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【断罪】両腕切断

 サウス区地下、アリーナ。

 今夜も300人を超える狂信者たちが、金網の外から熱狂の視線を送っていた。


 アルコールと血の匂いが混じり合う、暴力の神殿。

 スポットライトがリングを切り裂き、司会者の絶叫が響く。


「お待たせいたしました、紳士淑女、そして屑野郎の皆様ァ! 今夜のメインディッシュの時間ですッ!」


 観客が地鳴りのような歓声を上げる。


「青コーナー! アリーナ七連勝の絶対王者! その拳は戦車砲! その皮膚は要塞! ジェイク・ザ・リッパーを圧倒した殺戮マシーン! タァァァイタァァァァス!!」


 ゲートから巨体が現れた。

 タイタス。ジェイクに敗北を刻んだ歩く破壊兵器。

 彼は血に飢えた獣のように咆哮し、観客を煽った。


「誰だ! 次に俺の餌になる奴は! また手足を千切って客席に投げてやるぜぇ!!」


 観客が沸く。

 前回の試合でジェイクの腕が投げ込まれた残酷なショーは、彼らにとって最高の余興だったのだ。


「そして赤コーナー! 本日、命知らずにも飛び入り参加した謎の少年! その名も――殺し屋ハッカー、ショウだぁぁっ!」


 対照的に静かな足取りで、白髪の少年がリングインした。

 細身の体躯。だが、まくり上げた袖から覗く両腕は、艶消しの黒いチタン合金だった。


 観客席がざわつく。


「なんだぁ? ガキじゃねえか」

「おいおい、自殺志願者か?」

「タイタス、秒殺してくれよ!」


 罵声の中、ショウは冷たいエメラルドグリーンの義眼でタイタスを見据えていた。


 VIP席にて。

 レオはブランデーグラスを傾けながら、隣に座るギャングの兵に話しかけた。


「どう思う、あのガキ」

「いい改造をしてるが、ガキすぎる。パーツ取りにするには上等だがな」


 ガトリング砲の男がせせら笑う。

 レオは数時間前の出来事を思い出していた。



 ――試合開始三時間前。


 受付に現れたショウは、無表情でこう告げた。


「飛び入り参加したいんだよ。報酬はいらねぇぜ」

「あぁん? 何言ってやがる……」


 当然門前払いになりかけたが、彼の腕を見たレオが興味を持った。

 完全義体化された両腕。しかも、市場には出回っていない未知の規格だ。


「……いいだろう。タイタスの相手をしてやれ。あいつも最近、弱い相手ばかりで飽きていたところだ」

「ああ。だが条件がある」

「なんだ?」

「勝ったら、あんたと直接話がしたい。ビジネスの提案があるんだよ……」


 レオは鼻で笑った。


「ビジネス? ガキの使いか? まあいい、勝てたら聞いてやるよ。生きてリングを降りられればの話だがな――」



 ――そして現在。


 リング中央、審判が両者の間に入る。


「ルール無用。決着は死、または完全破壊のみ!」


 タイタスが金属同士をこすり合わせるような不快な声で笑った。


「おいおい、随分と華奢なオモチャが来たな。どっから千切ってほしい? お家に帰りたいって泣かせてやるよ」


 ショウは表情一つ変えず、冷淡に言い放った。


「よく喋るスクラップだな。お前の音声、ノイズが酷いぞ」

「……あァ?」


 タイタスのこめかみの血管が浮き上がる。


「前回の相手も生意気なガキだったな。あいつは手足をもがれて泣き叫んでたぜ? お前も同じようにしてやるよ!」

「ああ、聞いたよ」


 ショウの義眼が鋭く発光した。


「だから幸運だったな。お前をぶっ殺せば、依頼人も喜ぶだろ」

「何を言ってやがる……?」

「あぁ、脳筋のマヌケには理解できないことさ。ほら、どうでもいいからかかってこいよ」

「……死ねェッ!!」


 ゴングと同時にタイタスが突進した。


 圧倒的な質量と速度。

 その拳は、直撃すれば人間の頭部など容易く粉砕する威力がある。


 ドォォォンッ!


