第9話 近所
ここへ引っ越してきて間もなく、幸助の病弱さは穏やかに回復して、外で遊ぶことも多くなった。
近所には遊び仲間ができた。幸助たちより三日あとに引っ越してきた家の兄弟だった。すぐに幸助はその兄弟と仲良くできたのだが、孝道は、彼らとは仲良くできなかった。
「あんな我がままとよく遊べる」
孝道はそんなことを言っていたが、幸助は一度もそんなことを思ったことはなかった。人が周りで楽しそうに遊んでいても、それを邪険にするような奴だとしか思えなかった。しかし、確かに幸助は彼らと表向きは仲良くしていたけれど、孝道の言うとおり、彼らは幸助と仲良くしたいのか、そうでないのかはよくわからなかった。ただ幸助にとっては、単に楽しく遊べる友だちができたということだけで嬉しかった。引っ越してくる前の団地では保育園に通っていた幸助だったが、そこでの人付き合いは病弱なゆえに皆無であった。そのために彼はそんな人を選べるほど偉そうな考えはしていなかったし、ほかに仲良くしてくれる子も周りにはいなかった。彼は確かに自らが一方的に人付き合いをしようと取り繕いつつ、また、彼ら兄弟も同じように幸助との仲を取り繕う言い訳がましさを感じた。ようするにほかに遊べる友だちがいないのはお互い様だった。けれどもそれはむしろ、なにも気にすることはないということでもあった。
しかし孝道の言うとおり、近所の兄弟との遊び相手としての関係は長くは続かなかった。幸助はボールを壁にあてて遊んでいる時に、彼ら兄弟の弟の顔にそのボールを強く当ててしまった。翌日、謝るために彼ら兄弟の家のインターホンを押しても、弟は玄関から顔を出す様子もなく、ただ兄の方だけが出てきて、謝ったところでちゃんとできないだろうと言ってすぐ家の中へ引っ込んでしまった。その後も関係は元には戻らなかった。その日を過ぎてから、家の前の通りには家の陰だけが在って、あとは殺風景そのものだった。
――勝手だ。と思いながらも、幸助自身も悪いのだと感じた。そしてこんな白々しさはいつも家で慣れっこだった。幸助はそのことには気に留めることもせず、その後すぐに幼稚園に行くことになった。




