06.王城までの道のり
魔法王国の一団に率いられて、俺たちは隧道を後にした。
馬車は山肌に沿うように、ゆるやかに下っていく。
馬車から顔を出してみると、遠くに城のような建造物が見えた。
――あれが、王城なのだろうか。
魔法王国の使者がレインハルトと握手を交わした後、今後の予定についての説明がなされた。
兵士の通訳によれば、この後、我々はソロン魔法王国の王城が置かれている都市――マリンへ向かい、そこで今後の「技術交流」について打ち合わせを行うとのことだった。
我々が大臣から受けた任務は、土木技術を教え、魔法技術を学ぶことだ。
つまり、魔法技術を理解し、それを組み込んだ新たな土木技術を開発するか、あるいは我が国が魔法を扱える人材を確保することが目的なのだろう。
しかし現時点では、魔法というものを実際に目にしていない。
どのような技術なのか、見当もつかないのが正直なところだった。
そんなことを考えながら、馬車に揺られていた。
――
馬車の中で、勾配を感じなくなったころ、ひと休憩を取ることになった。
馬車から降りて周囲を見渡してみると、どうやら農村の近くらしく、道の両脇には畑が広がっていた。
まっすぐに耕された畝を見て、我が国でもそろそろ種まきの時期だったな、とふと思い出す。
「あれはなんだ!?」
ハインが大きな声を上げた。
その指差す方向に目を向けると、少し離れた畑に農夫の姿が見て取れる。
そして、その農夫から少し離れた空中に、水の玉がふわりと浮かんでいた。
水の玉はゆっくりと形を変え、やがてシャワーのように細かな水滴となって、畑に降り注いでいる。
「あれが魔法ですよ。私も初めてこちら側に来たときは驚きました」
そう、兵士が教えてくれた。
「いいなぁ!楽しそうだなぁ!いや、楽しいに違いない!僕にもやらせろ!」
ハインは、たった一目見ただけで魔法をすっかり気に入ったようだった。
「……水は貴重だと聞いているが」
俺が独り言のように呟くと、今度は兵士ではなく使者が答えてきた。
兵士の通訳によると、空気中から水分を集めることで、ああして水の玉を作っているのだという。
(……というか、この人、俺たちの言葉を理解しているな)
内心で驚きつつも、使者に感謝の言葉を述べる。
その説明を踏まえ、改めて畑の様子を観察する。
水の玉から落ちる水は、思った以上に規則正しかった。
勢いは強すぎず弱すぎず、畝に沿って均等に広がっている。
一か所に溜まることも、逆に乾いたままの場所もない。
(……水量が安定している)
俺は無意識のうちに、畑の幅と水の落下範囲を目で測っていた。
畝の間隔は一定で、水の落ちる幅もそれに合わせて調整されているように見える。
偶然にしては、出来すぎだ。
我が国で同じことをやろうとすれば、水路を引き、勾配を計算し、堰を設ける。
それでも水量の調整には苦労する。
雨が降らなければ畑は干上がり、降りすぎれば今度は流される。
だが、ここでは違う。
必要な分だけ、必要な場所に、水が落ちている。
(空気中から水を集めている、だったか……)
もしそれが本当なら、水源の確保という概念そのものが変わる。
井戸も、水路も、雨乞いもいらない。
農地の場所は川に縛られず、勾配に頭を悩ませる必要もない。
「……反則だろ、それ」
思わず、口から本音が漏れた。
魔法が生活に密着している、という大臣の言葉を、俺はこの瞬間になってようやく実感した。
これは見世物でも、特別な儀式でもない。
日々の営みの一部として、魔法が使われているのだ。
魔法を使える者がこれほど多いのなら、身近な技術に魔法を組み込むことで、より効率的な仕組みを作れるのではないか。
俺の頭の中ではすでに、自分の持つ土木技術に、どう魔法を組み込めるか、どんな魔法があれば実現できるか――そんな考えが、次々と浮かび始めていた。
――
「おい、城壁が見えたぞ!」
馬車から顔を出していたハインが声を上げる。
俺もつられて馬車から顔を出す。
先ほど遠目に見た時とは比べものにならないほど巨大な城壁が、視界いっぱいに広がっていた。
山を背にして建つその姿は、プレスト王国の城とは趣が異なる。
高い城壁は備えているが、威圧感よりも、どこか調和を感じさせる造りだ。
尖塔の先端や城壁の縁には、淡い光の線が走っている。
それは、装飾というには規則正しく、機能というにはあまりに静かだった。
――あの光の線は、一体……。
王城へと続く大通りに入ると、人の数が一気に増えた。
商人、職人、魔法使いらしき者、そして兵士たち。
どうやら、既に都市マリンの中に入っているらしい。
大通りをしばらく進むと、やがて城門にたどり着く。
馬車が城門前で止まり、少し待つと――
大きな門が、音もなく開いた。
その奥に、城内へと続く道が姿を現す。
こうして俺たちは、未知の魔法と技術が交差する場所
――ソロン魔法王国の王城に足を踏み入れることとなった。




