08.自己紹介
王との謁見を終え、俺たちは謁見の間を後にした。
この後は、魔法王国側の担当者と今後についての打ち合わせが控えている。
使者の後について、城内を移動する。
……それにしても、やはり気になる。
城内では扉や壁に限らず、通路や階段など、至る所に光の筋が張り巡らされている。
これこそが、ソロン魔法王国の持つ魔法技術の根幹に関わるものなのだろう。
使者は一つの部屋の前で立ち止まり、扉を開けた。
部屋の中には、豪奢ではないが、長い年月使い込まれてきたと思しき大きな机が一つ。
その左右には、それぞれ三脚ずつ椅子が並んでいる。
左側の椅子のうち、中央を除いた二つには、すでに先客が座っていた。
奥側に座るのは、髪が机に触れそうなほど長い金髪の少女だ。
緩やかなウェーブのかかった髪がふわりと揺れ、柔らかな印象を与えている。
入口側に座るもう一人は、顔と同じくらいの長さの金髪をツインテールにした少女で、こちらはやや幼い雰囲気だ。
二人とも使者と似た制服を着ている。
おそらく、今回の技術交流のために集められた研究員なのだろう。
俺たちに気づくと、二人は同時に立ち上がり、軽く一礼した。
使者が「こちらへ」と手で右側を示す。
案内されるまま、俺たちは机の右側の椅子へ向かった。
中央の椅子にはレインハルトが、入口側の椅子にはハインがさっさと腰を下ろす。
結果として、俺は一番奥の椅子に座ることになった。
使者は、空いていた左側中央の椅子に腰を下ろすと、胸元を指で軽く叩いた。
レインハルトが意図を察し、胸元から石のペンダントを取り出す。
それを差し出すと、使者は受け取り、今度は俺とハインへ視線を向けた。
……俺たちも、ということか。
俺とハインも首からペンダントを外し、差し出す。
使者は三つのペンダントを受け取ると、それぞれ左右の少女たちに一つずつ手渡した。
二人は、事前に聞いていたかのように頷き、受け取る。
これで、魔法王国側の三人が、それぞれ一つずつペンダントを持ったことになる。
受け渡しが終わると、使者はペンダントを握り込み、低く何かを呟き始めた。
それに呼応するように、左右の二人も同じようにペンダントを握り、言葉を紡ぐ。
次の瞬間――
眩暈を覚えるほどの光が、三つのペンダントから放たれた。
「なんだ!?」
そう叫ぶより早く、光は収まり、ペンダントは淡く光を帯びる程度に落ち着いた。
対面に座る長髪の少女が、俺のペンダントを差し出してくる。
受け取ってよく見ると、彫り込まれていた模様が、微かに光を放っていた。
――これは、扉や壁にあった光の筋と同じ……?
身につけるよう促され、再び首にかける。
三人とも装着し終えたところで、対面から声がかかった。
「我々の言葉が、理解できているかな?」
レインハルトが驚いた表情のまま、無言で頷く。
……謁見の間と同じ仕組みか。
「それは良かった」
使者――いや、男は穏やかに微笑む。
「今後、このメンバーで技術交流を進めていくことになる。まずは自己紹介から始めよう。
私はソロン魔法王国、魔法技術研究院のアルバート・ノルディアだ。
魔法王国側の技術交流の責任者と考えてもらって構わない。よろしく頼む」
続いて、入口側の少女が口を開く。
「あたしはラファエラ・アルディオン。ノルディア室長と同じく、魔法技術研究院で魔法解析を担当してるわ。
気軽にラフィって呼んで。よろしくね」
少しだけ語気が強い。
翻訳の問題か、それとも性格か。
最後に、俺の正面に座る少女が立ち上がった。
「セシリア・ルミナリエと申します。魔法技術研究院で、魔法都市計画の研究を行っています。今後、さまざまな場面で協力できればと思います。よろしくお願いします」
一人だけ丁寧に立ち上がって頭を下げる。
――どうやら、かなり真面目な性格らしい。
そうして、魔法王国側の自己紹介が終わると、今度は俺たちプレスト王国側の番となった。
まず、レインハルトが自己紹介をする。
「プレスト王国、新技術調査室長のグラーフ・レインハルトだ。今回、我々プレスト王国側の責任者を務める。これまでの経歴としては、土木工事監督官としての経験が長い。以後、よろしく頼む」
簡潔で無駄のない挨拶。
さすがに場慣れしている。
続いて、ハインが勢いよく手を挙げた。
「僕はフランツ・ハインリヒ、二十八歳!専門分野は主に力学と材料学だ!ここまでの道中で初めて魔法を見たが、あんなに楽しそうなものがあるとは思ってもいなかったぞ!ぜひ今後、いろいろ教えてくれ!」
……やや砕けすぎな気もするが、まあ、いつものハインだ。
最後に、俺も立ち上がる。
「エドモンド・ハルフォードです。専門分野は構造物の維持と修繕を中心とした管理技術です。未熟な点も多いですが、これからよろしくお願いします」
一通りの挨拶が終わり、場に小さな静寂が落ちる。
こうして、
両国の未来に大きな影響を及ぼすことになる――
技術交流の本題が、いよいよ始まった。




