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「さて、そろそろ貴族の子供たちを王族派第一王女派閥に取り込む工作をしようとおもうのですが、どうでしょうか。フラウ様?」

「……貴女、物凄いことを言ってますわよ」

「ですが必要なことでしょう。まずは最高学年である四年生から攻略していこうと思います。すぐに卒業するということは、すぐに王国のために働くということです。今のうちからフラウ様の信奉者を増やして、後の礎を作っていただきましょう」


ダリルバニア王国の貴族たちは、大きく分けて貴族派と王族派がいる。

そしてその中でも、王族派第一王子派、王族派第二王子派など、それぞれの派閥の中でも誰を支持するかによって細かく宗派が分かれる。

もちろん王族派第一王女フラウ派もいるが、フラウは6人兄弟の末である。

王位継承権を持っているとはいえ、それほど力を持っているとは言いがたい。

それゆえ、そう味方の数は多くない。

とはいえ各派閥は現状、戦争に発展するような緊張感を持っているわけではなく、それぞれの派閥はなんとなく誰を支持するか、程度のものでしかない。

明確な意思を持って工作をかければ揺れ動く。


「わかりました。わたくしもいずれやらねばならないと思っていたところです。で、貴女がそういうことを言うということは、既に手土産か何かを用意しているのですね?」

「ええ、まあ。では、今からその手土産を作りますので、少々離れていてください」

「は? 貴女、また何かするつもりですの?」


ツバキの言うとおり数歩あとずさり、距離を取る。

ツバキが何かするとき、近くにいるのは危険である。特に、危険を勧告してきたときは本当に危険なのである。

爆発程度ですめばまだ安全なうちだ。


「校長が古代魔法にあれほど熱心になる理由を知っていますか?」

「それは、古代魔法が今のわたくしたちの魔法よりずっと強いのですし、解き明かすのは多大な功績にもなりますし、魔法使いとして当然のことではありませんの?」

「いいえ、それだけでは解答として50点です。私はここで錬金術を学んで知りました。錬金術と古代魔法には、密接な関係があります。今からそれを証明しましょう」


ツバキが祈るように手を組む。

膨大なエーテルが集まる。無色の、精霊の力が宿っていない純粋な「力」だ。

極限まで圧縮されたエーテル。

それが、物体化する。

四元素「火」「水」「土」「風」のいずれでもない物体。

透き通った色の宝石だ。

それを、いくつも作る。

10個を超えたところで、ようやくツバキは作業を止めた。


「……ふう」

「貴女、これは……?」

「擬似『賢者の石』です。文献に乗る情報を見るかぎり、間違いありません。正体は純粋なエーテル体ですね。これがあれば、現代魔法だろうが何だろうが思うがままです。まあ、実際に使いこなせるかどうかは別ですが」

「そんな……馬鹿なことって、あるわけがないわ。これが『賢者の石』」


それは錬金術の最高課題。

エーテルを実体化させることはすなわち、莫大な「燃料」の作成だった。


「擬似的なものですがね。本物は、これに更に四属性を乗せます。ですがまだ、私には技術が足りないので、今はここまでです」


これは未完成品である、とツバキは告げた。

だが、そもそも賢者の石の製法は失われた技術だ。

そして、エーテル塊の物体化は、錬金術の秘中の秘である。


「貴女……ミスティックをこんなに創りだして、これが世に知れたらどうなることかわかっていますの?」

「どうにもなりませんよ。私には第一王女殿下の庇護がある。そうでしょう?」

「……その通りですわ。貴女の立場は必ずわたくしが守ります。わたくしの隣が、貴女の立ち位置です」

「期待しておりますよ」


「これを持参して四年生に会うのね。そして、相手がこの物体の価値もわからないようなボンクラなら仲間に入れる必要はない。そういうことでしょう?」

「その通りです。数が足りなければまた作りましょう。まずは、物で釣ることです。人心掌握に関しては、フラウ様の腕の見せ所ですね」

「ええ、わかりましたわ」

「それと、モノがモノですから、あまりバラ撒くというわけにはいきません。交渉の基本は忍耐です」

「言われずともわかっておりますわ」




「ところでフラウ様、秘密結社『ルージュのくちづけ』という存在を知っていますか?」

「いいえ、知らないわ。聞いたこともありません」


秘密結社。怪しい文句である。

ダリルバニアでは結社の構成は特に制限されていないので、わざわざ秘密にする必要がないのに秘密結社。

ロマンなのだろう。

ロマンなら仕方ない。


「フラウ王女様ファンクラブのことです。主な構成員はアカデミーの生徒ですね。たまに教員が混じっていたりしますが」

「は?」

「ちなみにグランドマスターは私です」


グランドマスター。大導師。

つまりは結社のトップである。

創設者とも言う。


「人の知らないあいだに貴女はいったい何をしていますの!?」

「構成員には四年生も結構な数がいます。名簿もあります。まずはここから仕掛けていき、ゆくゆくはアカデミーをフラウ様の信奉者だらけにしようかと」

「……もう、好きにしてくださいな」

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