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【断罪】車内高速戦闘

 グレイソンの表情が一変した。


 自罰的な後悔の色が消え、純粋な戦士の殺気へと昇華される。


「……すまないが、ここで消えてもらう」


 義手側の腰からサブウェポンを抜く動作は、思考よりも速かった。


 発砲音。

 だが、カーバンクルの影は既にそこにはない。


「ッ!?」


 マズルフラッシュが闇を照らした瞬間、彼女は横へ跳躍していた。

 弾道予測などではない。銃口の向きと射手の筋肉の収縮から未来を先読みする、超感覚的回避。


「チッ!」


 タン、タン、タン!


 3連射。カーバンクルは着地と同時に地面を蹴り、ジグザグに距離を詰める。

 弾丸がパーカーのフードをかすめるが、布地一枚を焦がすのみ。


(速い……! 弾丸が当たらないだと!?)


 グレイソンは撃ちながら後退する。

 それは正確無比な射撃だったが、標的が小さく、速すぎた。


 距離がゼロになる。

 カーバンクルが跳び込み、掌底を喉元へ突き出す。


「ぬぅっ……!」


 グレイソンは義手でガードした。金属と生身がぶつかる鈍い音。


 重さは子供だ。


 グレイソンはそのまま彼女の腕を掴み、遠心力で投げ飛ばそうとする。

 しかしカーバンクルは空中で体を丸め、グレイソンの義手の関節を支点にして回転。

 逆に彼の手首を蹴り上げ、拘束を解いて後方へ宙返りした。


「ぐっ……!」


 着地。距離は5メートル。


「……速いな」


 グレイソンは弾切れの銃を捨て、義手から高周波ブレードを展開した。

 左手には、転がっていた敵から奪った電撃警棒。二刀流だ。


「だが、パワーが足りない!」


 彼は地面を抉るように踏み込んだ。

 傭兵の突撃。カーバンクルに向かって一直線に走り、ブレードを横薙ぎに振るう。


 リーチの差が圧倒的だ。

 カーバンクルは上体を限界まで反らし、鼻先数センチで刃を躱す。風圧が前髪を切断する。


「せやぁ!!」


 追撃の警棒が頭上から振り下ろされる。

 彼女はそのまま後転し、背後にあった装甲バンのボンネットへ飛び乗った。

 警棒がアスファルトを叩き、青白いスパークが爆ぜる。


「まだだっ!」


 グレイソンは止まらない。バンの側面を蹴り、屋根の上へ跳躍。上空からの強襲。

 カーバンクルは屋根の上で転がり、反対側へ滑り落ちる。

 直後、グレイソンの踵落としがバンの屋根をへこませた。


「くっ! どこに……!」


 彼女はバンの車体の下に潜り込んでいた。

 視界から消えた標的を探し、グレイソンが舌打ちする。


 反対側に回り込もうとした瞬間、頭上から気配。


 上だ。


「!?」


 一度地面を蹴って再び屋根に登っていたカーバンクルが、真上から降ってくる。

 両足の踵がグレイソンの鎖骨を狙う。


(なんて身軽さだ……だが!)


 グレイソンは咄嗟に警棒を掲げてガードした。

 カーバンクルは空中で体を捻り、警棒の側面を蹴って軌道を修正。


 着地と同時に低いタックルでグレイソンの膝裏を刈り取る。


「ぐうっ……!?」


 グレイソンの体勢が崩れる。

 だが倒れない。義手のパワーで無理やり体勢を立て直し、バックステップで距離を取った。


「はぁ、はぁ……! ちっ、ちょこまかと……!」

「…………」


 息が白い霧となって夜気に溶ける。

 対するカーバンクルは呼吸一つ乱していない。

 赤い瞳がただ静かに、次の急所を探している。


(……真正面からは分が悪いか)


 グレイソンは即座に戦術を切り替えた。

 足元に転がる気絶した敵。その肩に装着された小型ミサイルランチャーをもぎ取る。

 安全装置を解除し、カーバンクルではなく、彼女の頭上の古い街灯へ向けた。


「喰らえ!」


 発射。

 爆音と共に街灯が粉砕され、ガラス片とコンクリート塊が雨のように降り注ぐ。


 砂煙が視界を奪う中、グレイソンは義眼の暗視モードを起動。

 煙幕に紛れて背後に回り込み、別の敵が落とした火炎放射器を拾い上げる。


(これでどうだ……!?)


 トリガーを引く。

 紅蓮の炎が、煙を焼き払いながら噴射された。


 ――だが、そこには誰もいない。


「なに!?」


 センサーが反応する。左側面。倉庫の壁。

 カーバンクルが垂直の壁を駆け下りてきていた。重力を無視したような立体機動。

 彼女は壁を蹴り、弾丸のように飛来する。


「ぬうぅっ!!」


 グレイソンは火炎放射器を盾にした。

 カーバンクルの膝蹴りが燃料タンクを直撃する。亀裂が走り、揮発性の液体が噴き出す。


 グレイソンは放射器を投げ捨て、バックステップしながらブレードでアスファルトを擦った。

 火花が、散る。


 ドォン!


