。では、今からプリンを配る。王女殿下からの賜り物である。心して受けて欲しい」


皿に盛り付けたプリンを、ツバキは一人ひとりに配る。


「グランドマスターの手みずから……! ありがとうございます!」

「いや、私は君たちの同胞だ。そこまで畏まらずとも良い」

『なんと畏れ多い……』

『実は俺、グランドマスター様のファンクラブを作ろうと思うんだ。俺はあの神秘的な瞳に魅入られてしまった』

『それはいい案だ』

「諸君。私への忠誠は必要ない。なぜなら私は、フラウ様の忠実なしもべだからだ」

『おお、なんと気高い心意気だろう』


部屋は怪しげな雰囲気に包まれていた。




「なにをしていますのー!?」


唐突に扉が開き、フラウが部屋に踏み込んできた。

暗幕を張った部屋に太陽の光が差し込む。

覆面を被った参列者は、一言でいって怪しかった。限りなく。


『こ、これはフラウ様!?』

「不埒者が教室に暗幕をかけて怪しいことをしていると思ったら、貴女の仕業ですか、ツバキ!」

「いや、これはただのお茶会です。教室の使用許可は教師にとっております。フラウ様も一緒にどうですか?」

「なんでお茶会の席なのに、みんな覆面を被っていますの!? 怪しすぎましてよ!?」

「いかん、みんな覆面を取るのだ」

『は、はいグランドマスター!』


学年も性別もバラバラの生徒たちがあらわになる。

何人かは教師も混じっていた。


「今の私はグランドマスターではなく天才ツバキ・ベルベットです」

「今の貴女も何も無いですわよ! なんでこんなことになっているんですの、いったい!?」

「いや、プリンがとても良く出来ていたものだから、みんなにも食べていただこうかと思いまして」

「それでなんで黒ミサ状態なんですの……」

「雰囲気というものは大事です」

「なんの雰囲気ですか、なんの」

「秘密結社ですから」


秘密結社なら仕方がない。


「はあ。もういいですわ。それでは、わたくしもお茶会に参加させてもらってよろしいかしら?」

「勿論です。ところで、なぜここがお分かりになったのです?」

「……保存していたプリンを食べようとしたら、欠片もありませんでしたから。貴女が持っていったとしか思えないでしょう」

「可愛らしい理由ですね」

「……わたくしだって乙女ですもの。甘いものは好きですわ」

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