 強烈な風圧。だが、拳が当たったのは空気がだけだった。

 タイタスの目の前から、ショウが消えていた。


「なにッ!?」

「ここだ」


 背後からの声。

 タイタスが振り返るより速く、ショウの両手首から高周波ブレードが展開された。


 キィィィン……。

 耳障りな高音が空気を震わせる。


「!!」


 一閃。

 タイタスの背中の装甲板が、豆腐のように切り裂かれた。


「ぐおっ!?」


 タイタスはよろめき、信じられないものを見る目で自分の背中に手をやった。

 分厚い装甲が溶断され、内部の冷却液が噴き出している。


「なんっ、だ、そのブレードは……!?」

「軍事用の試作品だ。お前の安っぽい鉄板とはモノが違う」


 ショウは挑発的に指先を振った。


「ほら、どうした? 手足を引きちぎるんじゃなかったのか?」

「舐めるなァァァッ!」


 激昂したタイタスが両腕を振り回す。

 だが、ショウはそれを紙一重で、まるでダンスでも踊るかのように回避し続ける。

 そして、すれ違いざまに斬撃を加える。


 シュッ、シュッ、ズバッ!


 右肩、左脇腹、大腿部。

 正確無比な斬撃が、タイタスの駆動系だけを狙い撃ちにしていく。


「くそっ、ちょこまかと……!」


 タイタスの動きが鈍くなる。関節部を破壊され、オイル漏れを起こしているのだ。


「遅ぇなぁ。止まって見えるぞ」


 ショウは冷酷な笑みを浮かべる。ブレードが高音とともに震える。


「俺様は親切だからな、忠告してやるよ。――次は右腕だ」


 ショウが踏み込む。

 タイタスが迎撃の右フックを放つが、それよりも速く、青白い光刃が閃いた。


 ギャリィィィンッ!


 不快な切断音と共に、タイタスの右腕が肘から先で宙を舞った。


 ドサリと落ちる鋼鉄の腕。

 それはかつて、彼がジェイクから奪ったものと同じ部位だった。


「ギャアアアアアッ!! お、俺の腕がああぁぁッ!!」


 タイタスが絶叫し、切断面を押さえて後ずさる。


「痛いか? 前の対戦相手もそう叫んでたんじゃないか?」


 ショウは容赦なく追撃する。


「どうだ、お前もお家に帰りたくなってきたか? ……次は左腕だぜ」

「ぐ……ううううぅぅッ!!」


 残った左腕を振り上げるタイタス。

 だが、ショウの速度には遠く及ばない。

 逆袈裟に振り上げられたブレードが、左腕を肩の付け根から両断した。


「ヒィィィィィッ……!」


 両腕を失ったタイタスが膝をつく。

 あのアリーナの絶対王者が、恐怖に顔を引きつらせ、震えていた。


「ふー、弱ぇ弱ぇ。やっぱアレだな? 幻獣狩りの奴らって上澄みも上澄みだったんだな?」


 観客席は静まり返っていた。

 誰も予想できなかった一方的な蹂躙。圧倒的な暴力の差。


 ショウはタイタスの顔を覗き込んだ。


「さて、命乞いなんかするなよ? お前も闘士なんだろ?」

「ま、待て……無理、降参だ! ギブアップだ!」


 タイタスが叫ぶ。

 ショウは冷たく笑った。


「おやおや、ギブアップか。ふーん。なっさけねぇなぁ」

「ぐ……ぐっ……!」

「お前さっき、面白いこと言ってたよなぁ? 泣かせてやるとかなんとか?」

「……ッ」


 ショウはニヤニヤと笑いながら、油断なくブレードを構えグルグルとタイタスの周りを回った。


「お家に帰りたいって泣き叫んだら許してやるよ。ホラ、言え。言ってみろ!」

「く……ぐぅぅ……〜〜ッ! お、おうちに、帰りたいですッ!!」

「へぇ〜、よくできました」


 ショウが小馬鹿にした目線とともに拍手する。

 観客席からはその情けない姿にブーイングが降り注いだ。


「……あっ! すまんすまん、忘れてた!」

「……な、なにが、だ」


 ショウはわざとらしく手を打って、再びブレードを振り上げる。


「決着は『死』か『完全破壊』だったんだったな。ギブアップとかないんだったわ」

「お……おい! ふざけんな、話が――」

「つーわけで、あばよデカブツ」


 ザシュッ!


 一撃。

 タイタスの首が胴体から離れ、ボールのように転がった。

 巨体が崩れ落ち、大量のオイルと血液がリングを黒く染める。


 審判が震える声で告げた。


「……勝者、ショウ!」


 歓声は遅れてやってきた。恐怖と興奮がないまぜになった、異様な叫び声。


 ショウはブレードを収納し、血振るいもせずにVIP席を見上げた。

 そこにいるレオと目が合う。


 ショウは口角を吊り上げ、アリーナ中に響く声で言った。


「約束通り勝ったぞ、レオ。――ビジネスの話をしようか」


 レオの手からグラスが滑り落ち、床で砕け散った。

ショウくんは噛ませとかじゃないんですけど、幻獣狩り連中がまっとうに強かったというか それを上回るカーバンクルさんもまっとうに強かったというか

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