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市民のための魔法工学  作者: 青山省吾


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04.出立

大臣室を出て会議室に戻ってきた俺たちは、今後について打ち合わせることにした。


「さて、我々新技術調査室だが」


と、レインハルトが口を開く。


「先ほど大臣から指示を受けた通り、山脈の向こう側へ行くこととなった。ついては、今後の日程について調整したいと思う」


そこでハインが手を挙げる。


「このまま行くんじゃ駄目なのかー?」


気の抜けたやつだ。

奴の頭の中には準備という言葉はないらしい。

というか……これからも上司にその口調でいくつもりなのか?


「そうしたいのは山々だが、すぐに出立できる準備は整っていない。まさか、ここではない別の国へ行けと言われるとは思っていなかったからな。さすがに俺も、着替えもなしに行きたくはない」


怒っている様子はない。

レインハルトは、ハインの口調を特に気にしていないようだった。


「とはいえ、どこまで物が必要か分からん。さすがに家具まで含めてすべて持って行けという話でもあるまいし、向こうで買うにしても金は必要だ。そのあたりは、後で秘書官殿に確認しておく」


秘書官というのは大臣直属の部下のことで、今後の報告などは秘書官を通すようにと、大臣室を出る直前に言われていた。


「お前たちは、今どこに住んでいる? 俺はこの近くだが」


「僕は隣の寮舎に住んでいる! 家は遠いからな! いつでも来てくれていいぞ! そしてお茶を振る舞え!」


お前が振る舞うんじゃないのか。


「俺は、今日から寮舎に入る予定でした。なので、出立準備もそれほど時間はかからないと思います」


「了解した。では、とりあえず五日後に出立ということで行こう。出立当日は、この会議室に集まってから向かう。秘書官殿に確認した内容については、分かり次第連絡する。今日は解散だ」


その日の夕刻、寮の部屋にレインハルトがやってきた。

向こう側では宿舎に入れるということ。

宿舎には家具一式が揃っているため、必要なのは仕事道具と着替え程度であること。

持っていく荷物は少なめにすること。

金銭については、向こうに着いた際にある程度支給されること。

そして最後に、石のペンダントが手渡された。

石には、何かの模様が彫られている。


「特使としての証明書のようなものらしい。肌身離さず持っていろ、と大臣からの指示だ」


そう言って、レインハルトは部屋を後にした。

だいぶ疲れているようだったから、ハインの部屋に寄った後なのだろう。


――本当にお疲れ様です。


心の中でそう呟きながら、レインハルトの背中を見送った。


五日後。


「よし、全員揃ったな。二人とも、体調は問題ないか?」


「問題ありません」


「元気モリモリだ! 今日は朝から調子がいい!」


「うむ。二人とも元気そうでなによりだ。それでは、これより東方山脈隧道へ向かう。馬車の手配はしてある。城門前に来ているはずだ」


そう言って、城門へ向かう。

東方山脈隧道までは、徒歩で二日、馬車で半日ほどの距離だ。

だが、隧道周辺は国家による厳しい規制下にあり、承認がなければ近づくことすらできない。

当然、定期の馬車などあるはずもなく、特別な手配が必要になる。

荷物を少なめにしろという指示は、持ち込める量に制限があるからなのだろう。


「よし、来ているな。では荷物を持って乗り込むように」


そう言って、レインハルトが先に乗り込む。


「ハイン……お前、なんだか荷物が多くないか?」


「そうか? 必要なものしか持ってきてないぞ!」


明らかに、不要なものが見えている。


「寝具は備え付けだって、レインハルトさんが言ってただろ」


「僕は枕が変わると眠れない派なのだ!そんなことも分からない君は、エドウィンなんて名前はやめて、オロカモンドとでも改名した方がいい!」


「だから、俺の名前はエドモンドだ!」


そんなやり取りをしつつ馬車に乗り込み、隧道へと向かう。

隧道近くの街に到着した頃には、すでに日が落ちていた。


「今日はここまでだ。この宿で一泊し、明日の朝一番で隧道を抜ける」


木に皮を張っただけの簡素なシートの馬車に、半日も揺られる機会はそうそうない。

尻が四つに割れそうだ。


「着いた着いた! 僕はこの部屋を使うからな!」


そう言いながら、ハインは部屋へと滑り込んでいった。


――あいつ、枕が変わると眠れないとか言っておきながら、枕を持ってきていなかったな……。


そんなことを考えつつ、俺も部屋に入る。

部屋は簡素な造りで、まさに泊まるだけといった印象だ。

東方山脈は、その名の通り国の東端に位置している。

山脈の麓にあるこの街は、国内でも最東端と言って差し支えない。

そのため、旅人が訪れる機会は少ないのだろう。

――そう感じさせる部屋だった。

今後、ソロン魔法王国との国交が公表され、山脈のこちら側と向こう側で交流が盛んになれば、この街を訪れる者も増えるはずだ。

そんなことを考えながら、俺は眠りについた。

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