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市民のための魔法工学  作者: 青山省吾


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17/20

16.研究施設への初日

朝食を終え、身支度を整えた俺たちは、王城南の居住区から研究施設へ向かった。

セシリアが案内役で、俺は客人兼技術者として並んで歩く。

マリンの街路は朝の活気に満ち、商人たちの店開きや、魔法によって空気から水を集める光景が目に入る。

セシリアの歩調に合わせ、俺は周囲の建物を見回した。

壁に刻まれた魔術回路が、朝陽を受けて淡く輝いている。


「研究施設は、王城の東側にあります。魔法技術研究院の本部で、私の普段の職場ですよ」


セシリアの声は少し弾んでいる。

専門分野の話になると、彼女は自然と早口になる。

長い金髪を風に揺らしながら、饒舌に説明を続ける。


「ここは、ソロン魔法王国の魔法技術の中心地です。魔術回路の設計から、都市規模の魔法計画まで、すべてを扱ってます。例えば、あの街灯――見ての通り、魔術回路で光を制御してるんですけど、実は空気の魔力密度を感知して自動調整してるんです。朝は柔らかく、夜は強く……」


彼女の言葉が速くなり、俺は思わず笑みを浮かべた。


「セシリアさん、早口になってますよ」


「……あっ、ごめんなさい!つい、熱が入っちゃって」


彼女が頰を赤らめ、ペースを落とす。

周囲の研究者らしき人々が、俺たちをちらりと見て通り過ぎる。

一組の若い研究員が、俺たちを「自然に並んでいる同居人」みたいに微笑みながら囁き合っているのが見えた。


「この二人、昨日から同居だって聞いたけど……もう馴染んでるね」


「ルミナリエさん、珍しく楽しそう」


そんな声が、微かに耳に届く。

セシリアは気づかないふりをして、俺を促す。


「さあ、入りましょう」


研究施設は、王城に劣らない威容だった。

外壁に複雑な魔術回路が張り巡らされ、内部は広大なホール。

天井が高く、アーチ状の支柱に光の筋が走っている。

俺は土木の視点から、構造を観察した。

支柱の勾配、壁の厚さ――魔法で補強されているはずだが、基本は石材だ。


「このホール、魔術回路が構造体そのものに組み込まれてるんですね。荷重分散はどうしてるんですか?」


俺の質問に、セシリアの目が輝く。


「鋭い質問!実は、回路が魔力を流すことで、振動を吸収してるんです。地震や風荷重を、魔力波で分散させる仕組みで……」


彼女がまた早口になり、図面を広げて説明を始める。

周囲の研究者たちが、俺たちを囲むように集まってくる。

セシリアの饒舌さが、皆を巻き込む。


「プレスト王国の土木技術だと、地盤を固めて支えるんですけど……ここでは魔力がそれを代行してるんですね」


「そうなんです!でも、魔力の消耗が課題で……」


そこで、軽いすれ違いが生じた。


「魔力依存だと、個人差が出るんじゃないですか?俺たちの技術は、誰でも再現可能にするのが基本で……」


セシリアが一瞬、言葉を詰まらせる。


「……確かに。魔法は遺伝要素が強いから、平等じゃないかも。でも、それが私たちの文化で……」


気まずい空気が流れる。

だが、セシリアがすぐに笑顔を戻す。


「だからこそ、エドモンドさんの視点が必要なんです。土木と魔法を組み合わせたら、もっと安定するかも」


俺も頷く。


「そうだな。魔力を“補助”として使うなら、構造の耐久性が上がる」


そんなことを話していると、周囲の研究者たちが感心したように頷く。


「この二人、相性いいな……」


そんな声が聞こえ、セシリアの頰が少し赤くなる。

俺も、胸の奥が温かくなった。

恋愛めいたものは控えめだが、互いの信頼が、距離を自然に近づけている。

研究施設の初日は、そんな風に始まった。

技術の違いを認め合い、融合の可能性を探る一日。

セシリアの隣で、俺は改めて思う。


――この国、この人との出会いが、俺を変えていくのだろう。

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