エレンのきらきら
ロンドンの小さな家に、エレンという女の子が住んでいました。
エレンは4歳。
父親譲りの青い瞳と、母親譲りの不思議な髪をしていました。
真夜中のしじまをそのまま切り取ったような黒い髪。そこへ、熟したワインのしずくがポタポタとこぼれ落ち、黒の奥へと溶け込んでしまったかのような、不思議な赤紫が混じっていました。長い髪が動くたび、その色がゆらゆらと揺れるのです。
エレンは、金髪の父親と二人で暮らしていました。
ある冬の朝、エレンは小さな木箱を見つけました。父親の部屋の本棚の奥にあった、古い箱です。
中には、銀色のネックレスが入っていました。小さなペンダントが、朝日を受けてきらきら光っています。
「パパ、これ、なあに?」
父親は、少し寂しそうに、でも優しく笑いました。
「それはね、エレン。君のママのネックレスだよ」
エレンは初めて、母親の持ち物を手にしました。
「わあ、きれい……」
「ママはね、いつもそれをつけていたんだ。君が生まれたとき、とても喜んでいたよ」
父親はエレンを抱き上げて、窓の外を見せました。
「ママは、君に会えてとても幸せだったんだ」
エレンはネックレスをぎゅっと握りしめました。
「わたし、これ、つけていい?」
「ああ、でもまだ少し早いかな。大きくなったら、エレンにあげるよ」
父親はそう言って、ネックレスを優しくエレンの手から受け取り、箱にしまいました。
「それまで、エレン。自分だけのきらきらを探してみないかい?」
それから、エレンはきらきらを探しはじめました。
庭に出ると、霜が降りた葉っぱがきらきら光っていました。でも手に取ると、すぐに溶けてしまいます。
テムズ川のほとりでは、川面がきらきら輝いていました。でも水はすくえません。
公園では、濡れた石がきらきら光っていました。でも乾くと、ただの灰色になってしまいました。
エレンはがっかりして、家に帰りました。
窓辺に座っていると、一羽のロビン(こまどり)が飛んできました。
「エレン、どうしたの?」
エレンは、きらきらを探していたけれど見つからなかったことを話しました。
「ママのネックレスみたいな、きれいなきらきらがほしいの」
ロビンは小首をかしげました。
「エレン、鏡を見てごらん」
エレンは鏡を見ました。
そこには、青い瞳をきらきらと輝かせているエレンの姿がありました。そして、冬の光を受けて、麗しい髪が不思議な光を放っていました。
「わあ……」
「きみの目は、パパの目と同じ青できらきら輝いている。きみの髪は、ママの髪と同じ色で、とても美しい。」
ロビンは続けました。
「きみはね、パパとママ、両方からもらった大切なきらきらを、もう持っているんだよ」
エレンは、初めて気がつきました。
自分の中に、父親と母親がいること。二人の愛が、自分という形になっていること。
「それに」
ロビンは窓の外を指さしました。
父親が庭で雪かきをしていました。エレンを見つけて、手を振ってくれました。
「パパがきみを見るとき、パパの目もきらきら輝くんだ。それは、きみがここにいてくれることが、パパにとって一番のきらきらだから」
エレンは窓を開けて、外にいる父親に手を振り返しました。
「パパー!」
「エレン! 寒いから窓を閉めて。今、温かいココアを作るからね!」
父親の声が、冬の空気に響きました。
エレンは気づきました。
ネックレスのきらきらも素敵だけれど、もっと大切なきらきらがあること。
父親と過ごす毎日。「おはよう」と「おやすみ」を言い合えること。一緒にご飯を食べること。父親が自分を愛してくれていること。
それが、何よりもきらきら輝いているということ。
その日の午後、エレンは父親と一緒にココアを飲みました。
「パパ、わたし、きらきら見つけたよ」
「おや、どこに?」
「ここ」
エレンは自分の胸に手を当て、それから父親の胸に手を伸ばしました。
「パパの中にも、わたしの中にも、ママの中にも。みんなつながってるの」
父親は目を細めて、エレンを優しく抱きしめました。
「そうだね、エレン。君はとても賢いね」
窓の外では雪が降り始めていました。ロンドンの街が、白い雪できらきらと輝いていきます。
でも一番きらきらしていたのは、父親に抱かれて笑っている、不思議な色の髪を持つ小さな女の子の笑顔でした。
その笑顔の中には、見たことのない母親の面影と、父親の愛情と、そして未来への希望が、すべて輝いていたのです。




