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黒鴨の隠者と朱の鏡  作者: 保坂 澪杜


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2/2

邂逅

 ――しかし、その勢いの良さが消え失せるまでに、五分もかからなかった。


「ちょ……やっと……つ、着いた……」


 意気揚々と石段を登り始めたものの、想像以上の急勾配、かつ段数の多い石段を、佳代子は這う這うの体で上り切った。


 太い鳥居に(もた)れながら、身体を折り曲げ全身で息をする。


「もうダメ……絶対明日筋肉痛だわ……」


 しばらくして少し落ち着きを取り戻すと、凝り固まった腰の筋を伸ばすようにして、ゆっくり顔を正面に向けた。


 目の前に静かに広がる黒鴨神社境内。行き交うそよ風が、境内のそこかしこに自生する大木の葉を揺らしている。本殿は古びてこそいるものの、生きている、という雰囲気を感じさせた。


 佳代子は深呼吸を一つすると、荷物を担ぎ直して鳥居を潜る。


 広々とした社殿前の玉砂利の上を歩きながら、周囲を観察する。


 鳥居から入って正面に社殿。鳥居のすぐ右手に手水舎(ちょうずや)。左手に社務所と思しき平屋の建物があった。


 佳代子は少し立ち止まって考えると、先に社殿へ向かい挨拶の礼拝をしてから、社務所の方に向き直った。


「あれまあ、若いのにお参りとは偉いわねぇ」


 いつの間にか目の前に、背の低い農作業着姿のお婆さんがいた。


 佳代子は驚いて変な声をあげかけたが、すんでのところで抑え込むと、笑顔を引き()らせながら、


「こ、こんにちわ……」


 と挨拶を絞り出した。


「ええ、ええ、こんにちわ。今日はお天気も良くて助かったわねぇ」


 小さなお婆さんは笑顔で会釈しながら、佳代子の横を通り過ぎていった。


 佳代子が目で追うと、お婆さんは社殿と手水屋の間にある通用門を通ると、ヘルメットを被り、原付に乗って颯爽と去って行った。


「え!?」


 佳代子は慌ててお婆さんの出て行った通用門に行くと、門の外には車が通れるほどの緩やかな坂道が続いていた。


「嘘でしょ……」


 どうやら神社正面の心臓破りの石段の他に、車の通れる裏道があったようだ。


 佳代子は、ガックリと肩を落としながら、とぼとぼと社務所へと歩き出した。


 木造平屋建ての、よくある感じの社務所の中には誰もいなかった。


「すみませーん! どなたかいらっしゃいますかー?」


 受付と思しき窓を開け、中に向かって大声で呼びかける。


 しばらくすると、部屋の(ふすま)が静かに開き、白衣(びゃくえ)に暗い紫色の袴を身に着けた、若いのか年を取っているのか分からない年齢不詳の男性神職が現れた。


「お待たせいたしました……お参りですか?」


 低いがよく通る声で訊ねてくる。


「あ、ええっと……お参りではなくて……」


 佳代子は聞かれてしどろもどろになる。黒鴨神社で古文書や、神社にまつわる古史古伝を見たり聞いたりすることだけを考えていて、どのように頼むかまでは考えていなかった。


 神職は鳶色の目でじっと佳代子のことを見つめていたが、


「……当神社では御朱印のようなものはお受け致しておりませんので」


 と、言って軽く頭を下げた。


 佳代子は話を終わらせられてはたまらないと、受付に身を乗り出し、


「ち、違います! そうではなくてですね! あの! 古伝を……」


「古伝……ですか?」


「あの、実はですね……」


「あー、申し訳ないけど邪魔するよ」


 背後から突如降ってきた野太い声に、佳代子は「うわぁおっ!?」と喉を引き攣らせて肩を跳ね上げた。


 振り返ると、くたびれたスーツに背の高い細身の中年男性と、笑いを堪えながら肩を震わせている若いスーツの男が立っていた。


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