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市民のための魔法工学  作者: 青山省吾


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07.謁見の間

城門をくぐると、空気がわずかに変わった。

外と比べて涼しい――いや、正確には、温度が一定に保たれているように感じる。


足元は石畳だが、見慣れたものとは違っていた。

一枚一枚の石は滑らかに整えられており、継ぎ目がほとんど分からない。

目地材らしきものも見当たらないのに、隙間から草が生えている様子もない。


城門をくぐって少し行ったところで、城内に入るための扉が見えた。

扉の前で馬車が止まり、降りるように促される。

扉の両脇には、銀色に光る鎧を着た衛兵が立っていた。

衛兵は使者を見るなり最敬礼し、静かに扉を開ける。


扉の先は通路になっていた。

両脇には高い柱が等間隔に並び、その上部をアーチが繋いでいる。

だが、支柱としての役割以上に、どこか装飾的な印象を受けた。

柱の表面には細い溝が刻まれており、その中を淡い光が脈打つように流れている。


――あの光だ。

城壁の外で見たものと、同じだ。


「なんだこれは! これも魔法なのか!?」


ハインは天井を見上げながら、感嘆の声を上げた。


俺もつられて天井を見上げる。

天窓はない。

それなのに、城内は明るい。

影ができにくく、柔らかな光が空間全体を満たしている。


(……光源が、分散している?)


たいまつや燭台は見当たらない。

それでも暗さを感じないのは、壁や柱そのものが光を発しているからだろう。

しかも、その明るさは均一で、目に刺さるような強さはない。


「これも魔法だとしたら、どれだけの維持コストがかかっているのだろうな……」


レインハルトが、低くつぶやいた。


確かに、農村部で魔法を見たときは、農夫が近くで操作していた。

魔法を使うには、人の操作が必要なのだろう。

そう考えると、城壁や支柱を含め、これほど大きな構造物にかかる魔法を維持するために、どれだけの魔法術者が必要になるのか、想像もつかない。


――

城内の通路を抜けると、やがて一際大きな扉の前で足が止まった。


両開きの扉は、人の背丈の三倍はあろうかという高さで、表面には複雑な文様が刻まれている。

だが、その文様は単なる装飾ではない。


よく見ると、線の太さや間隔が、不自然なほど均一だ。

まるで、何かの回路図をそのまま拡大したようにも見える。


使者は振り返り、静かに、という仕草をした。

ここが謁見の間なのだろう。

この先に、相当な人物がいるのは間違いない。


使者が声を張って告げると、二枚の扉がゆっくりと開いていく。

中は、想像していたよりも広かった。

だが、無闇に天井が高いわけではない。

空間全体が、均整の取れた比率で構成されている。


床は磨き上げられた石材。

壁面は白を基調としつつ、ところどころに金属質の装飾が組み込まれている。

そして、そのすべてに、例の淡い光の線が走っていた。


謁見の間の奥、数段高くなった壇上に玉座がある。

威圧的な装飾はなく、意外なほど簡素だ。

だが、そこに座る人物の存在感が、空間全体を支配していた。


「――よくぞ来た、プレスト王国の使節よ」


落ち着いた、しかしよく通る声。


(……言葉が、理解できる?)


隧道を抜けてから、この部屋に来るまでの間、彼らの使う言葉の意味は分からなかった。

だが、今は違う。

聞こえてくる音は先ほどまでと同じはずなのに、頭の中では自然と意味を成している。


その違和感に気づき、周囲を見る。

レインハルトと目が合った。

どうやら、彼も同じことに気づいたらしい。


玉座に座っているのは、壮年の男性だった。

豪奢な王冠はなく、身にまとっているのは儀礼用と思しき法衣のみ。


だが、その背後――。

玉座の背後に設けられた巨大な壁面。

そこ一面に、無数の光の線が走っている。

複雑に絡み合い、交差し、一定のリズムで脈動していた。


「どうか、楽にしてほしい」


王の言葉に促され、俺たちは指定された位置まで進む。

歩くたびに、床が微かに反応しているような感覚があった。

振動ではない。

むしろ、重さを測られているような――。


ハインは気になるものが多いらしく、部屋のあちこちに視線を走らせている。


(静かにしていてくれよ……)


内心で、そう祈った。


王は、俺たちを一通り眺めてから、穏やかに微笑んだ。


「さて。まずは長旅、ご苦労であった。隧道を越えて来た感想を、聞かせてもらおうか」


王の問いに、レインハルトが一歩前へ出る。

姿勢を正し、定型の挨拶と感謝の言葉を述べた。

隧道の安全性、道中の配慮、都市マリンの繁栄――

どれも、非の打ち所のない外交辞令だ。


王は、小さくうなずきながらそれを聞いている。

どうやら、我々の言語も、正しく伝わっているようだった。


王は、ふと問いかけるように言った。


「この城を見て、どう思った?」


一瞬、空気が張りつめる。

外交的な賛辞を求められているのか。

それとも――試されているのか。

俺は一歩踏み出し、正直に答えた。


「……正直に申し上げますと、我が国の技術とはあまりにも作りが違いすぎて、単純な評価ができません」


「ほう」


王は促すように、視線だけで続きを求めてきた。


「我が国では、このように光を内包した壁や天井を見たことがありません。

 扉や壁に走る光の筋についても、その意味や役割が理解できない」


一度、息を整えてから、続ける。


「同時に――我々が持つ土木技術が使われている形跡も、ほとんど見当たりませんでした」


王は、満足そうにゆっくりとうなずいた。


「その通りだ」


低く、しかしよく通る声。


「我が国と、そなたらの国では、持っている技術体系そのものが異なる。ゆえに、単独では到達できぬ領域がある」


王は玉座に深く腰を下ろし、はっきりと告げた。


「だからこそ、我らは技術交流を望んだ。互いの技を持ち寄り、組み合わせ、新たな技術を生み出すためにな。――大いに期待しておるぞ」


その一言は、激励であると同時に、逃げ場のない宣告でもあった。

こうして、王との謁見は幕を閉じた。


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