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エレンのきらきら

掲載日:2025/12/21

 ロンドンの小さな家に、エレンという女の子が住んでいました。

 エレンは4歳。

 父親譲りの青い瞳と、母親譲りの不思議な髪をしていました。

 真夜中のしじまをそのまま切り取ったような黒い髪。そこへ、熟したワインのしずくがポタポタとこぼれ落ち、黒の奥へと溶け込んでしまったかのような、不思議な赤紫が混じっていました。長い髪が動くたび、その色がゆらゆらと揺れるのです。

  エレンは、金髪の父親と二人で暮らしていました。

 ある冬の朝、エレンは小さな木箱を見つけました。父親の部屋の本棚の奥にあった、古い箱です。

 中には、銀色のネックレスが入っていました。小さなペンダントが、朝日を受けてきらきら光っています。

「パパ、これ、なあに?」

 父親は、少し寂しそうに、でも優しく笑いました。

「それはね、エレン。君のママのネックレスだよ」

 エレンは初めて、母親の持ち物を手にしました。

「わあ、きれい……」

「ママはね、いつもそれをつけていたんだ。君が生まれたとき、とても喜んでいたよ」

 父親はエレンを抱き上げて、窓の外を見せました。

「ママは、君に会えてとても幸せだったんだ」

 エレンはネックレスをぎゅっと握りしめました。

「わたし、これ、つけていい?」

「ああ、でもまだ少し早いかな。大きくなったら、エレンにあげるよ」

 父親はそう言って、ネックレスを優しくエレンの手から受け取り、箱にしまいました。

「それまで、エレン。自分だけのきらきらを探してみないかい?」

 それから、エレンはきらきらを探しはじめました。

 庭に出ると、霜が降りた葉っぱがきらきら光っていました。でも手に取ると、すぐに溶けてしまいます。

 テムズ川のほとりでは、川面がきらきら輝いていました。でも水はすくえません。

 公園では、濡れた石がきらきら光っていました。でも乾くと、ただの灰色になってしまいました。

 エレンはがっかりして、家に帰りました。

 窓辺に座っていると、一羽のロビン(こまどり)が飛んできました。

「エレン、どうしたの?」

 エレンは、きらきらを探していたけれど見つからなかったことを話しました。

「ママのネックレスみたいな、きれいなきらきらがほしいの」

 ロビンは小首をかしげました。

「エレン、鏡を見てごらん」

 エレンは鏡を見ました。

 そこには、青い瞳をきらきらと輝かせているエレンの姿がありました。そして、冬の光を受けて、麗しい髪が不思議な光を放っていました。

「わあ……」

「きみの目は、パパの目と同じ青できらきら輝いている。きみの髪は、ママの髪と同じ色で、とても美しい。」

 ロビンは続けました。

「きみはね、パパとママ、両方からもらった大切なきらきらを、もう持っているんだよ」

 エレンは、初めて気がつきました。

 自分の中に、父親と母親がいること。二人の愛が、自分という形になっていること。

「それに」

 ロビンは窓の外を指さしました。

 父親が庭で雪かきをしていました。エレンを見つけて、手を振ってくれました。

「パパがきみを見るとき、パパの目もきらきら輝くんだ。それは、きみがここにいてくれることが、パパにとって一番のきらきらだから」

 エレンは窓を開けて、外にいる父親に手を振り返しました。

「パパー!」

「エレン! 寒いから窓を閉めて。今、温かいココアを作るからね!」

 父親の声が、冬の空気に響きました。

 エレンは気づきました。

 ネックレスのきらきらも素敵だけれど、もっと大切なきらきらがあること。

 父親と過ごす毎日。「おはよう」と「おやすみ」を言い合えること。一緒にご飯を食べること。父親が自分を愛してくれていること。

 それが、何よりもきらきら輝いているということ。

 その日の午後、エレンは父親と一緒にココアを飲みました。

「パパ、わたし、きらきら見つけたよ」

「おや、どこに?」

「ここ」

 エレンは自分の胸に手を当て、それから父親の胸に手を伸ばしました。

「パパの中にも、わたしの中にも、ママの中にも。みんなつながってるの」

 父親は目を細めて、エレンを優しく抱きしめました。

「そうだね、エレン。君はとても賢いね」

 窓の外では雪が降り始めていました。ロンドンの街が、白い雪できらきらと輝いていきます。

 でも一番きらきらしていたのは、父親に抱かれて笑っている、不思議な色の髪を持つ小さな女の子の笑顔でした。

 その笑顔の中には、見たことのない母親の面影と、父親の愛情と、そして未来への希望が、すべて輝いていたのです。

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