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市民のための魔法工学  作者: 青山省吾


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20/20

19.混成チームの発足

装置の光が完全に安定し、部屋に静けさが戻った頃、廊下から足音が近づいてきた。

重みのある、落ち着いた歩調。

扉がゆっくり開き、レインハルトと、その後ろに立つノルディアが姿を現した。


「騒がしいと思ったら……やはり君たちか」


レインハルトの声は低く、しかし怒りというより呆れに近い。

ノルディアは眼鏡の位置を直しながら、部屋全体を一瞥する。


「魔力循環試験機の異常振動を検知したので来たのだが……すでに収束しているようだな」


セシリアがすぐに姿勢を正し、軽く頭を下げる。


「ノルディア室長、レインハルトさん。お騒がせしました。ハインリヒ君の……思いつきによる実験が暴走しかけたところを、皆で対応しました」


ハインが手を挙げて明るく言う。


「僕のアイデアがきっかけで、みんなの連携が見られたんだ!結果オーライ!」


ラフィが即座に肘でハインの脇腹を突く。


「結果オーライじゃないわよ!装置が壊れてたらどうするつもりだったの!」


レインハルトがため息をつきながら、装置の基部に近づく。

俺がさっき確認した微細な亀裂を指でなぞり、静かに頷いた。


「確かに、亀裂は入っているが……拡大はしていない。よく止めたな」


ノルディアがセシリアに視線を移す。


「ルミナリエ。詳細を聞かせてくれ」


セシリアがノートを広げ、簡潔に説明を始める。

ハインの思いつきで循環路が乱れ、俺が基部の異変に気づき、セシリアが即座に魔術回路を重ねて安定化させた――

流れを追うように、彼女は簡潔に説明していく。

言葉は淡々としているが、俺の名前が出るたびに、彼女の声がわずかに柔らかくなる気がした。

レインハルトが腕を組み、俺の方を見る。


「ハルフォード。君の指摘がなければ、装置はショートしていた可能性が高い。魔術装置の物理的限界を即座に見抜いたのは見事だ」


俺は少し照れながら頭を下げる。


「魔術の詳細は分かりませんが……構造物の振動と負荷のかかり方は、プレストの現場で何度も見てきたので。石材のひび割れは、放っておくと一気に広がりますから」


ノルディアがゆっくり頷く。


「まさにそれだ。我々魔法技術者は、魔力の流れに頼りがちだが……物理的な限界を忘れがちになる。君のような視点が、ちょうど必要だった」


レインハルトとノルディアが顔を見合わせ、短く頷き合う。

レインハルトが口を開く。


「そこで、正式に提案だ。今日の連携を見て、俺たちは結論を出した。プレスト王国新技術調査室とソロン魔法王国魔法技術研究院の混成研究チームを、即時発足させる」


部屋に小さなざわめきが広がる。

研究員たちが互いに顔を見合わせ、感嘆の息を漏らす。


「チーム名は……仮に『魔土融合班』とする。

メンバーは――」


ノルディアが指を折りながら数える。


「責任者は私、アルバート・ノルディアとグラーフ・レインハルトの共同。中心メンバーを魔術理論・都市計画担当でセシリア・ルミナリエ、魔術解析・安全管理担当でラファエラ・アルディオン、発想力・実験担当でフランツ・ハインリヒ……問題児だが、今日の暴走も含めて、意外な突破口を生む可能性があると判断した。そして、構造評価・耐久設計・物理的安全性の最終判断担当としてエドモンド・ハルフォード」


俺の名前が呼ばれた瞬間、胸の奥が熱くなった。

――構造評価、耐久設計、物理的安全性の最終判断。

これまで「客人」として、土木技師として、ただ「見学」しているだけだと思っていた。

なのに、今、正式に役割を与えられた。


「……ありがとうございます」


声が少し震えた。

胸の奥で、何かが静かに収まるのを感じた。

セシリアが、俺の方をちらりと見て、すぐに視線を戻す。

その横顔に、ほんのわずかな喜びが浮かんでいるのが分かった。

同じチーム。

同じ目的に向かって進む仲間。

彼女の心の中で、何かが静かに弾けたようだった。

ラフィは腕を組み、俺たち二人を交互に見る。

表情は冷静だが、目が少し細まっている。

――まだ何も言わないが、彼女は気づいている。

俺とセシリアの距離が、ただの同僚を超え始めていることを。

ハインは深く考えず、拳を握って叫ぶ。


「やったー!正式チームだ!これで毎日一緒に実験できるな!エドモンドとセシリアの夫婦漫才みたいな連携も見放題だし!」


「夫婦漫才って何よ!」


ラフィのツッコミが飛ぶ。

部屋に小さな笑いが広がる。

レインハルトが咳払いをして、場を締める。


「冗談はそこまでだ。明日から、本格的に都市規模を想定した試験に入る。魔術回路と土木構造の融合――これが成功すれば、両国の未来が変わる可能性がある」


ノルディアが微笑みながら続ける。


「期待しているぞ、混成班の皆」


俺はセシリアの横に立ち、改めて部屋を見回した。

研究員たちの視線が、温かく、期待に満ちている。

ハインの無邪気な笑顔、ラフィの呆れ顔、セシリアの静かな決意の横顔。

俺はもう、この場所に「いるべき人間」として認められた気がした。

明日から、都市規模の試験。

魔法と土木が、本気で交わる瞬間が来る。

セシリアが、俺の袖をそっと引く。

小さな声で、しかしはっきりと。


「……一緒に、がんばりましょうね」


俺は頷き、微笑んだ。


「ああ。よろしく、セシリア」


四人の視線が交わり、部屋の魔術灯が、まるで祝福するように少し明るく輝いた。

この瞬間、俺たちの物語は、新しい段階へ踏み出した。

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