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【断罪】アウトローな方々

「ひ、ヒィッ! たす――」


 タカギの悲鳴は、誰の耳にも届かなかった。


 ショウの義手が首筋に触れたと同時にスパークし、わずか数秒で意識を刈り取ったからだ。

 二人は弛緩した肉塊を担ぎ出し、盗難バイクの荷台へ乱雑に括り付けた。


 電動モーターの駆動音だけを残し、バイクは深夜のサウス区を疾走する。


 辿り着いたのは、ブロック23の外れにある産業廃棄物の投棄場。

 かつて工場地帯だったその場所は、今や錆と瓦礫、そして汚染物質の墓場と化している。


 バイクが止まり、タカギはゴミ袋のように地面へ放り出された。

 冷たい泥と鉄錆の味で、意識が強制的に浮上する。


「ふべ……ッ!?」


 タカギは飛び起きた。

 だが、体は動かない。すでに背後のH鋼に、工業用結束バンドでガチガチに固定されている。


 目の前には暗闇。そして、月明かりを背負って立つ二つの影――。


「お目覚めか。随分と深い眠りだったな」


 ショウが義手でジッポライターを弄びながら、冷笑を浮かべていた。

 カキン、カキン。金属音が、タカギの鼓動と不快にシンクロする。


「ここ、どこだ……お、お前ら、何をする気だよ!」

「質問していい立場かよ?」


 ショウが顎をしゃくると、カーバンクルが無言で一歩進み出た。


 彼女の手には赤いポリタンク。

 蓋が開けられ、鼻を突く揮発性の刺激臭が周囲に充満する。


「ひっ……!」


 ガソリンだ。

 「あの映像」が頭をよぎり、タカギの顔面から血の気が失せる。


 カーバンクルは表情一つ変えず、タカギの足元へ液体をぶちまけた。

 ズボンの裾が濡れ、冷たさが肌に染み込んでいく。


「や、やめろ……! 冗談だろ……!? お、俺は誰も殺してないッ!」

「冗談?」


 カーバンクルが小首を傾げる。


「あなたが配信を見たなら知ってるはず。私は冗談を言わない」


 その声の温度の低さに、タカギは悟った。

 こいつらは本気だ。


 あの配信でヴァイス市長を焼き殺した、正真正銘の怪物。

 それが今、自分にその牙を向けているのだ。


「た、たた、助けてくれ……! 頼む、金ならやる! 全部やるから!」

「金ぇ? ハッ、誰の金だよ」


 ショウが吹き出し、義手で空中にホロウィンドウを展開した。

 そこには、タカギの「商品」だった被害者たちのメッセージが羅列されている。


『妻が自殺しました』

『娘の手術費を騙し取られました』

『これが最後の希望なんです』


「それにお前が踏みにじったのは金じゃない。こいつらの『魂』だ」


 ショウは指先でウィンドウを弾いた。

 被害者たちの悲痛な叫びが、タカギの顔の周りをぐるぐると回転する。


「お前は誰も殺してないと言ったな。だが、お前に騙されて首を吊った人間がいるとは思わなかったか?」


 ショウはライターに着火した。

 小さな炎が揺らめく。タカギの瞳孔が限界まで開き、焦点が炎に釘付けになる。


「い、いやだ……死にたくない……嫌だぁぁぁ!!」


 タカギは絶叫し、激しく身をよじった。

 その拍子に、股間から生温かい液体が溢れ出し、ガソリンと混じって地面に広がる。

 失禁。あまりの恐怖に、括約筋が機能を放棄したのだ。


「ったく、汚ねえな」


 ショウは呆れたように火を消した。


 カーバンクルが静かに近づいてくる。赤い瞳が、タカギの怯えきった顔を覗き込んだ。


「ねえ」

「ひいっ! ごめんなさい! ごめんなさいぃぃ!」


 タカギは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして懇願した。


「……たしかに、あなたは人を直接殺してはいない。だから、私も殺さない」


 その言葉に、タカギは微かに顔を上げた。

 助かるのか?


「でも……条件がある」

「な、なんでもします! 靴でも舐めます! だから命だけは!」


 カーバンクルはショウを見た。ショウがニヤリと笑い、端末を取り出す。


「まず、金だ。全額返金なんて生ぬるいことはしねえ」


 ショウの指が高速で動く。


「被害者への返金はもちろん、慰謝料、精神的苦痛への賠償……お前の口座にある523万クレジット、全部没収だ」

「あ……あ……」

「足りない分は、お前の戸籍を担保に闇金から借りておいた。おめでとう、これで借金2000万の多重債務者だぜ」


「……はっ?」


 タカギは口をパクパクさせた。借金? 2000万?


「それだけじゃねえぞ」


 ショウは楽しげに続ける。


「お前の個人情報、住所、顔写真、過去の悪事の証拠……これらを全部、『タカギ・ユウジ被害者の会』って掲示板を作って公開しておいた。今頃、ネット中がお前の話題で持ちきりだぜ。『こいつが詐欺師です』ってな」


 デジタルタトゥー。

 このネット社会において、それは死刑宣告に等しい。

 タカギは今後どこへ逃げても、誰と会っても、指をさされ石を投げられることになる。


「そ、そんな……」

「あと、もうひとつ……」


 カーバンクルが冷たく告げた。

 彼女は懐から何かを取り出し、タカギの首筋に押し当てた。

 チクリとした痛み。


「イギッ!? な、何を……!?」

「GPS発信機付きのナノマシン。これで、あなたがどこにいても分かる」


 嘘か本当か、タカギには判断できない。だが、首筋に残る違和感は本物だった。


「もし次、誰かを騙したら。……その時は、本当に燃やすから」


 カーバンクルはライターをタカギの足元に放り投げた。

 カチャン、と乾いた音が響く。

 火はついていない。だがガソリン塗れのタカギにとって、それは時限爆弾に見えた。


「う、うあぁぁ……」


 タカギの心が、音を立てて折れた。


「おらよ。とっとと行け、クソ野郎。同業者に会ったら伝えとけよ」


 ショウが結束バンドを切断する。

 タカギはその場に崩れ落ち、泥水を啜りながら嗚咽を漏らした。


「404号室に、くだらねぇチャチャ入れたら……こういう目に合うってな」


 金も、信用も、未来も、すべて失った。残ったのは膨大な借金と消えない恐怖だけ。


「行こう、ショウ」

「おう。じゃあな、元・詐欺師さん。せいぜい地獄の底で長生きしろよ」


 二人は背を向け、バイクに跨る。

 エンジン音と共に遠ざかっていくテールランプ。


「はぁ……はぁ……ヒィッ……」


 タカギは動けなかった。ガソリンと小便の混じった水たまりの中で、ただ震え続けるしかなかった。


 社会的に抹殺され、一生監視される恐怖。

 それは、死ぬよりも惨めな「生」の始まりだった。

アウトレイジかな?

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