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市民のための魔法工学  作者: 青山省吾


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02.会議室にて

出立の朝も、水の音は変わらなかった。


夜半に降った雨が、山から流れ込み、水路を満たしている。

窓を開ければ、石組みの隙間を抜ける水の音が、いつも通り耳に届いた。

水位は増しているが、警戒線には達していない。


「……問題なし」


エドモンドはそう呟き、窓を閉めた。


町は、変わらず動いている。

人々は畑へ向かい、家畜を引き、朝の仕事を始める。



エドモンドが作業場につくと、すでに作業が始まっていた。


図面を広げる父の背中は、昔と変わらない。

白髪は増えたが、手の動きに迷いはなく、必要な箇所だけを正確に指し示す。


「第四工区の排水は、余裕を削るな」


父は淡々と言う。


「水はな、流すためにあるんじゃない。溢れさせないために、逃がすんだ」


見習いたちは、黙って頷いた。

元主任技師の言葉は、今も現場で生きている。


エドモンドは少し離れた場所から、それを見ていた。


(……これ以上、言い残すことはない)


父は図面を畳み、短く言った。


「行ってこい」


それだけで、十分だった。


王都は、何度来ても落ち着かない。


石畳の幅。

建物の高さ。

人の多さ。


どれもが、地方の町とは基準が違う。


エドモンドは、王都中央区にある官庁街を歩きながら、自然と足取りを確かめていた。


土木技師試験のために、ここを訪れたことは何度もある。

だが今回は、試験ではなく異動だ。


今後この王都で働いていくことになるのだろう。


それでも、胸の奥に残る緊張は似ていた。


指定された建物の前で立ち止まり、一度だけ深く息を吸う。


守衛に名乗る。


「本日より新技術調査室へ配属となったエドモンド・ハルフォードだ。新技術調査室への取り次ぎを願いたい」


少々お待ちくださいと守衛が言う。


確認が取れたのか、2階奥の会議室へ向かうよう指示を受ける。


会議室の前で一呼吸置き、意を決してノックをし扉を開く。


「…失礼します」


「おお!見たことのある顔が来たかと思ったらエドリックじゃないか!」


「ハイン!俺の名前は()()()()()だ!」


そこには友人のフランツ・ハインリヒが仁王立ちしていた。


フランツ・ハインリヒ、眉目秀麗な男で俺の友人だ。


そして何より


「フハハハハ!僕がエドリックと言っているのだから今日から君の名前はエドリックだ!」


変人である。


「まさかハインがここにいるとは思っていなかったよ」


「それは僕もだ!何やらとんでもないことをやらされるようだぞ!とはいっても僕は気にしていないがな!」


「何か話を聞いたの?」


「それはだな…」


コンコンと扉がノックされる。


フランツの声が廊下にまで響いていたと思われるので苦情だろうか。


どうぞ、と言うとスキンヘッドの男が入ってきた。


40歳くらいだろうか、肌は日に焼け現場経験が豊富そうだ。


「失礼するよ。君たちがハインリヒ君とハルフォード君かな」


「その通りです。失礼ですが、どなたでしょうか?」


「すまない、挨拶が遅れた。俺は新技術調査室の室長、グラーフ・レインハルトという。君たちの直属の上司になる男だ。これからよろしくな」


「室長でしたか。私はエドモンド・ハルフォード、彼はフランツ・ハインリヒです。今後よろしくお願いします」


「室長よろしく!」


フランツは室長にもこの調子のようだ。


「この新技術調査室は何を行う部署なんですか?」


「実は新技術調査室は新たに作られた部署でな…。俺も聞かされていないんだ。それについてはこの後土木大臣が説明を行うと聞いている」


「大臣が説明されるのですか?!」


一つの部署の業務内容を大臣が説明するなんて異例中の異例だ。


さっきハインが言っていたとんでもないことという言葉が頭の中でグルグル回る。


「まあまあそんなに慌てるなエドガー君」


俺の左肩にポンと手が置かれる。


「だから俺の名前はエドモンドだって言ってるだろ…」


ハインの心配しているのかしていないのか分からないような言葉を聞いて考えていることがアホらしくなった。


しかもさっきまでと名前変わってるし…。


こいつはこういうやつなのだ。


ハインとの初めての出会いは学生時代に遡る。


父が土木技師をしていた影響で王立技師教育機関に入学した俺は、入学式の場でなぜかハインに目を付けられ、卒業までの間の多くの時間をハインともう一人の友人と一緒に過ごすこととなった。


ハイン伯爵家の生まれで貴族院に入学したはずなのだが、何を思ったのか貴族院をやめ王立技師教育機関に入学している。


そのため、貴族なうえに年齢が1つ上なのだが、敬語を使うと本人が怒るためフランクに接することとしている。


「二人とも仲がよろしくて大いに結構。この新技術調査室はこれで全員と聞いているから仲良くやっていこう」


そうして雑談をしているうちに大臣の面会時間となったようで衛兵が会議室に声をかけに来た。


「面会時間が近づいておりますので大臣室に移動しますがよろしいですか?」


会議室に荷物を置き、衛兵についていくと重厚な木でできた扉の前まで案内された。


案内役の衛兵の仕事はここまでのようだ。


「クラウゼン大臣、失礼いたします。新技術調査室室長グラーフ・レインハルト他2名をお連れいたしました」


そうして、大臣室の扉が開かれた。

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