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市民のための魔法工学  作者: 青山省吾


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18/20

17.共同研究の始まり

研究施設のホールから奥へ進むと、セシリアが担当する「都市魔術計画室」へと続く廊下に入った。

壁面には細かな魔術回路が網の目のように張り巡らされ、淡い青白い光がゆっくりと流れている。

空気が少しひんやりとして、魔力の密度が高いせいか、肌に微かなピリピリとした感覚が走る。

俺は無意識に胸元のペンダントを触った――翻訳魔術がまだ働いている証拠だ。


「ここが私の主な作業場です。今日は、エドモンドさんに『魔術回路の構造耐久試験』を見てもらおうと思って」


セシリアが扉を開けると、中は予想以上に広かった。

中央に大きな作業台があり、周囲に複数の魔術装置が並んでいる。

壁には巨大な図面が投影されており、都市全体の魔術回路網が立体的に浮かび上がっていた。

部屋の隅には、試験用の小型石柱がいくつか立てられ、すでに何人かの研究員が作業中だ。


「ルミナリエさん、おはようございます」


若い研究員が頭を下げ、俺の方に視線を移す。

「こちらがプレスト王国の……」


「エドモンド・ハルフォードです。よろしくお願いします」


俺が軽く頭を下げると、研究員たちは興味深げに頷いた。

セシリアは自然に俺の隣に立ち、説明を始める。


「今日は、魔術回路を石材に刻んだ場合の耐久性をテストします。我々の国では魔力を流すことで補強しているんです。でも、魔力の流れが不安定になると、回路が破損して構造体自体が崩れるリスクがある……」


彼女の声が少し早くなる。

専門分野に入ると、昨日の朝の寝起きの柔らかさとは打って変わって、研究者らしい凛とした表情になる。


作業台の上に置かれた試験石柱――長さ1メートルほどの円柱――に、セシリアが指を這わせる。

指先から淡い光が流れ込み、柱の表面に細かな回路が浮かび上がった。


「これが基本回路です。魔力を循環させて、外部からの衝撃を分散させる仕組み。今から、模擬荷重をかけてみますね」


彼女が装置のレバーを引くと、石柱にゆっくりと重りが乗せられていく。

同時に、回路の光が強くなり、脈打つように輝き始めた。


俺は土木技師の視点で観察する。

「この回路の間隔……均一すぎませんか?荷重が集中した場合、一点に魔力が偏る可能性がある」


セシリアがぴたりと動きを止める。


「……確かに。均一だと、応力集中が起きやすいかも」


彼女はすぐにノートを取り出し、ペンを走らせる。


「俺たちの設計では、材料の特性を最大限に活かすために、断面形状を変えたり、補強材を配置したりします。魔術回路も、同じように『偏り』を意図的に作った方が、全体の耐久性が上がるんじゃないかと」


セシリアの目が輝く。


「それ、面白い!回路の密度を場所によって変える……例えば、荷重点付近は密に、周辺は疎にすれば、魔力の流れが自然に分散するかも!」


彼女は興奮気味に装置を操作し、回路の一部を消去して、再び刻み直し始めた。

指先が素早く動き、空中に光の線を描く。

俺は隣で、彼女の動きをじっと見つめる。

セシリアの横顔――集中しているときの、少し唇を噛む癖や、睫毛が微かに震える様子が、妙に鮮やかだ。


周囲の研究員たちが、俺たちを遠巻きに見ている。

一人が小さな声で呟く。


「ルミナリエさん、こんなに熱心に話すの珍しいな……」


「しかも、あのプレストの技師さんと、息ぴったりじゃない?」


セシリアは気づいていない様子で、試験を再開する。

重りが再び乗せられ、今度は回路の光がより滑らかに流れ始めた。


「……! 振動が、明らかに減ってる!」


セシリアが声を上げる。

俺も頷く。


「魔力の偏りが、逆に分散を助けてる。俺たちの補強材配置と同じ原理です」


彼女が振り返り、俺をまっすぐに見つめる。

瞳が、興奮と喜びで輝いている。


「エドモンドさん……これ、すごい発見ですよ。土木の視点を取り入れるだけで、こんなに変わるなんて……」


「セシリアさんの魔術知識があってこそです。俺一人じゃ、回路の刻み方なんて想像もつかない」


二人の視線が交錯する。

部屋の魔術灯が、ちょうどその瞬間、少し明るく脈打った。

まるで、二人の興奮に呼応するように。


セシリアが、ふっと息を吐いて微笑む。


「……一緒にいると、研究がすごく進む気がします」


「俺もです。セシリアさんと話していると、新しい視点が次々に出てくる」


彼女の頰が、ほんのり赤くなる。

研究室の空気が、少しだけ甘く変わった気がした。


周囲の研究員たちが、微笑ましげに頷き合う。


「この二人、ほんとに相性いいな……」


そんな声が聞こえても、セシリアは気づかず、俺の袖を軽く引いた。


「次は、もっと大きな試験体で試してみましょう!エドモンドさん、一緒に設計してくれますか?」


「もちろんです」


俺は自然に頷き、彼女の隣に並ぶ。

肩が触れそうで触れない距離が、今日も心地いい。


共同研究の初日。

魔法と土木が交差する瞬間が、静かに、でも確実に始まっていた。

セシリアの隣で、俺は思う。


――この先、何が起きるのか。

楽しみで、仕方がない。

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