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市民のための魔法工学  作者: 青山省吾


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12/20

11.初めての買い物

少しだけ休憩したあと、俺たちは部屋を出て街へ向かった。

部屋を出るとき、セシリアはまたドアに向かって何かを呟く。

そうして階段を降りたところで、ふと気が付いた。


「部屋に鍵はしなくていいんですか?」


「鍵なら、かけましたけど……」


いつの間にか鍵をかけていたようだ。

まったく気が付かなかった。


「あっ……私たちの国では、鍵の魔法があるので、それを使っているんです」


鍵まで魔法なのか……。


「そうなんですね。ん……ということは、もしかして俺はセシリアさんと一緒じゃないと、部屋に出入りできないのでは?」


「そう……なりますね。しばらくは私と一緒に行動することが多いと思いますが……慣れてきたら困りますよね。少し考えてみます」


そう言って、セシリアは顎に手を当てながら考え始めた。


「まあ、時間もありますし……とりあえず買い物に行きましょうか」


王城の周囲に広がる市街地は、昼下がりということもあって人通りが多い。

商人の呼び声、行き交う人々の笑い声、どこかで鳴る金属音。

活気に満ちた光景に、異国に来たのだと改めて実感する。


「まずは何を買いましょうか?」


歩きながら、セシリアが問いかけてくる。


「寝具と、洗面用具ですね。それと……食器類も足りなさそうです」


「そうですね。……あ、あと」


セシリアは少し言い淀み、視線を泳がせた。


「その……エドモンドさんの、部屋着とかも……」


「あ」


確かに、持ってきたのは仕事用の服と最低限の着替えだけだ。


「助かります。そこまで考えていませんでした」


「い、いえ! 当然のことですから!」


そう言ってから、セシリアは小さく咳払いをした。


最初に入ったのは、布製品を扱う店だった。

店内には色とりどりの布や衣類が並び、柔らかな香りが漂っている。


「いらっしゃいませー」


店主の女性が、俺たちを見るなりににこりと笑った。


「新婚さん?」


一瞬、頭が真っ白になる。


「――っ!?」


「ち、違います!」


セシリアが慌てて声を上げる。


「え、あ、違うの?」


店主は少し驚いた顔をする。


「その……とある事情で、同じ部屋に住むことになっただけで……」


セシリアがしどろもどろに説明する。


「へえ、そうなのねぇ。でも並んで歩いてるとお似合いよ?」


「そ、そんな……!」


セシリアの耳が、見る見るうちに赤くなっていく。


「……とりあえず、寝具を選びましょう」


俺が話題を切り替えると、彼女はほっとしたように頷いた。


寝具売り場で、セシリアは真剣な顔で布の質を確かめている。


「これは肌触りがいいですけど、少し魔力の通りが悪いですね……」


「寝具にも魔力の通りが関係するんですか?」


「はい。睡眠中の魔力回復効率が変わるんです」


なるほど、合理的だ。


「でも、俺は魔力を持っていないですよ」


「魔力を持っていないかどうかは、まだ調べていないのでわかりません。持っている場合を考えると、なるべく良いものにしておきたいです。エドモンドさんは、硬いのと柔らかいの、どちらがいいですか?」


「どちらかというと、硬めのほうが……」


「じゃあ、これですね」


即答だった。


「……慣れてますね」


「研究室では仮眠が多いので」


「なるほど……」


妙に納得したように頷く。


「そういえば俺、この国のお金を持っていないんですけど……」


「そのことなら、エドモンドさんが馬車に荷物を取りに行っている間に、室長から多少のお金を預かっているので大丈夫です」


「じゃあ、お会計しましょうか。えっと、店員さんは……」


「エドモンドさんが喋っても、店員さんは言葉を理解できませんよ。私が代わりに会計してきます」


「お手数をおかけします……」


その後も、洗面用具、簡単な食器、日用品と買い物は続いた。

気がつけば、荷物はそこそこ増えている。


「重くないですか?」


「大丈夫です。……あ」


そう言った瞬間、袋の持ち手が指に食い込んだ。


「ちょ、ちょっと持ちます!」


セシリアが慌てて袋に手を伸ばす。

その拍子に、指先が軽く触れ合った。


「……っ」


一瞬、二人とも動きを止める。


「す、すみません!」


「い、いえ!」


同時に視線を逸らした。


少し気まずい沈黙が流れる。


「……あの」


先に口を開いたのは、セシリアだった。


「街、どうですか?」


「活気がありますね。人の生活と技術が、ちゃんと結びついている感じがします」


「それは……嬉しいです」


彼女は少し誇らしげに微笑んだ。

その横顔を見て、俺は思った。


――この人となら、確かに、いい研究ができそうだ。


そして同時に。


――この同居生活、思った以上に気が抜けないな。


そう感じ始めている自分に、少しだけ苦笑するのだった。

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