 引火した燃料が爆発的に燃え上がり、二人の間に炎の壁が出現する。


 グレイソンは炎越しにカーバンクルの影を確認しつつ、横転していた黒い装甲バンへと走った。

 運転席のドアをこじ開け、車を起こす。エンジンは生きている。


「……悪いが、道具は選んでいられない!」


 アクセルをベタ踏みする。

 タイヤが悲鳴を上げ、巨体が急発進した。

 炎の壁を突き破り、バンがカーバンクルへ突進する。


「おおおおおおおお!!」


 轢き殺そうと迫る車。

 カーバンクルは跳躍した。しかし回避ではない。

 砕け散った助手席の窓枠を掴み、魚のように車内へ滑り込んだのだ。


「な……内部に!? ちぃっ……!」


 グレイソンは片手でハンドルを操作しながら、義手のブレードを助手席へ突き出した。


 だが長いブレードは狭所では不利だ。天井につかえて軌道が逸れる。


 カーバンクルはその隙を見逃さない。

 小柄な体躯を活かし、助手席のシート下へ潜り込むと、下からグレイソンの脇腹へ蹴りを放った。


「ぐっ……!」


 肋骨に響く鋭い痛み。グレイソンの手元が狂い、バンが蛇行する。


 カーバンクルはシートの隙間を縫うように移動し、今度は後部座席からグレイソンの首へ腕を回した。


 チョークスリーパー。

 だが、その腕力では頸動脈を締めきれない。

 彼女は締め上げるのではなく、体を支点にしてグレイソンの首を強引に捻った。


「ぐっ、がはっ……くっ!」


 グレイソンは咳き込みながら、アクセルを踏み込む。

 前方に廃棄されたコンテナ。

 衝突寸前でサイドブレーキを引き、急ハンドルを切る。


 キィィィィ!!


 バンが激しくドリフトし、コンテナの側面に車体を擦り付けながらスライドする。

 強烈な遠心力。

 固定されていないカーバンクルの体が車内で跳ね回る。


「……!」

「振り落とす……!」


 しかし、彼女は猫のように空中で体勢を立て直した。


 ダッシュボードの上に着地。

 そこはグレイソンへの最短の攻撃圏内。

 彼女の小さな拳が、正確にグレイソンの鼻梁を捉えた。


 ゴッ。


「がぁっ!」


 骨の砕ける音。鼻血が噴出し、グレイソンの視界が赤く染まる。

 彼は義手でカーバンクルを払いのけようとするが、適当な打撃では彼女には届かない。


 カーバンクルはダッシュボードを蹴り、グレイソンの懐へ飛び込む。


 鳩尾への肘打ち。

 喉への手刀。

 こめかみへの膝蹴り。


 狭い空間を最大限に利用した、超至近距離からの連打。

 一撃ごとの威力は低くとも、急所のみを狙った精密な打撃は着実にダメージを蓄積させる。


「が、はっ……! ぐうう……!」


 グレイソンは防戦一方だ。義手のブレードが邪魔になり、身動きが取れない。

 彼は決断した。

 ブレーキペダルを床まで踏み抜く。


 キキキーッ!


 タイヤがロックし、急制動がかかる。

 慣性の法則。

 シートベルトをしていないカーバンクルの体が前方へ射出される。


「……!」


 彼女は咄嗟に身を丸めたが、勢いは殺せない。

 ひび割れたフロントガラスを突き破り、車外のアスファルトへ放り出された。


 カーバンクルは受身を取り、数回転がって立ち上がった。

 ガラス片で頬が切れているが、表情は変わらない。


 一方のグレイソン。

 運転席でハンドルにもたれかかり、荒い息を吐いている。

 鼻は曲がり、顔面は血まみれ。肋骨の痛みで呼吸が浅い。


 彼は震える手でドアを開け、よろめきながら外へ出た。

 義手のブレードは折れ、内部回路がショートして黒煙を上げている。もう動かない鉄屑だ。


「……はあ、はあ……」


 グレイソンは血を吐き捨て、カーバンクルと対峙した。

 満身創痍。立っているのが不思議なほどだ。

 それでも、彼は生身の左手で拳を作った。


「まだ、だ……」


 カーバンクルが無言で歩み寄る。


「……――――!!」


 グレイソンは吼え、最後の力を振り絞って殴りかかった。


 遅い。

 カーバンクルは拳を紙一重で躱し、カウンターの掌底を顎に叩き込んだ。


「う……!!」


 脳が揺れる。

 グレイソンの膝が折れた。


 崩れ落ちる巨体を、カーバンクルは見下ろす。

 彼女は静かに右足を上げ、グレイソンの胸板を踏み抜くように蹴り倒した。


「がはっ!」


 仰向けに倒れるグレイソン。

 夜空には月はなく、工場の赤い航空障害灯だけが点滅している。


 カーバンクルが近づいてくる。逆光になったその姿は、死神のように見えた。

 グレイソンは血の泡を吹きながら、掠れた声で笑った。


「……やれよ」


 抵抗する気力も、体力ももはやない。


「俺を殺せ。それが依頼だろ……」


 カーバンクルは彼の胸元に足を乗せ、動かない。

 赤い瞳が、感情の読めない深淵の色で彼を見下ろしていた。

こういう車内でのバトルをカージツと言って、実際に競技としてあるらしいです。基本は柔術なのでカーバンクルさんみたいにボコボコ殴る蹴るしたらダメですけどね

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