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黒鴨の隠者と朱の鏡  作者: 保坂 澪杜


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プロローグ

初めまして。初投稿です。

ミステリ風味のSF伝奇アクション異能バトルの幕開けです。

 東京の西のはずれにある日鷹市。そのささやかな中心街に佇む古物商『八重(やえ)堂』の地下金庫室は、分厚い鋼鉄の扉によって外の世界から完全に隔絶されていた。


 店主の男は、冷たいコンクリートの床にへたり込み、荒い息を吐いていた。


 震える手には古びた桐箱を抱え込んでいる。


「……渡さない。これは、俺が金を出して見つけたんだ。脅されたって絶対に渡さないぞ……」


 血走った目で暗闇を睨みつける。強固な内鍵をかけたこの地下室なら、いかなる暴漢も入っては来られないはずだった。


 男は震える手ももどかしく、桐箱を開けて中を確認する。


 しかし――異変は、物理的な「()()」としてではなく、静かな「()」として訪れた。


 換気のためのわずかな通気口。そこから、一条の強烈な光が射し込んだのだ。

 

 光の筋は、男が抱える桐箱の「鏡」の盤面を正確に射抜いた。

 

 瞬間。


 地下室の壁に、ありえないものが浮かび上がった。


 鏡の反射光が描き出したのは、歪な古代文字の羅列と、見たことのない異形の神の姿だった。


「ひ、あ、あああっ! の、呪いだ、神の、呪いが……!」


 壁に(うごめ)く幻影に発狂した男は、自らを守るはずだった鋼鉄の扉の鍵を乱暴に開け、外へ飛び出そうとした。


 扉を開けた刹那、鈍い音が暗い地下室に響いた。


 崩れ落ちる男の視界の端で、黒い影が桐箱を拾い上げるのが見えた。


 薄れゆく意識の中、男の視界が朱に染まる。


 圧倒的な朱の色が全ての視界を塗り潰し、男の意識は完全に途絶えた。



……


「――だから! 『魏志倭人伝』の記述における水行十日、陸行一月というタイムスケールを文字通りに受け取るから畿内説と九州説で延々と平行線を辿るのよ! 鍵は古事記や日本書紀が編纂されるより前、歴史から意図的に『消された』土着の神々の記述にあるはずなのに……!  あ、ちょっと待ってゼミ長、いま電波が……!」


 初秋の気配が混じる風の中、神津国際(こうづこくさい)大学の助教・水門(みなと) 佳代子(かよこ)は、誰もいない田舎道で一人、スマホ相手に熱弁を振るっていた。


 右手には赤ペンでびっしりと書き込みがされた古文書のコピー。左手にはスマホと重たい資料が詰め込まれたトートバッグ。彼女の頭の中は、今まさに千七百年前の日本列島を駆け巡っている真っ最中だった。


「特に、あの地方に残る伝承……ホツマツタヱとも違う、奇妙な神代文字の記述。あれを解読できれば、邪馬台国の本当の――ほわぁっ!?」


 資料から目を離さずに歩いていた佳代子の爪先が、道端の小さな窪みに見事に引っかかった。


 つんのめり、宙を舞う古文書のコピー。トートバッグは方からずり落ちたが、佳代子はギリギリのところで両手をつき、顔面から田んぼの用水路に突っ込むのだけは回避した。


「あいたた……あ~ん……買ったばかりのシューズが泥だらけじゃないのぉ……」


 膝についた土を払いながら立ち上がり、散らばった資料を慌てて拾い集める。


 ふと顔を上げると、目の前には鬱蒼とした鎮守の森と、空に向かって伸びるような長い長い石段がそびえ立っていた。


 見上げても本殿の屋根すら見えないその神社の名は、『黒鴨(くろがも)神社』。


 観光マップには載っていないが、一部の歴史学者の間では「表に出せない曰く付きの古文書を多数秘蔵している」と噂される場所だった。


「……着いた。ここが、黒鴨神社」


 佳代子はゴクリと唾を飲み込み、胸の高鳴りを抑えるようにトートバッグの紐を強く握りしめた。


 この石段の先に、日本の歴史を覆すかもしれない真実が眠っている。その情熱だけで、彼女はここまでやってきたのだ。


 彼女はまだ知らない。


 この神社の奥で静かに本をめくる「隠者」との出会いが、己の信じてきた学問の常識だけでなく、世界の裏側――『八咫烏』という血塗られた異能の世界の扉をこじ開けることになるということを。


「よしっ、行くわよ!」


 佳代子は気合を入れ直し、一段目へと元気よく足を踏み出した。


お読みいただきありがとうございました。

某カク〇ムにて青春ミステリーを書いておりますが、

違ったテイストで書きたい! と思って、こちらに参上しました。

面白そうって思っていただけたら、評価やブックマークしていただけると幸せです!

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